第6話 ドラゴンを密猟
「なあ、ヘルメス、お前さなんでこんなことやってんだよ?お前すげえ強くて魔法も使えるじゃねえか。ちゃんと資格さえ取れば宮廷魔導士にだってなれるだろ」
早朝、ロイドは俺を起こしてフランツの死を伝えるとすぐに聞いてきた。
「え、なんでそんなことを…?」
フランツの死で気が動転した俺はしどろもどろな答えをする。
「ほら俺たちよ、恨みは買うのに報酬は割に合わねえ。なんでわざわざこんなことしてるのかって聞いてるんだ」
なるほど、ロイドはフランツの死で気が動転している俺を気遣ってくれているんだろう。
「ロイド、気遣いは嬉しいけど、俺は大丈夫だぜ!そんなことよりも、フランツをやった奴はどいつだ?許せねえぜ!正義の鉄槌を下してやる!」
フランツが恨みを買って死んだのがロイドにはわかっているということだ。なら犯人の検討もついているはずだ。俺は転生したばかりで数日しか一緒にいなかったとはいえ、大切な仲間だ。敵を討ってやる。
ロイドは少し驚いたような訝しむような顔をして少し考えてから慎重そうに口を開く。
「正義…正義ね。確かに俺はお前らにそう言ったさ。死んで当然の悪党どもに当然の報いを与えてやるだけだ、俺たちは正しいってな。だが…本当にそれで?今もか?」
「当然だろ、何をいまさら!何が言いたいんだよロイド!」
「あ、ああ。それならいい。それならいいんだ。」
ようやく納得した様子のロイドは立ち上がり言った。
「ヘルメス、ちょっと用事に付き合ってくれや」
「ロイド、そろそろどこへ行くのか教えてくれよ!」
「もうすぐだよ」
俺とロイドはそれから山道を二人歩いていた。
フランツの死にエルクとロイドの意味深な態度、聞きたいことは山ほどあったが、ロイドは構わず山道を速足で進んでいく。
もう三時間は歩きいたのではないかというところでようやくロイドが口を開いた。
「ようやく見えてきやがった、あれを見ろ」
ロイドが指さす先を見る。
「ん?変わった色の山だな」
真っ黒でつやがありごつごつした小さな山が俺の目に入った。
「山じゃねえ、よく見ろ」
表面は光沢があるが凹凸があり、規則的だ。下の方には直線的な部分もある。じっくり見ているとそれは上下にわずかに動いている。
「これって…」
「そうだ、ドラゴンだよ」
規則的な凹凸は鱗だった。よく見ると翼を閉じて眠っているようだった。まるで生物だとは思わないほどに巨大だ。
「ヘルメス、お前あれやれるか?」
「え?ああ、やれると思うが…」
静かに眠っているドラゴンを殺害するために魔術を放つことがいまいちピンとこないでいた。
巨大なそれが暴れたりすれば確かに街や人はひとたまりもないかもしれない。だがなぜかはわからないが、俺にはそれが無害そうに思えた。
「んじゃ頼むわ。反撃でもされたらたまらねえし、一発でやってくれ」
「あ、ああ…」
何を躊躇っているんだ俺は?
それじゃあまるでロイドが俺を操って悪事をなそうとしているみたいじゃないか!
そんなことはありえない。
ドラゴンに向けて照準を合わせ、魔力に集中する。
巨大なドラゴンのどこを狙えばいいのだろうか?
あまり強くしすぎて周りの山がを崩れないようにしなければ。
そもそもドラゴンの皮膚はどの程度硬いんだ?
「いくぞ!」
まあこれぐらいでならいけるだろうと、昨日の城なら破壊できる程度の魔力の光線を放った。
しかしそれは、ドラゴンにかすり傷をつけるどころか、鱗にはじかれ脇の木を燃やしただけだった。
「嘘だろ?!」
「バカ何してる!起きちまう!!」
眠っていたドラゴンは地鳴りのような咆哮を上げ翼を広げ、巨体からは想像しなかったしなやかな動きでこちらを向く。
ドラゴンの胸部に魔力が収斂するのを感じる。
ドラゴンは魔法を使うのか?!
すごい魔力だ。街ごと吹き飛ばせるかもしれない。
だが、ドラゴンが立ち上がったことで後ろは空だ。
俺も周りを気にせず思いっきりやれる。
「失せな」
今度は手加減なしで魔力を放つ。
俺が放った魔力の束はドラゴンの魔法を相殺し、そのままドラゴンの首から上を跡形もなく消し去った。
「おっと、やりすぎたかな」
魔力の衝突で爆風が起こり、木々をなぎ倒す。
俺はすかさず魔力の盾を貼り、俺とロイドの身体を護る。
「すげえよお前、すげえよ…」
俺の魔力のすごさに唖然としたのか、ロイドは砂煙の中乾いた笑い声をあげる。
「どうだ?ちょっとチートすぎたかな?なんて」
「ああ、すごいぜお前。すげえよ。いけるぜ。これはいける…やってやれるぞ。やれる、やれるぞ…!あいつらを…やってやる…!」
ロイドはそのまま蹲り、俺への返事とも独り言ともつかないことをぶつぶつと言った。
今朝からロイドの態度がわからなかった俺は、砂埃の中でまた困惑する。
砂埃が晴れて見えたロイドのその表情を見て、俺はついぞっとした。
俺の知る感情を表に出さない、冷静なロイドとは別人のように顔を歪めていた。
少なくともその笑いの向く先は俺でも、頭のなくなったドラゴンでもない。
憎悪、執念、歓喜――ロイドの浮かべるその感情の先を俺はまだ知らなかった。
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