第5話 甘さ8割酸っぱさ2割

 美空と付き合い出してからまた一つ世界の見え方が変わった気がした。今まではただ色のついた世界だったのがより鮮やかに見える気がする。恋をすると人は変わるとはよく言うが今まさに僕が実感している。


「あ、おはよ!湊!」

「うん、おはよう」


 いつもと同じで少し違うような朝、講義室でいつもの席に座っている美空がいつものように声をかけてくる。ただ少し違うのはいつもより可愛く見える。


「ねね、湊。これ開けてもらってもいい?アタシがやったら開かなくって」

「うん、いいよ」


 そう言いペットボトルを受け取り、軽く捻って蓋を開け、ペットボトルを手渡す。


「わ、ありがとー……ふへー美味しー」

「なんだかおっさんみたいだよ」


 何回かに分けて飲み干したペットボトルをカバンに入れ、講義が始まると真面目に受ける。講義が終わると学食には行かず、校舎裏にある広場でご飯を食べる。もちろん僕が今朝起きて作ったものだ。


「んー!やっぱり湊の作るご飯は美味しいよ!……女子より女子力あるのはなんかあれだけど」

「小さい頃からやってたからね。自然と身についたんだよ。美空も練習すればできるようになると思うよ?」

「……それまでアタシが生きてたらいいけど」


 小さく、低い声で美空が呟く。何を言っているのかは聞き取れなかったが何かよくないことなんだろうと直感が告げる。


「え?美空、今何か言った?」

「ん?ううん、何も言ってないよ?」


 気になったので聞き返してみるも意外と素っ気ない答えが返ってくる。


「もうほんとご飯が美味しすぎる……湊のせいで太ったら許さないからね!?」

「んな理不尽な……じゃあもし太っちゃったら一緒にダイエットする?」


 美空は少し考えてから「する」とだけ言い、また食べ始める。昨日の夜ご飯のあまり物か思ったよりも多く、結果昼ご飯の量も増えたのだが美空の食べっぷりを見て大丈夫そうだなと少し安心する。


「ん!?んー!んー!」


 一度にたくさん口に入れたのか、美空が苦しそうに咽せている。


「そんな一気に掻き込んだらそうなるって」


 水を渡して背中をさする。少しして落ち着いてきたのか、ゴクンと飲み込み、少し息切れしながら「ありがと、助かったよ」と言う。


「まったく……今度から気おつけてね?ご飯喉に詰まらせて死ぬとか洒落にならないからね?」

「あはは、流石のアタシもそんなんで死にたくはないなぁ」


 それから少ししてお昼休みが終わり、午後の講義を受ける。講義を終え、帰る準備をしていると、美空が声をかけてくる。


「ねね、確か来週の水曜日って祝日だよね?デートしない?」


 デートの誘いらしく、少し楽しそうにしている。もちろん断る理由がないので即答する。


「うん、いいよ。どこか行きたい場所があるの?」

「うん!あ、でもどこに行くかは当日の楽しみね?」


 デートや今日の講義の話をしながら帰路へと着く。美空が住んでる場所は僕が住んでいる場所と反対のため、大きめの交差点でいつも別れる。


「じゃあまた明日ね!湊」

「うん、また明日、美空」


 繋いでいた手を離し、僕は信号を渡る。少し息切れを起こしながら、ガードレールを掴んで、ゆっくりと、歩みを止めずに歩いていく。

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