第5話 最強の俺は恋愛でも無双できるはず
「なあ、エルク」
酒場で隣で飲んでいたエルクは、飲むのをやめ不機嫌そうに顔を顰める。
「なんだよ、お前が鬱陶しく何度も言うから来てやったんだろうが」
「あの、そのだな、女性にはなんと声をかければいいのだ?」
「知るかよ!お前がナンパしようって言ったんだろうが!」
長身美形に転生した俺だが、元は引きこもりで彼女いない歴イコール年齢の中年だ。
ナンパ以前に、女性になんて声をかければいいかわからないし、何を話せばいいかわからない。
「フランツ、何て声をかければいいと思う?」
まるで何か忘れたいことがあるかのように、浴びるように飲んで突っ伏しているフランツは返事をしない。
「おい、フランツ!こっからが大事なのに寝てどうする!」
俺が肩を揺すると、フランツはぼんやりと言った。
「ん~、ほら、ヒック、正義の話でもしたらいいんじゃないか?。ヒッ、熱く語ってたじゃないか、正義~、正義~、俺たち正義のパーティさ~、あは、あははははは」
「それだ!」
俺の美形に強さにそして熱い正義の心!
女性が魅了されないはずがない。
「行くぞフランツ!」
俺はフランツの腕を持って立たせて肩を組んで奥のテーブルに向かう。
「お嬢さん方!この俺と正義について語りませんか!」
困ったような顔をして話していた二人がこちらに顔を向ける。
柱の陰になっていて三人目が見えていなかったが、三人連れだった。
三人目は泣いているのか突っ伏して嗚咽をあげている。
「どうしましたお嬢さん?」
「正義?あなた…正義のヒーローなんですか?」
「ええ、そうですとも!」
「ふざけるな!じゃあなんでおじいちゃんを見殺しにしたの!!」
突然叫んだ女性にフランツがヒッと小さな悲鳴をあげる。
「すみません、あの、この子、ちょっと大変なことがあって…できればそっとしておいてほしいんですけれども…」
「ええなんですって?!それはいけない!このヘルメスがお助けしましょう!!」
助けを求める人を放っておくなんてありえない。
俺は義信に突き動かされて言った。
「せめてわけでも聞かせてください!」
「私は、エリサ・レインフォール」
泣いていた女性が顔を上げて姿勢を正す。
整った顔立ちの彼女の、虚ろな目の後ろの感情はわからない。
彼女は淡々と続けた。
「おじいちゃん…私の養父であるフィリップ・レインフォールは、私のような元孤児の子供を引き取り、本当の子であるかのように愛情を注いでくれました。私がようやく恩返しをできると思った、なのに、今朝…」
無表情だった彼女の顔が険しくなり、語気が強くなる。
「夜盗に入られ無残な姿で見つかりました」
フランツが膝から崩れ落ちる。
酔いが回ったのだろうか?大事なところだったのに!
「ああああああああっあああぁぁぁあ!!」
崩れ落ちたフランツが叫ぶ。
「ごめんなさい!ごめん、なさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「おい、ヘルメス!」
いつのまにか見ていたエルクが横に来て俺の腕を掴んでいた。
「行くぞ!」
「え、どういうことだエルク?!」
なぜか急いで店を出たエルクに引っ張られて路地を走る。
「緊急のミッションか?」
「そういうことでいいから急げ!」
少しずつ人気のない路地裏に入っていく。
ほとんど真っ暗で何も見えなくなったところまで来るとようやくエルクは立ち止った。
俺が光魔法で指先に灯を灯すとロイドがいた。
「ヘルメスとエルクか…お前らがここにきてその様子だと面倒ごとになったみたいだな?」
エルクが息切れしながらも何かに急ぐかのようにあったことを話す。
なんだ?一体なんのことかわからないが、二人には何かがあるのだろうか。
「そうか。なあヘルメス、お前何も言ってないよな?」
「え?何っ何が?わけがわからない、どういうことだ」
ロイドは少し考えるような素振りをしてから言った。
「ならいい。ヘルメス、疲れたろ。ちょっと休んでな」
「いや、説明を…」
「すまんが用事ができた。休んでてくれや、明日説明するからよ」
有無を言わさない雰囲気のロイドに案内された小さな部屋で座る。
ベッドのようなものはあるが汚く臭う。
なんならまだ起きて4時間程度のヘルメスは眠くなんかなかった。
突然わけのわからないことばかりが起きた。
急に寝ていろだなんて無茶な話だ。
しかし、横になっているうちに眠りにおちた。
人生の半分以上を引きこもりに費やしたので、汚い場所で際限なく眠ることだけは前世から得意なのである。
翌朝、フランツは死体になって見つかったと聞かされた。
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