黄金の左脚
黄金の左脚を持つシンは、アジアで最も価値のあるフットボーラーとして一躍有名になった。
U18大会で圧倒的な成績を残した彼をヨーロッパの舞台に引き上げようと、とあるクラブでは幹部3人が話し合っていた。
「是が非でも獲得したい才能だ!」
テーブルの中央に座る初老の男が力強く言い放った。
「まったくだ。アジア市場へのマーケティング効果は計り知れない。スポーツとしてもビジネスとしても完璧な選択だ」
左隣に座る若いメガネの男も同調し、予算案に賛成の判を押そうとした。
その瞬間、右に座る女幹部がペンを置いて言った。
「わたしは反対ですね」
「反対? どうしてだ?」
「彼は大成しないと思います」
冷静な態度で言い切る彼女に、二人の男は不信感を露わにした。
「その根拠はなんだ?」
「彼の黄金の左脚を見ただろう? 10年に1人の才能だぞ!」
女幹部は微笑みを浮かべながら応えた。
「そうですね……その『黄金』という言葉が気になります」
「どういうことだ?」
彼女はシンのプロフィールを指差した。
「彼の出身国はどこでしたっけ?」
二人が資料を見下ろすと、そこには大きく「中国」の文字が記されていた。
「中国製の『金』が本物である確率は?」
沈黙が流れる中、二人の男は顔を見合わせ、ため息をつきながら資料にバツ印を描いた。
女幹部は静かに予算案にもバツ印を描こうとしたが、ペンのインクが途中で止まってしまった。
「……これも中国製ですね。」
ショートショート集 ぶらんこス @Blancos
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