第8話 腐りし始めた果実
季節は巡り、春が来る。なんとか単位を取り、進級して大学2年生になったというのに、嬉しさはあまり無い。元々勉強は得意な方だったので、苦労したと言ってもものすごく苦労したわけではない。むしろ、苦労したことと言えば美空に勉強を教えたことだと思う。
「いいなぁ、湊は勉強できて。羨ましいよ」
進級してから3ヶ月が立つ。僕と美空の関係は変わっておらず、相変わらず講義室の隅の方の席に座っている。美空が机に突っ伏して進級した直後からずっと言っている不満を愚痴る。
「まぁまぁ、進級できたんだから良しとしようよ。それに、今からちゃんと勉強してれば3年生になる時に苦労しないよ?」
「まぁ、そうだけどさ?けどやっぱり勉強は苦手!あ、りんごちょうだい」
カバンからりんごを出して手渡す。講義まであまり時間が無いというのに美空はりんごに齧り付く。
「あ、そうそう、ねぇ湊。そろそろ一年じゃないですか」
「え?あぁ、うん。そうだね、というかもう一年かぁ」
ふと、これまでにあった事を思い出す。美空と初めて会ってご飯を奢ってもらったこと、苦手な科目をお互いに教え合った事、美空の料理を食べて救急搬送されて死にかけた事、あの丘の大木の下で告白された事、水族館の深海魚コーナーでドン引きされた事、一緒に誕生日を祝った事。今となってはいい思い出になっている。
「ふふ、少し懐かしいのにね。つい最近のように思えちゃう。あ、それで、1周年記念という事でピクニックしない?」
「うん、いいよ。場所はあの大木?」
「もちろん!あそこはアタシのお気に入りだからね!」
美空が微笑み、りんごを齧る。講義が始まる直後に食べ終わり、走ってゴミ箱がある所まで行き、捨てて戻ってくる。それから、講義を受け、昼ご飯を食べてそのまま家に帰る。いつもよりも美空の歩くスピードが遅く、息切れもしてカクついているのを見て少し不安を覚える。歩くスピードを美空に合わせて雑談をしながら交差点へと向かう。
「それじゃ、湊。明日はピクニックだからね?11時に大学前集合だから、忘れないでよ?」
「うん、もちろん。楽しみにしてる」
交差点に着く頃には美空の体調も戻ったようで、いつもとお無しスピードで歩いている。それから、繋いでいた手を離し、交差点を渡ろうと信号を待つ。すると直後、後ろでドサッと言う音がする。気になり振り向くと、そこには息切れをして、苦しそうに胸を押さえて倒れている美空の姿があった。
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