愚弟はいかにして泥沼に嵌ったのか

 遡ること数年前、うっかり犯罪に巻き込まれ、裁判所にまで呼ばれた愚弟。


 今現在、上場企業の営業職。成績はそこそこ。

 明るく面倒見の良い青年。

 身長174センチ。顔もそこそこ。

 愛想は非常に良い。

 趣味はランニング。

 友達はそこまで多くないが、家に泊まりで遊びに来るような仲の良い旧友も居る。

 私の友人からの評判も良い。

 学生時代に自殺未遂歴あり。かつて鬱病だったが寛解。


 ……意外じゃないか?


 そうである。

 今の愚弟、姉が言うのも難だが、パッと見だけで言うとごく普通の好青年なのだ。


 じゃあ当時はどんな愚弟だったのかと言うと。


 中小企業の営業職。成績トップ。実家暮らし。

 以下同文。


 ……これでまさか犯罪の片棒を担がされてるとは思うまい。

 ちなみに私は嫁に出てしまったので、会うのは二年に一回くらいだった。今は週一で電話している。


 さて、愚弟の事件については、個人情報なのと、実はまだ主犯と法廷ですったもんだしていたりもするので、詳しくは書けない。


 詳細が分からない範囲で、流れをざっくり書こうと思う。


 愚弟の(旧)TwitterにDMが入る。「めっちゃいいバイトあるんですけど一緒にどうすか? 名前貸すだけ××万です!」

 ↓

 愚弟(ド金欠)「えっマジすか!  やっちゃおっかな!」(は?)

 ↓

 ××万入金される。

 ↓

 在宅起訴される。(え?)

 ↓

 裁判の結果何とか切り抜けるも、「国」から×××万(主犯から受け取った金額の三倍くらい)一括で返納せよと言われる。

 ↓

 まとまった金額過ぎて払えず、利息がどんどんつき、お姉ちゃん(私)に泣きながら電話する。

 ↓

 とりあえずお姉ちゃんが立て替えて国に返納する。

(夫に土下座した)

(郵便局で支払う時あまりの金額に手が震えた)

(ちなみに将来子どもができた時の為の学費として貯めているつもりだった。悲しい)

 ↓

 お姉ちゃん銀行(私)に分割で返済中。


 要するに、ものすごく馬鹿なので犯罪行為の片棒を担がされた訳だ。

 その後主犯が捕まったと。


 私は愚弟に言った。

「お前『騙された』って言うけど、正直悪い事してる自覚はあったろ、被害者面してんじゃ無ぇよ」

「はい、すんません」


 ええ。詳細が分からなくても愚弟が愚弟なのは分かっていただけたのでは無いでしょうか。

 詳しい人だと何となくどんな事案か分かると思うのですが、「アレですか?」的なコメントはご勘弁を。


 当時は「なんて事をしたんだこの愚弟!」と叱った訳だが、今となっては「誘われたのが強盗じゃなくて本当に良かった」と思い、肝が冷えている。

 愚弟も多分「ホワイトなバイトをするつもりで、気が付いたら強盗になっている」パターンの奴だ。何せ馬鹿である。目に浮かぶ様である。


 愚弟は言う。

「今強盗致死で捕まってる奴らは、違う時間軸の俺だ」


 たまたまその時流行っていた闇バイト(当時は闇バイトなんて言葉は無かった)が、お国にお金を返す様な事で済む内容だった。それだけだ。


「強盗殺人」だったらもう家族は何も出来ない。

 警察に付き添い、生涯をかけて罪を償うように促すくらいしかできないのだ。


 さて。

 愚弟はどうして「明らかに怪しいバイト」に飛びつく程金に困っていたのか。

 これもまたしょうもない理由なのだ。


「だって、俺ぐらいの年の奴らは身だしなみにも気を使うし、タバコも吸うし、投資したり旅行したりもするじゃん」


 ……びっくりするくらいしょうもない。


 当時、愚弟の言い訳はこうだった。

「上司が『若い時は借金してでも色んな経験しなきゃダメだ』って言うから」


 ……びっくりするくらいしょうもない……恥ずかしい……姉の私が恥ずかしい……


 要するに、「足りない分借金する生活」をしていたのである。

 ちなみに過去にパチンコにハマり、一度債務整理もしているので自分のカードを持てない。(パチンコは止めた)


 時すでに愚弟。


 実は裁判から私に泣きつくまで一年くらいラグがあり、その間も愚弟は借金を増やしていた。

 先程言った通り信用情報は真っ黒かので、自分ではカードを作れない。なので母親に借りた家族カードと、携帯会社か何かの後払い決済を使っていた。

 あとは街金。こんな信用情報真っ黒なのにどうしてお金貸しちゃうの……?

 自分のクレカが無くても、借金をする方法はいくらでもある、というのも怖い話だ。


 正社員の営業職で給料はそこそこ貰っているのに、身の丈に合わない暮らしをしているせいで返済に追われる生活。その中で飛び込んできた「美味しい話」。

 人間、借金で首が回らなくなるとまともな判断がつかなくなる。そんな瞬間があるのかもしれない。


 尚、現在、私に返済をさせつつ、引っ越させたり転職させたり家計簿つけさせたり給料日に用途毎にお金分けさせたりと色々教育して、愚弟はカードも後払いもなるべく使わずに、お給料の範囲で慎ましく生活をしている。

 止むを得ずカードを使う時は、私と母に利用用途の連絡をしてくる。

 三年後くらいには借金も綺麗になる予定だ。今はそんな感じで何とかやっている。


「いや、お前んとこの愚弟やばすぎるだろ」


 そう思いますか?

 まあそうなんですよ……ほんとすいませんお世間様に手を着いてお詫びいたします。大変申し訳ございません。


 しかしながら、愚弟がやらかした数年前に比べて、借金はもっと手軽に、身近なものになっている。


 お金に振り回される子供達。

 

 所謂「後払いサービス」など、借金の方法の多様化だ。


 次回はそのあたりをお話しよう。

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