第9話 予期せぬ再会

魔具屋を飛び出して俺は走っていた。

近くにいる…!

ドラゴンの血を持った奴が!


ドラゴンの血が共鳴する方へ走ると、人気はどんどん減っていき、建物も廃墟が目立つようになってくる。

テントのような人が住んでいるのかもわからないものや、生気のない目で座り込んだ人々…いかにも無法地帯といった雰囲気がする。


ドラゴンの血の瓶はそんな場所の建物の一つの前で大きく共鳴した。

壁は剥がれところどころ崩れて木材で不細工に修理されている。窓は割れて内側から板が貼られている。ひどい状態だが人が住んでいるのだろう。


ドアを破ろうかと手を当てた俺は僅かに空いているのに気づき開けた。


「ヘルメス?!」

「…マーティ?」


慌てた様子で巨体をゆする、以前一緒にミッションへ行った無免許戦士のマーティがいた。


「ヘルメス!よかった!頼むヘルメス、姉ちゃんを助けてくれ!ヘルメスの魔法で助けてくれ!」


マーティの声は震え、彼の巨大な体が今にも崩れそうな積み上げた石のように見えた。マーティがドラゴンの血を持っていただけでなにがなんだかわからないが、なにやら事態は深刻らしい。


「どういうことだ、マーティ?」

俺は戸惑いながらも部屋を見渡すと、荒れて散らかった部屋の向こうには粗末なベッドがあり、ひどく痩せた女性が横たわっていた。彼女の顔は青白く、汗に濡れた額が光っている。


「姉ちゃんが…病気で、それで俺金が必要で、でもどうにもならなくて、それでその」

「それで…ドラゴンの血を飲ませたのか?」


口下手な要領を得ないマーティの説明を遮って俺は単刀直入に聞く。


「ああ、そうだ」


彼は震える声で頷く。


「そうだ…でも、これしかなかったんだ!でも姉ちゃんが苦しみだして…俺は」


その瞬間、ベッドから微かなうめき声が聞こえた。俺は彼を押しのけるようにして部屋に入り、横たわる彼の姉を観察した。彼女の身体は痙攣し、血管が異様に膨張して見える。魔力の反発を感じる。ドラゴンの血と、本人のもの?


「お姉さん、魔術師だったのか」

「ああ」


治癒魔法でなんとかできるだろうか?それともドラゴンの血を摘出…?いやそんな繊細なことはできない。どうすれば…?


「あっ」

「どうした、ヘルメス?」


ないよりはマシだろうと治癒魔法をかけようと手を出すと、彼女の体内の魔力が共鳴したかのように反応した。


「これならいけるかもしれない…!」


俺は彼女の手を握ると魔力を少し開放する。彼女の身体は俺が放った魔力を吸い取った。


「いけるぞ!」

「頼むヘルメス!」


俺はそのまま魔力の栓を開けて流し込むと、反発していた魔力が落ち着いていくのがわかった。


しばらくして、彼女の痙攣がピタリと止んだ。呼吸が規則的になり、肌の青白さが和らいだ。かと思えば、やせ細って皺だらけだった肌はみるみるうちにはりを取り戻し血色がよくなっていく。荒れていた髪は艶を取り戻し、病人にはとても見えない。

ドラゴンの血の魔力はもう感じなかった。それはマーティの姉の魔力に完全に同化して取り込まれていた。

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異世界闇バイト――とりあえず無双したら闇バイトだった ソーシャル無職 @hongomusyoku

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