第9話 甘さは苦さへと変化する
倒れた美空を見て、すぐに救急車を呼ぶ。幸い近くに消防署があり、3分くらいで救急車がくる。しかし、僕にはその3分間が永遠と間違えるほど長く感じていた。
「あと……1年?」
病院に着き、主治医が美空の容体を見て、別室へと案内されて開口1番にそう言われ、頭の中が真っ白になる。そんな僕を気にせず、医者は説明を続ける。
「はい。美空さんは筋萎縮性側索硬化症……通称『ALS』という難病を持っているんです」
『筋萎縮性側索硬化症』とは、体を動かすための筋肉が少しずつ減っていき、最終的に呼吸すらできなくなる難病のことらしい。
「えと、美空は生まれつきそのALSで、元々長くは生きられなかった……ってことですか?」
「はい、そうです。ALSを持っている人は大体17か18で亡くなることが多いんです。なので、美空さんはALSの中でもかなり生きている、ということになります」
未だALSというのがよくわかっていないが、元々寿命が短くなる病気を持っていて、その中でも美空は長寿の方だった。という説明を受けてようやく理解する。理解はするが、納得はしない。主治医の説明が終わり、美空が入院している部屋に行く。
「あ、湊……ごめん、黙ってて」
病室に入ると、寝巻に着替え、上半身をベッドに支えられて起き上がっている美空が誤ってくる。それを見て、深い穴に落ちたような感覚を覚える。
「……ほんとだよ。なんでもっと早く言ってくれなかったんだ?」
「だって……言ったら湊がアタシと距離を取るんじゃないかって思って……そう思うと、怖くて……」
自分で両肩を抱き、小刻みに震えている。美空の側まで行き、右手で美空の頭をワシャワシャと少し強めに撫で付ける。
「僕が美空から離れると思う?例えどんなことがあっても、僕は美空から離れる気はないよ?」
優しく微笑むと、美空が初めて僕の前で泣き出す。
「湊……ごめん……ごめんねぇ。ありがとう……大好きぃ」
「うん、知ってる!」
優しく美空を抱きしめ、美空に今の自分の顔を見せないようにする。涙声にならないよう必死に自分を抑え、音もなく涙を流す。その後、美空が泣き疲れて眠ってから、ゆっくりと、美空を起こさないよう静かに、声を出して、泣いた。
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