シスコン野郎の異世界生活

@colt12

第1話 異世界転生

高校生活。

それは誰もが戻りたくなる生活だろう。

誰かの事を好きになって付き合って、別れて、それを繰り返していく———普通の奴らならな!

妹好きの兄———世間一般ではこれをシスコンと呼ぶ。

世間ではキモがられてしまうその呼称を俺は甘んじて受け入れる。

俺の名前は伊織隼人、今年17歳の男子高校生だ。

そして俺にはたった一人の可愛い家族がいる。

伊織明日花14歳、俺の妹だ。

両親は不慮の事故により他界し、今では妹と二人で暮らしている。


「行ってきまーす!」


聞き覚えのある声にいつものように返事をする。


「行ってらっしゃい。」


可愛すぎる。

天使だな。

1日10回は感じるこの気持ち、誰かに共有したいものだ。

さてと、今朝はこんなものにして俺も行くか。


学校での生活は実に退屈だ。

え、何故って?

モテないから?

———それは事実かもしれないがそれだけではない。


(単純に人と関わるのが嫌いなだけだし。)


じゃあ何故退屈なのかって?決まっているだろ。

妹の居ない生活とか何が楽しいんだよ。

クラスの女子とか明日花に比べりゃ無に等しい。

学校が終わり、バイトに向かう。

両親が居ない中、食べていく為には俺が働くしかない。

俺は3つのバイトを掛け持ちしている。

そして、今日で125連勤だ。

普通の奴なら耐えられないだろう。

だが俺には妹がいる。

妹の喜ぶ顔ひとつで何でも出来るのだ。



◆ ◆ ◆



バイトを終え、家に帰ると鍵が開いていた。

もう帰っているのか。


「おーい」

「明日花?」


変だ、いつもならすぐに出てくるのに。

不思議に思いながら家の中に入っていくと見覚えのあるの女の子が寝転んでいた。


「こんなところで寝たら風邪引くぞ。」


揺さぶって起こそうとしたその時、手になんとも言えないいやなヌルッとした感触があった。

手を見ると赤く染まっている。


「おい、兄ちゃんをからかうなよ明日花。」


おい、頼む、頼むから冗談であってくれ。

既に冷たくなっている胸に耳を当て、心臓の音を聞く。

———聞こえない。


「あ゛ぁぁぁぁぁぁあ!」

「誰だ。誰が俺の大切な物を傷つけた?世界で一人だけの俺の妹を!」

「待ってろ明日花‥‥‥お前を一人にはさせない。」


近くの包丁を手に取り、腹部に刺す。

不思議と痛みは感じなかった。

次第に意識が朦朧としてくる。


「大好きだよ。明日花。」


目の前が暗くなった。



◆ ◆ ◆


少しすると目が開き、光が入ってくる。


「あれ?俺死んだんじゃ?」


そこには真っ白な空間が広がっていた。

なるほど、此が天国という奴か。

すると目の前にいかにも神らしい老人がやってきた。


「我は神である。」


やっぱりか。


「どうやら説明は要らんようじゃな。なら早速本題に入らせてもらう。お主に選択肢を与えよう。」


神とやらが手をかざすと。

目の前にこう写し出された。


選択肢


○天国


○地獄


○転生


「この選択肢なら迷うことはないな。」

「そうか、では———」

「妹と同じところで。」

「転生———ってえ?妹?」


意表をつかれたかのように神の口調が変わる。


「ど、どういう事じゃ?」

「俺の妹がさっき死んだはずだ。同じところに行きたい。」

「お、お主まさか———」

「そうだ、俺はシスコンだ!」


名言のように言い放つ。


「出来るだろ?神なんだし。」

「なんじゃ、その言いがかり!」

「なんなら今から妹の魅力について一日中熱弁してやろうか?」

「わ、分かった。そちの妹は転生を選んだ。手配しよう。しかし、妹は過酷な道のりを辿っているやも知れない。」

「面白そうじゃ。この能力お主に授けよう。あ、いい忘れてた。転生者って凄く強いスキルを持っているんだけど、そのせいか妬む奴らも多いんじゃ。バレたら殺されるから気をつけるんじゃぞ。」

「いや妹以外要らないしってえ?殺さr———」


実は俺には一つ自分に誓っている事がある。


妹以外何も欲しないこと。


俺の中で決めていた事があっさりと崩れてしまった。


(どうしてこうなるんだよぉ!)


声にしたかった言葉は誰もが一度は発するこの言葉に変換されてしまう。


「オギャア!オンギャア!」


妹の後を追って死んだシスコン兄貴が異世界に生まれ落ちた。


目の前にいた女性は此方を見てこう呟く。


「初めまして、フォード。」


直感で分かる。

彼女は俺の母親だ。

こうして離れ離れになった俺の妹を探す旅が今始まった。

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