純情な幼馴染が俺に好意を寄せているみたいなので弄んでみた結果

久野真一

純情な幼馴染が俺に好意を寄せているみたいなので弄んでみた結果

 電話が鳴ったのは夜の十一時過ぎ。布団でぬくぬくしながらスマホをいじっていた俺の耳に、昔の名作アニメ映画でおなじみのメロディが響く。


「もしもし。秀樹ひでき?」

麻衣まいか?こんな時間にどうしたんだ?」


 画面を確認すると、クラスメイトの村瀬麻衣むらせまいからだった。彼女とは中学の頃からの友人で仲が良い方だが、こんな時間に電話をかけてくることは珍しい。


「ごめん。こんな時間に」

「いや、まだ起きてたから大丈夫だけど」


 少し申し訳なさそうな声。麻衣は単なる世間話でこんな時間に電話をしてくるような子じゃない。一体どうしたんだろうか。


「単刀直入に言うね。エリ・・ちゃんがね、秀樹ひできのこと好きみたいなんだけど」


 エリちゃんという愛称で呼ばれているのは、俺の同級生で幼馴染の二岡恵利ふたおかえりのことだ。


「は?」


  思わず素っ頓狂な声が出てしまう。脳裏に浮かぶのは、小柄な体格に大きな瞳、肩まで伸びた艶のある黒髪が印象的な彼女の姿。いつも制服の襟元にさりげなく着けている小さな四葉のクローバーのブローチ―昔、俺がプレゼントしたものだ―が、彼女の清楚な雰囲気を一層引き立てている。


「今日のお昼休み、エリちゃんと私、教室から居なくなってたでしょ」

「そういえば……」


 いつもの穏やかな表情とは違って、何か言いたげにもじもじしていた恵利の姿が思い出される。仲の良い二人のことだ。何かしら相談事でもあるのだろうとは思っていたけど。


「その時、秀樹のこと好きかどうか探ってみて欲しいって相談されたの」

「いやいや、ちょっと待って」


 頭の中が真っ白になる。恵利が、俺のことを?


「エリちゃん、秀樹のことをずっと気にしてたみたいでさ。でも、告白する勇気が出ないから気持ちを聞いて欲しいって頼まれたの」

「なるほどな……」


 俺と恵利は小学校からの付き合いだ。両親同士も親しく、小さい頃から一緒に遊んだり勉強を教えあったり。真面目で物静かな性格で、恥ずかしがりなところのある彼女のことを、俺なりに好ましく思っていたのは確かだ。


 でも、どこか一線を越えられないでいた。それは彼女も同じだったらしい。


「それで、秀樹はどう思ってるの?」


 麻衣の質問に、俺は少し考え込む。正直に答えるべきか、それとも―

 そのとき、俺の中に一つの邪念が芽生えた。

 後からすれば、本当にどうかしてる考えが。


(恵利を弄んで反応を見てみたい)


 ちらりと目を伏せる仕草や、頬を赤らめながら俯く姿。そんな彼女の反応を見るのが、なんだかたまらなく楽しそうな気がしてきた。俯いたときに長い睫毛が影を作る様子や、耳まで真っ赤になる表情を想像すると、胸の奥が熱くなる。


 俺はSだったんだろうか。


 最終的には気持ちに応えるつもりだけど、それまでの間、可愛くてそれでいて純情な彼女を弄くって反応を見てみたいだなんて。そんなどうしようもないことを考えている自分に愕然としてしまう。

 

「そうだなあ。あいつのことは嫌いじゃないけど」


 わざと曖昧な言い方をしてみる。


「それって好きってこと?」

「どうだろう。好きか嫌いで言えば好きだけど」


 麻衣の追及をかわしながら、俺は内心で悪魔のような笑みを浮かべていた。


「はっきりしないわね。あなたも恵利のことは満更じゃないように見えたけど」


 恵利ほどじゃないにせよ彼女とも付き合いは長い。なかなかによく見ている。


「なんていうか昔からの付き合いだから、兄妹みたいなもんっつーか……」


 幼馴染もののテンプレートのような台詞をあえて言ってみる。


「なんだか釈然としないけど……エリちゃんにはそう伝えていいの?」


 その確認に少し迷ってしまう。だって、お世辞にも褒められた態度ではないのは俺自身自覚があったから。でも、その誘惑に抗うことはできそうになかった。


「ああ。もちろん、別に異性として見られないとかそういうわけじゃないからな」


 お断りの方向だと勘違いされたら困る。だから、あえてそう念押ししておく。


「……好意が多少でもあるなら、付き合ってみればいいと思うんだけど?」


 親友としては納得がいかないんだろう。それはよくわかる。


「頼む。俺なりの誠意なんだよ」


 どこが誠意だよと内心で自分に毒づく。


「了解。秀樹が嘘つける性格じゃないのはよく知ってるしね」

「理解してくれて助かる」


 うう。心が痛い。


「でも、これ伝えたら明日からあの子、猛アプローチしてくると思うわよ」

「……ま、まあそうだろうな」


 内気でおとなしいけど、一度決意したら一直線。恵利はそんな女の子だった。昔のことだけど、両親を説得して、小学生限定の北海道ツアーに行くなんてことをやってみせたこともある。


「あの子のこと、ちゃんと見てあげなさいよ」

「そこは約束する」

「ならいいわ。それじゃ、おやすみ」

「ああ。おやすみ」


 電話を切った後、布団の中で俺は少し考え込んだ。


 これから恵利がどんな反応を見せるのか。純情な彼女が一生懸命アプローチしてくる様子を見るのも、なかなか面白そうだ。


(やばいな、俺。でも、もう止まれない)


 こうして、俺のちょっとばかり邪悪な計画は動き出した。


 翌日。


  いつもより少し早めに登校すると、下駄箱の前で恵利と出くわした。長い黒髪に栗色のカーディガン。いつもと違って、薄っすらとしたメイクが瞳を一層印象的に見せている。


「おはよう、秀君」


 いつもより少し上ずった声。頬を僅かに赤らめている。


(おお、可愛い)


 最初から好いてくれているとわかってみると、やはり違う。

 

「よう、おはよう」


 そんな内心を出さないようにしながら、さり気なく彼女の様子を窺う。

 制服のスカートが少し短くなっているような気がする。

 元々すっぴんだったはずだけど、薄っすら化粧もしているような?

 もしかして、俺のために?


「あの、これ」


 恵利は紙袋を差し出してきた。開けてみると、手作り弁当が入っている。


「久しぶりにお弁当を作ってみたんだけど。良ければ試食にでも……」


 あまりにも可愛らしい理由づけだ。

 俺の悪戯心に火が付く。


「へえ。恵利が俺のために作ってくれたの?」


 わざと少し声を弾ませて言ってみる。


 案の定、恵利の頬が更に赤くなった。


「秀君のためっていうか……。味は保証出来ないけど……」

「きっと美味しいよ。恵利の料理なら間違いない」


 お世辞でもなんでもない。彼女の料理の腕前は確かだ。

 でも、素直に「ありがとう」と言うところを、あえて褒め殺しにしてみる。


「そ、そう?ありがと……」


 嬉しそうに俯く恵利。

 こんな純情な反応をされると、余計に意地悪したくなってしまう。


「じゃあ、教室行こうか」

「う、うん!」


 二人で階段を上がりながら、俺は内心で不思議な高揚感と彼女を騙している罪悪感の間で葛藤していた。


(俺ってこんな変態だったっけ)

 

 好意を寄せてくれている幼馴染を弄ぶなんて、どう考えても最低だ。

 でも、この可愛らしい反応を見ると、どうしても止められない。

 そんな背徳的な快感があった。


 昼休み。


 人の居ない空き教室で弁当を開けると、俺は思わず息を呑んだ。


「これは……」


 きれいに詰められた和食のお弁当。

 焼き鮭に卵焼き、ほうれん草のお浸し。

 どれも丁寧に作られていて、見た目も味も申し分ない。


「どう?食べられそう?」


 隣の席から恵利が心配そうに覗き込んでくる。

 

「ああ。いや、これ半端ない出来だよ。プロみたい」


 また褒め殺し。

 でも本当に、見事な出来栄えだ。


「よかった……結構早起きして作ったから」

「そっか。ありがとうな」


 素直に礼を言いつつ、さりげなく距離を詰める。


「う、うん……どういたしまして」


 顔を赤らめつつ、どこか嬉しそうだ。


「あ。もうすぐ次の授業だな。行こうぜ。お弁当美味しかったぜ」


 あえてそっけなく言ってみる。


「そ、そうだね……」


 あからさまに肩透かしといった様子だ。

 その様にまた罪悪感と不思議な高揚感を覚えてしまう。


(父さん、母さん。ごめん。俺はとんだド変態だったみたいだ)


 まだ生きている両親に心の中で謝る。


 放課後。下校時刻を少し過ぎたところで、恵利が俺の机に近づいてきた。


「あの、秀君。今日の帰り、よかったら」

「ん?ああ、一緒に帰ろうか」


 待ってましたとばかりに食いつく。

 恵利の目が一瞬輝いた。


「うん!実は、商店街に新しくケーキ屋さんが出来たんだって」

「へえ。恵利、甘いもの好きだもんな」


 そう言いながら、俺は彼女の横顔を眺める。

 本当に、可愛いな。


「そうなの。評判も良くて。それで、その……一緒に寄ってみない?」


 彼女の声が少し震えている。

 かなりの勇気を振り絞ってデートに誘ってきたのだろう。


「いいよ。付き合うよ」


 二つ返事で答えてみる。

 案の定、恵利の表情がぱっと明るくなる。


「本当!?やった!」


 心の中で、また意地悪な笑みが浮かぶ。

 こうやって期待させておいて、少し引くのだ。

 そんな意地悪な計画を練りながら、商店街まで歩いて行った。


 ケーキ屋は確かに賑わっていた。

 ガラス張りのショーケースには、色とりどりのケーキが並んでいる。


「私、あのイチゴのショートケーキが気になるな」

「じゃあ、俺が奢るよ」

「え!?いいの?」

「たまには可愛い幼馴染に、いいとこ見せとかないとな」

「も、もう。秀君ったら」


 嬉しそうに笑う恵利。

 照れ隠しに軽くおでこを叩いてくる仕草も様になっている。


 店内のカウンター席に座って、ケーキを前に少し距離をとって向かい合う。

 近すぎず、遠すぎず。


「あ、秀君。ホイップクリームついてる」

「ん?どこ?」

「ここ」


 恵利が差し出したハンカチで、俺の口元を拭う。

 それだけの仕草なのに、彼女の頬が赤くなっている。


(もう、たまらないな)


 意地悪な気持ちと、本当に可愛いと思う気持ちが混ざり合う。


「ねえ、秀君」

「なに?」

「私のこと……どう思う?」


 突然の質問に、内心で苦笑する。

 ここで素直に答えてしまったら、楽しい時間が終わってしまう。


「どうって?」

「その、あの……友達だけじゃない何かっていうか……」


 もじもじと視線を泳がせる恵利。

 本当に、一生懸命だ。


「恵利は大切な幼馴染の女の子だよ」


 あえて、はぐらかすような答え方をする。

 大切な幼馴染ならさっさと応えてやれよと心の中の良心がツッコミを入れる。


「そう、だよね……」


 少しだけ寂しそうな表情を浮かべる恵利。

 かわいそうなことをしているな、と思いつつも、この反応が見たかった。


「でも、嫌いじゃないってことでいいの?」

「ああ。むしろ好き……な方かな」


 また曖昧な言い方。

 でも、この「好き」という言葉で恵利の目が輝くのがわかる。

 その様に心が満たされていく。


 その夜のこと。再び麻衣から電話があった。


「エリちゃん、今日のこと嬉しかったって。よかったじゃん」

「まあな」

「ねえ、秀樹って既にエリちゃんのこと好きなんじゃないの?」

「本当に考え中だって」

「大切な幼馴染ならあんな態度をとるかしら」


 麻衣の言う通りだ。

 明らかに気がある男の振る舞いだし、それ以外にとる方が無理なくらい。


「幼馴染だからさ。ちょっと独特な距離感なんだよ」


 幼馴染だから。普通ならありえそうにないことでも、このマジックワードで解決。


「やっぱり釈然としないけども。前向きに検討中ってことでいいのよね」

「ああ。そこは間違いない」

「あんまり待たせないようにね」


 「待たせないように」か……。


(でも、もう少しだけ恵利の反応を楽しんでいたい)


 本当にどうしようもない。

 下手したら、この振る舞いだけで愛想を尽かされてもおかしくはない。

 それでも、どうやら俺は止めることができそうにない。  


 次の日から、恵利は毎朝お弁当を作ってきてくれるようになった。

 俺はその都度、褒め殺しのような言葉を投げかける。


「今日のハンバーグ、レストランみたいだな」

「本当?よかった……」

「うん。恵利は将来、奥さんになったら幸せだろうな」


 奥さん、という言葉に恵利が真っ赤になる。

 でも、その誰かが自分かどうかは、あえて濁しておく。

 こんな状態が一週間ほど続いた頃。

 俺のスマホに一通のメッセージが届く。


『秀君、今日放課後、屋上で話があります。来てくれますか?』


 恵利からの直接のメッセージだ。

 しかも、普段使わないような丁寧な言い回し。


「まさか」


 告白、だろうか。ありえる。というかたぶんそうだろう。

 気を持たせるようではっきりしない俺に向けて返事を迫る。

 長期戦が苦手な彼女らしいとも言える。 


『わかった。放課後、屋上な』


 返信を送った後、俺は少し考え込む。

 こんな意地悪な態度はさすがに止めにした方がいいのかもしれない。


(いや、もう一押し)


 最後の意地悪をして、彼女の本気の気持ちを確かめてみたい。

 そう考えながら、時計の針が放課後に向かって進むのを眺めていた。


 放課後の屋上。

 十一月も後半に差し掛かり、風が冷たい。


「来たぞ」


 扉を開けると、フェンス際で下を眺めている恵利の姿があった。

 いつもの柔らかな雰囲気は影を潜め、どこかピリピリとした感じすらする。


「秀君。ここ最近の態度は一体全体どういうこと!?」


 振り向いた彼女の瞳に、怒りの色が宿っていた。

 いつも気弱な彼女らしくもない。

 そんな表情はいつか……大昔に見たものだった。


「ん?どういうことだ?」


 あえてシラを切ってみる。


「らしくないよ」


 らしくない。その言葉にギクっとなる。


「麻衣ちゃんから聞いた話だと、私は「大切な幼馴染」なんだよね?」


 ああ。そうか。しまった。

 嘘設定を貫き通す上での致命的な矛盾だ。

 

「秀君は、大切な幼馴染さんに、歯の浮くような言葉をかける性格だったかな?」


 まっすぐに俺の目を見る恵利。

 いつもの臆病な彼女からは想像もつかない強さがあった。


「そ、それは……俺なりに……」


 さすがにこれ以上の嘘はつくのは罪悪感がある。


「ねえ。私のことからかってない?」

「あ。いや、さすがにからかってるなんてことは……」


 まずい。たしかに、端からみれば好意を弄んでるようにしか見えない。

 意地悪をしたときの反応が可愛いと思ってましたとか、普通は思いつかないし。


「ねえ、秀君。さすがに分かってるでしょ!お弁当作っても、デートに誘っても、何にも答えてくれないのに、言葉では私のことずっと期待させて……!」


 思わず一歩後ずさってしまう。

 彼女の声には、怒りと同時に悔しさが混ざっていた。


「私ね、その……秀君のこと好きなの。ずっと好きだったの!」


 大きな声で恵利が告白する。

 校舎に響き渡るような、そんな声だった。


「だから、こんな風にされるの、すっごく悔しいの!もし弄ばれているとしても、それでも好きだから……!」


 声が上ずり、涙が零れ落ちる。

 けれど、まっすぐに俺を見つめる眼差しは逸らさない。


(なんて、バカなことしてたんだろう)


 目の前で涙を流す恵利を見て、自分の愚かさを改めて痛感する。

 単なる悪戯のつもりが、こんなにも彼女を傷つけていた。


「恵利……ごめん。本当に、ごめん」


 心からの謝罪の言葉を口にする。


「謝罪はいいよ。秀君の本当の気持ちを教えてよ!」


 本当の気持ち。それはもちろん……。


「実のところいうとさ。俺も恵利のことが好きだ。ずっと前から」

「え……?じゃあ、どうして……」


 縋るような目線。俺のどうしようもない性癖をばらさなければいけないのか。

 下手したらこの時点で愛想尽かされても文句は言えないぞ。

 でも、さすがにこれ以上は……。


「なあ。これは本当に軽蔑されるかもしれないことなんだけどさ」

「け、けいべつ?」

「ああ。軽蔑するようなことだ。何故なら……」

「う、うん」

「麻衣から聞いたときに思ったんだ。気を持たせたら、可愛い反応をしてくれるんだろうって」


 とうとう言ってしまった。


「え?……」


 きょとんとした表情でフリーズする彼女。


「本当にすまん。軽蔑されても仕方がない。振られても仕方ない。ただ、俺の中のSっ気というか、なんかただ弄くってみたときの反応を楽しんでからというか……」


 別の意味で顔をまっすぐ見られない。


「ねえ。今の秀君の言ってることが本音だってわかるよ。いつもの声色だから」

「お、おう。理解してくれて助かる」

「で、でもね。長い付き合いでもね。性癖でした、なんて。わ、わかると思う?」

「思わない」


 表情から怒りの色は消え失せていたけど、今度はどんな表情をすればいいやら。

 そんな様が手に取るようにわかる。


「わ、私はね。この一週間、すっごく悩んだんだよ。好いてくれてるのかな。それとも……って毎晩ずっと考えてた」

「いくらでも詰ってくれ。さすがに自分でも擁護できない」


 素直に応えておけば良かったのに……なんて言っても後の祭りだ。


「その……一つ、聞いてもいい?」


 と思ったら、何やら急にもじもじとし出した。んん?


「秀君からみて。私の反応はその……そんなに可愛かった?」

「え」

「だって。その……好きだから、そうしてみたくなったてことでしょ」

「それはそうだが」

「だから、私の反応が可愛く見えたのなら、嬉しいと思います、思う」


(さすがに予想外だろ)


 思わず心のなかで呻く。


「もちろん、凄く可愛かったよ。もうちょっと楽しんでいたくなるくらいには」

「なら、良かった」


 ふと、小柄な体に不釣り合いな力で抱きしめられる。そしてそのまま……チュっと水音がしたと思ったら、柔らかな唇を押し付けられていた。甘いリップグロスの香りが鼻をくすぐる。


「……」

「私のこと弄くった罰」


 思わず顔がほてるのを感じる。


「罰になってないだろ。むしろご褒美だ」


 恥ずかしくて彼女の顔がまっすぐ見られない。


「ふふ。今は本当に照れてるよね」

「ま、まあ。それは……」

「今回は許すけど。もう同じようなことしないでね?」

「しないけどさ。もし、したら……?」

「そのときは……お詫びにいっぱい優しくして欲しい」

「りょ、りょうかい」


 しばしの間抱き合っていた俺達。


「よしっ。帰ろっか。もちろん一緒にね」

「ああ。これで晴れて恋人同士か」


 手を繋ぎながら屋上を後にする。


「秀君がこんな変態さんだったなんて……これから先が思いやられるよ」


 呆れつつもどこか嬉しそうな声。


「言わないでくれ。俺自身も後悔してるよ」

「でもね。今回みたいなのじゃなければ……イジワルしてもいい、よ」

「え」

「だって。私も別にイジワルされるの嫌じゃない、し」

「ひょっとしてお前も……」

「うん。たぶんちょっと変態さんなんだと思う」


 どこか晴れ晴れとした表情で言う最愛の彼女。


「本当に、お互い先が思いやられるな」


 そんな馬鹿みたいな会話が11月の秋空に響いたのだった。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

超久しぶりの短編更新です!

思いついたちょっとアレなネタを思う存分ぶち込んでみました。

ちょっとおかしな二人の様子を楽しんでいただけたら幸いです。


テーマは……「変態」といったところでしょうか。


楽しんでいただけたら、★レビューや応援コメントなどくださると嬉しいです。

☆☆☆☆☆☆☆☆

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