第8話 異世界、思ってたのと違う…?
俺は町を歩いていた。
いざドラゴンの血を囮に悪の結社
また汚い部屋に連れていかれて待機してろなんて言われたが、せっかくの異世界だ、外へ出たい。
俺は部屋を抜け出した。
服屋で楽しそうにする着飾った若者たち、何やらいかつい巨大な肉を囲み酒盛りする陽キャたち…
引きこもり気分の抜けていない俺には少し近寄りがたい…わけではなく、高尚な正義の俺は浮ついた奴らとバカみたいに絡むなんてことはしない。
異世界の勇者らしく、武器屋とか見てみたいよななどと考えて歩いているがそれらしきものはない。気づけば人気の少ない通りを歩いていて、その看板は目に入った。
『魔具屋』
魔法の道具屋か。面白そうじゃないか。
道具がなくても魔力最強の俺は無敵だが、異世界の道具を見てやろう。
店内は魔導書や物々しい雰囲気の呪符が棚に並んでいる。
いったいどう使うのだろうか。店内を進むと、うっすら赤と青に光る二枚の呪符が俺の目を引き付けた。
俺はその呪符の使い方はわからなかったが、美しく編まれた魔力にすっかり見とれていた。
「いらっしゃい」
「わあっ!」
見とれていていつのまにか脇にいた老婆に気づかなかった。
「そいつを買ってくれるのかい?」
「あ、いやその、綺麗だなと思って…これは何だ?」
「こっちの赤いのは熱符。サラマンダーの魔力が籠ってる。青いほうは冷符。イエティの魔力が籠ってるよ。綺麗なもんだろ?」
「ああ、美しいですね、ところでこれはどうやって使うのですか?」
「うん?なんだい、熱符と冷符をしらんのかい?」
言いながら老婆は赤い呪符にてをかざして何かをつぶやく。
すると呪符はもわっと熱を放つ。
「どうだい。暖かかろう。そろそろ熱符がいる季節じゃないか。買ってっておくれよ。冷符はは季節じゃないけどの、買ってくれてもええぞ」
「えっ」
ふぉっふぉと老婆は笑う。
え?季節?
なんだか冷房と暖房のようなもののようだ。
「あの、これはその、部屋を暖めたり冷やしたりするものなんですか?」
「そうさね。おかしな子だね。どこにでもあるだろう」
「そ、そうですか。じゃああっちの箱は…」
俺は奥の怪しい箱を指さして言う。
「冷符箱だよ。ほら、食べ物を冷やすだろう。隣のは熱符箱。オーブンみたいにおいしく肉や魚が焼けるよ」
冷蔵庫と電子レンジ…?
「じゃああっちの紫っぽく怪しい光を放っているのは…?」
「なんだい。美符なんか興味あるのかい?女子が使うもんだよ。あんた男なのに、あれかい?流行ってるとらんすじぇんだあとかかい?」
「いや、違いますが…」
化粧も魔法の力を借りているんだろうか。
何か戦いや呪いの道具だと思っていたものたちは日常品のようだった。
「その、武器とかはないのか?敵に炎を出したり、凍らせたり…」
「何を物騒なこといっとるんだね。そんなもの売ってるわけないじゃないかい」
「え、でも、魔物と戦ったりとか」
ふぉっふぉと老婆はさっきよりも大きく笑う。
「なんだい、年寄りをからかっとるんかい。冷やかしでもいいけどねえ。暇だからねえ」
「え、魔物と戦ったりはしないんですか?」
「戦うわけないだろう。魔物と戦ってたのなんてあたしが十代のころじゃないか。だから5年前ぐらいかねえ」
老婆は自分の冗談にふぉっふぉっふぉと大笑いしている。
「魔物がいないってどういうことですか?もう勇者に退治されたとか?」
「いやいや、いないわけないじゃないか。魔物の家畜がおらんと魔符も作れんだろう。」
老婆は笑うのをやめて怪訝そうに言う。
「いや、その、最近この国に引っ越してきて、よく知らなくて…」
「そうかい。どこの国かは知らないけど大変だったんだねえ。うちは魔物に襲われるなんてもう昔話よ。今時は魔物なんかより人間のが怖いわねえ。ほら、この前レインフォールのお屋敷も襲撃されたし…魔物なんかよりも魔法で人を襲う人間のが怖い時代になっちゃったじゃないかい」
魔物に人が襲われることはない?
じゃあ昨日俺が倒したドラゴンは?
人を襲うことはないのか?
じゃあロイドはなぜあんなことを…?
「ああ、怖い怖い。物騒で怖いねえ。最近の若者はすぅぐにお金のために人を殺すじゃないかい。平和になったと思ったらこれだよ。怖い怖い」
整理ができなくて老婆の話は入ってこない。
どういうことだ?
え?どういうことだ?
「あつっ」
「うん?どうしたんだい?」
刺激で思考が遮られる。
ポケットに入れていたドラゴンの血の瓶が反応していた。
近くにドラゴンの血を持っている奴がいる。
不死を求めてドラゴンの血をやり取りする連中が。
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