第12話 キミニササゲタコイノ果実
「もうすぐで海だよ。美空」
車の後頭座席に乗り、窓の外を見る。空いた窓から潮風と海の匂いが入ってくる。美空が死んでから約3ヶ月が経過した。
『湊。海行きたい!』
ふと、一昨年の僕の誕生日、美空と話していたことを思い出す。僕が今、何故海に来ているか、それは2ヶ月前まで遡る。美空が死に、葬式や通夜が連日あり、1ヶ月か経過しようとしていた。大学に通いながら少しずつ美空の死から離れようとしていた時、不意に一昨年の僕の誕生日に話していたことを思い出す。
「……そういえば、行きたがってってけ。海」
前に美空が海に行ってみたいと言うことを思い出し、スマホで調べる。いくつかのサイトを見てみると、海に遺骨を流すことができるというのを見つけ、2、3ミリに砕かれた骨を見る。それから、美空の両親にサイトを送り、簡単な文章を送る。すると、すぐに既読がつき、了承を得る。そこからはかなり早かった。日程を合わせ、場所を決める。
「着いた……」
車から降り、遺骨が入った袋を持って砂浜へと向かう。事前に地域の住人から許可も取っているのであとは遺骨を流して終わりになる。ズボンを膝まで上げ、海に入る。美空の両親にも遺骨を渡し、波が引くタイミングで遺骨を流す。思ったよりも速いスピードで遺骨が流れていくのを見て、枯れ果てたはずの涙が溢れる。もう見えなくなった遺骨を見て何かの呪縛から解放された気分だった。車に戻ろうとした時、一際強い潮風が首筋に当たる。
『行ってきます』
驚いて振り返るが誰もいない。けど、確かに今、美空がそう言ったような気がした。それから僕は微笑み、応える。
「いってらっしゃい、美空」
カバンからいつも持ち歩いているリンゴを取り出し、齧る。
「……苦いや。けど、甘くて美味しい」
苦味と甘味が同時に感じる。夕日を背に、ゆっくりと、海から上がる。
最後に、この小説のような日記にタイトルをつけるとして、こうつけよう。『キミニササグコイノ果実』と。
キミニササグコイノ果実 @34fulufulu
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