第7話 あかりの日

 あれからまた幾月が過ぎ、僕は食べ終わった食器を洗い、大学へ行く準備をする。スマホでカレンダーを見て、今日の予定を確認する。カレンダーを見ていつも思うのは全ての日に〇〇の日と書いてあることだ。本日、10月21日はあかりの日。そして僕の誕生日でもある。


「っと、急がないと遅れちゃう」


 急いで大学へ行く準備を終わらせ、家を出て鍵を閉める。それからいつもと同じ道を歩き、いつもの交差点で美空と合流する。


「あ、湊!おはよ!」

「おはよう」


 それから2人でいつも通り大学へ向かう。大学に着くともうすでに教授がいて、急いで席に座る。誕生日だからか、今日の講義はあまり頭に入ってこない。講義を上の空で聞いていると、隣に座って講義を受けていた美空がノートの端に何か文字を書いて見せてくる。


『なんだか今日は嬉しそうだね。もしかして何かいいことでもあった?』


 自分のノートの端に文字を書き、美空に見せる。


『実は今日僕の誕生日なんだよ。だから今日はテンションがいつもより高めなの』

『え、うそ。アタシそれ初耳』


 少し驚いたようで、目と口を大きく開けている。それから、少し考えてまたノートにペンを走らせる。


『じゃあ今日はお祝いしないとね!今日はお弁当作ってないんだよね?』

『うん。今日はいつもより遅く起きちゃったから作れてないんだ』

『うし、じゃあ今日は久々に学食で食べよっか。誕生日祝いで奢ってあげる』


 楽しそうに美空が笑っている。それを見て僕は自然と美空の右手を握りしめ、そして講義に集中する。


「それじゃあ湊!誕生日おめでとう!」

「うん。ありがとう!」


 講義が終わり、学食に来る。学食に来るのは久々で、初めて美空に奢られた時のことを思い出す。あの時と変わらず美空は季節外れになりつつある冷やし中華を食べている。


「……美空って学食来るといつも冷やし中華食べてるよね?」

「え、そうかな?まぁここの冷やし中華は日本一美味しいからね。しょうがないよ」


 そう言いズルズルと音を立てて麺を啜っている。啜っては野菜を食べ、啜っては野菜を食べるを繰り返し、すごい勢いでなくなる皿を見て、よく食べるなぁも思いながら僕も奢ってもらった醤油ラーメンを啜る。午後は講義が無いのでそのまま2人で帰路に着く。いつもの交差点に着いた時、美空が思い出したかのように口を開く。


「ねぇ、湊。海行きたい!」

「え、海?」


 美空はスマホで検索して地図を見せてくる。


「海かぁ……今行ったら絶対風邪引くよなぁ」

「あ、確かに。じゃあ来年!来年の夏に一緒に行こ?泊まりで!」


 すぐにカレンダーを見て予定を組み立て始める美空を見て、僕は嬉しそうに笑う。自分の誕生日を久しぶりに楽しいと感じているからだ。


「よーし湊!カフェ行こ!そこで港の誕生日祝いのケーキ食べながら海行く予定考えよるよ!」


 笑いながら手を引く美空に連れられて近くのカフェへと向かう。その後、ケーキを食べて予定も決まり、カフェを出た時にはもう夕日が沈みかけていた。

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