第7話 異世界マフィア

ロイドはドラゴンの死体の周りを何かを埋めるようにしならが一周すると、胸元から出した板のようなものに手を当てた。

魔法陣が板から展開され、ドラゴンの死体が魔力に包まれる。

「ロイド、魔法が使えたのか?!」

「使えねえよ、ただの道具だよ。普通に売ってんだろ?これはちょっと珍しいが…」

この世界ではそういうアイテムがあるのか。

「あ、ああ、もちろん知ってるさ、聞いてみただけだよ。はは…」

俺は無双のヘルメス、元引きこもりの中年だなんて悟られてはならない、決して!

「それは何の道具なんだ?」

話を逸らす。

「テレポーテーション。ドラゴンの血は魔力が籠った不老不死のマジックアイテムでいい値段が付くからな。鱗も骨もな。本当は牙もだが…」

首のないドラゴンの身体が光を放って、直後跡形もなく消えた。


「じゃ、フランツの死について、だ」

ドラゴンの死体がなくなった広原を背にロイドが俺に向き合う。

ロイドが元の落ち着いた様子に戻ってほっとしていたが、そうだ、それどころではない。

「あいつは口封じに殺された。表には決して出てこない犯罪集団に消されたんだ」

「なんだって?!」

そうか、フランツの様子がおかしかったのはそういうことか。

「奴らは『不死リッチ』と呼ばれている。その名の通り不死を目的とした犯罪集団だ。奴らは目的のためならなんだってやる。だが、自分では手を汚さねえ。騙したり脅したりで他人にやらせる。でもって重要なことは教えずに、いいように使えなくなったり秘密を知られたりすれば殺す。人のことを使い捨ての道具としか思っていない連中だ」

「そんな、許せないぜ!最悪な奴らだ」

「ああ、許せねえ。奴らは使えるなら子供も使う。物心つく前から犯罪を教えて…藁にも縋る思いをした子供にだって犯罪をさせるんだよ。気が付いた頃には後戻りできなくなってるんだ。怪しい素振りをしたら殴る蹴るなんて優しいもんよ。家族や恋人を見せしめに殺したり…なんだってやりやがる。関係のない人にまで…!」

ロイドがポケットの中で何かを握りしめた。

「えげつないな…でも、ロイド、なんでそんなに詳しいんだ?」

「え?いや、その、調べていたからな。奴らの手口をよ。」

ロイドは何かをごまかすかのように笑った。


「でもそんな奴ら、どこにいるかもわからないんじゃないのか?」

「そこでドラゴンだよ。ドラゴンの血を飲み続けると不死になれるっていう話あんだろ?あのドラゴンの死体は偽装して奴らとつながりがありそうな闇市の連中のところに行くことになっている」

ロイドは瓶を取り出して見せた。

瓶は紫色に鈍く輝く液体で満たされている。

「さっき少し採ったドラゴンの血だ。こいつと同じ魔力を辿って奴らを見つけ出す。奴らは不死のためにため込んだマジックアイテムを隠しているでかいアジトを持っているはずだ。不死リッチはドラゴンにも劣らない魔力を持って闇の魔術を使うが…ヘルメス、お前となら勝てる。探し出して殺す。一人残らずぶち殺してやる。」

「ああ、もちろんだ!やってやろう。不死リッチに死を教えてやろうぜ!」

俺の力を使うもってこいの場所だ!

いよいよ本格的に異世界の英雄らしい仕事になってきた。


「そしたらようやく俺は…」

俺の返事を聞いたロイドは満足げに何かをつぶやいたような気がしたが、小さな声は風にかき消された。

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