抱腹

とりたろう

抱腹



 君の身体を開いたら、腐った肉がギッシリと詰まっているんだろう。なぜなら君は、すぐに人を疑うからだ。

 三十年近く積み上げてきたらしい"哲学"という名の君の城は、君にとっては大層なモノらしい。けれど、僕から見たそれは、城なんて呼べやしない。ドアも無ければ窓もない、君一人しか住むことができないスペース。だというのに、周りには大砲を並べ、針山なんか築いてる。君の言う城はまるで要塞のようなものだ。

 君は随分と傷付くことを恐れているのか、人を信じられないのか、基本的に君は人を迎え入れようとしない。その癖、君は誰かと分かり合うことを喉の奥から手が出るほどに渇望していた。だから時折、本当に稀に人を迎え入れようと試みた。僕のことも、君の要塞に迎え入れよとうしていたね。

 君は結局分からなかったみたいだけど、誰かと分かりあうということはハグをするようなものだ。言葉の応酬という名の、ハグ。それでも、少しのトゲに君は過剰と言える防衛を行ってきた。自分を守るということは、相手に攻撃されたというサインを送ってしまうことにもなる。傷つけられた、追い詰められた、苦しめられた。君はそうやって被虐的な言動を続けては人と分かり合うことから逃げてきた。その事実は度し難いほどの苦痛があったんだろう。だから君は、要塞を築きあげて独りで生きようとしていた。人との間に線を引き、そこを超えることを絶対に許さない。それでも独りに耐えられなくて、また人を迎え入れようとする。だけど、人とまともに触れ合ってこなかった君は、びっくりするくらいコミュニケーションが取れなかった。簡単に想像が着くよ。だって、君は人に自分の中身を見せて来なかったじゃないか。それなのに、突然深い所で繋がろうとした。恋愛をまともにしてない癖にセックスだけをしようとしてるみたいで気持ち悪い。自分が期待してることだけと、快楽だけを求めることは同意義だって僕は思ってる。

 人一倍孤独を癒したくて、人一倍自身で築き上げた全てが尊いと思っている君は、常に唯一無二でもありたいと思っているのが見え見えだった。何者かになる必要なんかないのに、何者かになることに固執して、自分の生き様には手を伸ばされるほどの威光があると信じている。だからこそ、君は人を疑い、素晴らしい自分の哲学を盗んだ、自分が死ぬ物狂いで築いて来た生きるための思想をまんまと横取りして踏み台にしやがったとすぐに怒るんだ。良くも悪くも、君は過敏な人だよね。

 僕はね、君の生き方や考え方が好きだった。

 好きだったけど、君の腹の中が煮えたっている音が聞こえてきた。

 君はいつもみたいににこやかに、丁寧に接してくれている。でも言葉の端々に軽蔑の色が見えたんだ。まるで盗人でも見ているかのような口ぶりが現れる。それで、すぐにそれを隠そうとする。隠す努力をしないといけないくらい君は抑えきれなかったんだと何となく察した。

 

 僕は、君が今でも面白い人だったなと思っているよ。それでも、同じくらい憐れみを感じざるを得ない。

 同情は決してしないけれど、誰でも極悪犯罪者にならなければいけなかった人間の酷い生い立ちを聞けば、多少の憐れみを感じた事はあるでしょう。

 君には、それと同等の憐れみを感じている。

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