第11話 眠り姫
アパートから病院まで自転車を使っておよそ15分。電話をもらってから急いで準備をしたので病院には約20分程でついた。受付の人に言うと許可証をもらい、走らないように急いで美空の病室へと向かう。
「美空!」
病室に入ると、美空の主治医と、美空の両親がベッドの横に立っていた。軽く一礼をし、美空のそばに駆け寄る。ベッドに横たわり、人工呼吸機を口につけて、静かに瞼を閉じていた。気を利かせてか、主治医と美空の両親が病室を出ていく。
「美空……」
近くにあった丸椅子を持ってきて座る。数分、静かになる。病室には心電図モニターの音だけが聞こえる。美空の意識が無い今、話しかけても返事は来ない。それをわかってはいても止まらない。
「……初めて会った時からまだ2年くらいしか経ってないんだよ。知ってた?……この2年は多分、僕の今までの人生19年分の中で1番濃かったと思う。それも全部、美空のおかげだよ。ありがとう……だから、だから早く目を覚ましてよね。僕はまだ……美空と一緒に居たいよ」
涙声になりながら少し強めに美空の手を握る。目は覚めてないのに暖かい美空の手を握ると、自然と涙が止まる。
「みな……と……」
驚いて顔を上げると、呼吸をしづらそうにしながらも美空がゆっくりと目を開けて微笑んでいた。
「美空!よかった、意識が戻ったんだ……すぐに主治医の先生呼んでくる!」
慌てて立ち上がると、美空が弱い力で服の裾を引っ張る。振り向くと、美空が手招きし、僕は何かを悟ったようにまた座る。
「みなと……もう少し……かお、ちかずけて」
言われた通りにすると、美空は大きく息を吸い、人工呼吸機を外し、両手で僕の服の襟を掴む。そしてそのまま両手に力を入れ、少しだけ起き上がる。
「ん……」
一瞬、なにをされたかわからなかったが、数秒後にはキスをされたのだと気づく。30ほど、キスをしていたら突然美空の唇が離れる。慌てて了解で美空を支えると、優しく微笑んで僕の頭を撫でる。
「みなと……大好きだよ」
そして、そのままゆっくりと目を閉じる。また僕の目から涙が静かに溢れる。静寂になった病室には、心電図モニターのピーという音だけが鳴り響く。
「うん、僕も……大好きだよ」
涙を拭き、精一杯笑って応える。しばらくしてから、病室の外に出て、外で待っていた3人に、美空が死んだことを伝える。病室の空いた窓から、生暖かい風が吹いてくる。
「あ……そっか、今日って……」
あることを思い出し、美空の側に戻る。まだ生暖かい美空の頭を撫で、聞こえることのない最後の言葉を贈る。
「美空、二十歳の誕生日、おめでとう」
そしてまた、静かに、大粒の涙がこぼれ落ちた。
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