第6話 水槽の中のりんごの木

 僕が通っている大学には夏休みというものが無い。よって完全な休日というのは小中高と比べて極端に減る。休日をいかに満喫するか。それが問題である。そんな状況において、デートというのは最も満喫できる休日の過ごし方だと、僕は思う。


「おーい!湊!お待たせ!10分前行動とは流石だね!」

「そういう美空も、5分前行動だけどね」


 水族館の開園15分前集合のはずが、楽しみすぎて30分前には着いていたが、言うと美空に揶揄われそうな気がしたので心の内に留めておく。それから少しして開園し、チケットを買って水族館に入る。手を繋いで、魚が泳いでいる水槽を見ていく。


「湊!湊!見て見て!クラゲがいる!可愛いー!」

「ほんとだ。小さい……けど、うん。可愛い」


 円柱の水槽をフヨフヨと泳ぐクラゲを中心に、近くにいた魚たちを見て回る。一通り周り、入り口付近に戻ってきた。すると、美空がパンフレットを見ながら服の裾を引っ張ってくる。


「どしたの?もしかして気になるところあった?」

「うん!ほらここ。特別展示コーナー?ってやつ」


 特別展示コーナーと書かれているブースを指さしてパンフレットを見せてくる。


「えーと、ここは……深海魚コーナー?うん、面白そう!行ってみよ!」

「やった!さ、行こー!」


 嬉しそうに笑って深海魚コーナーがある場所に走りだそうとしたところで、美空が膝から崩れ落ちるように倒れ込む。


「美空!大丈夫!?」

「あ、うん。大丈夫!……ありがと」


 すぐに美空のとこまで駆け寄り、右手を差し出す。出した右手をてにとり、ゆっくりと美空が立ち上がって、ズボンを軽く叩いてホコリを落とす。


「じゃあ、行こっか!」


 何事もなかったかのように微笑んで僕の手を握る。それから、少しゆっくりめのスピードで深海魚コーナーへと向かう。


「中は暗いんだね。あ、見て見て、深海魚がたくさんいる!なんか、みんな不気味な見た目だね。エイリアンみたい」


 確かにやたら牙が長く突き出て、目が青くて大きく、尻尾の方にいくれつれ少しずつ細くなっている姿はエイリアンに見えなくもない。


「浸透圧とか水圧の影響をあまり受けないように進化してこうなったって聞いたことある。……まぁ、確かにエイリアンに見えなくもないけど。僕は意外とこういう見た目の動物は好きだよ?なんか可愛く見える」


 そう言うと、美空が口を大きく開けて「え、嘘でしょ」と言わんばかりのリアクションをする。


「……まぁ感性は人それぞれだから!うん!」


 と無理やり話を区切り、次の魚がいる水槽を見る。そこには、フヨフヨと浮くメンダコが4匹いた。


「ねね、湊。この水槽さ、なんだかりんごのキみたいじゃない?」

「え?りんごの木?」


 水槽には木のような水草が真ん中に1本埋まっていて、枝のような草の下をメンダコが泳いでいる。


「まぁ確かにりんごの木に見えなくはないけど……結構無理あるんじゃない?タコだし」


 それからその場で10分程りんごの木に見える見えない論争をし、それからレストランに行きご飯を食べる。もちろんその時の話題も、りんごの木だった。

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