第10話 秋映

 美空が入院してから約半年が経過した。通っていた大学はもう通えなくなり、退学し、今も病院のベッドの上で1日を過ごしている。あらからほぼ毎日美空に会いに行っているが、時間が経つにつれ、少しずつ痩せていく美空を見るのは辛いが、それでも美空に会いたいのでら結局病院へ行く。


「あ、湊。今日も来てくれたんだ」


 病室に入ると、痩せ細った美空が笑顔で振り向く。手には暇つぶしに折っていたであろう折り鶴が机に置いている。


「そりゃ当然。彼女に会いたいって思うのは普通でしょ?」

「……だね!で?お土産は?」


 目をキラキラさせて美空が僕が持っている袋に目を向ける。美空が入院してから、週に1度のペースでお土産という名のリンゴを持ってきている。


「どれどれー?今日のリンゴは……何これ、黒いリンゴ?」

「ブラック・ダイヤモンド……秋映って言うんだって。実家から送られてきたの。長野の親戚からもらったんだって」


 普通の赤いリンゴではなく、黒ずんだリンゴを袋から出し、持ってきたナイフを使い、慣れた手つきで皮を剥いていく。


「それで?体調はどう?」

「あぁ、うん。呼吸がしにくくなってきたけど……体調は良いよ。とっても元気!」


 剥き終えたリンゴを渡し、パキッという良い音を出しながら食べる。


「ん!このリンゴ甘い!黒いのに!」


 持ってきた5つのリンゴを剥いては食べ、剥いては食べてを繰り返す。結局、ものの数分で食べ終えてしまい、そのまま今日大学であったことを話す。気づいたらもう夕日か沈みかけていて、時間も時間なので帰ろうとする。


「あ……湊」


 帰り際、美空が不意に呼び止める。振り向くと、夕日を背に美空が身体を起こし、微笑む。


「また明日、ちゃんと来てね?」


 夕日がスポットライトのように当たって、眩しくなり少し目を細める。少しして眩しさに慣れ、僕も微笑み手を振る。


「うん、また明日」


 その日の深夜、狭い部屋に鳴り響く電話の音で目が覚める。電話相手は入院した時に初めて会った、美空の母からだった。


「え……美空が息できなくなった?……はい……はい、わかりました。すぐ行きます」


 急いで準備をして、慌てて病院へ向かう。帰り際の夕日に当たっている美空を思い出し、自然と涙が溢れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る