姉ちゃん

久石あまね

僕の姉ちゃん

「達彦のせいやっっちゅうて」


 僕は姉ちゃんと5歳離れている弟だ。


 姉ちゃんは悪いことをするといつも僕のせいにしてくる。いわゆる濡れ衣を着せてくるのだ。


 昨日は、姉ちゃんが野良犬に石を投げたのを、僕が命じたせいだと言った。もちろん、僕はそんなこと一言も言っていない。


 一昨日は、姉ちゃんが打ち上げ花火を水平に打ったのを、僕が命じたせいだと言った。


 姉ちゃんは変わり者で、いつも危険な行動をとる。


 この前は野良猫の尻に辛子を塗った。辛子を塗られた野良猫は真っ直ぐ走って行ったそうだ。


 姉ちゃんは何をするかわからない。 


 でも姉ちゃんは僕には何もしてこなかった。


 姉ちゃんは僕を可愛がった。


 小6の姉ちゃんは小1の僕のランドセルを、「重たいやろ」と言い、代わりに持ってくれた。


 姉ちゃんと姉ちゃんの友達とする、鬼ごっこに僕はいつも誘われた。そして姉ちゃんは僕が鬼にならないように事前に友達に話をつけてくれた。僕はそのおかげで楽しく鬼ごっこができた。


 そんな姉ちゃんは高1のとき、交通事故で死んだ。


 姉ちゃんはバイクで僕を駅まで迎えに来るときに、トラックに跳ねられた。即死だった。


 姉ちゃんはいつも豪快だった。


 そんな姉ちゃんがこんなに早く死ぬとは思わなかった。


 僕が姉ちゃんが死んだ高1になり、姉ちゃんの立場がよくわかった。姉ちゃんにも悩みがあり、思春期真っ只中の恋があっただろう。そして青春を楽しみ、結婚もしたかもしれない。仕事につき、大人への階段を一歩一歩、歩んで行っていたに違いない。


 この前、姉ちゃんの同級生を駅で見た。綺麗な美人になっていた。僕の姉ちゃんは美人ではないが、それなりに女性らしくなっていただろう。


 そんな大人になった姉ちゃんを想像すると、心がはち切れそうになった。


 僕の姉ちゃんは永遠に高1のままだ。


 でも姉ちゃんは僕の永遠の姉ちゃんだ。


 たとえ、僕が大人になろうと。

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姉ちゃん 久石あまね @amane11

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