第7話
「お、ペンギンがいるじゃないか。」
龍宮が指を指した先には、飼育員から餌を貰う順番を待って列を作っているペンギンがいた。
「行儀よく順番を待てて偉いねえ。」
「母親目線か?」
龍宮の目が我が子を見つめる慈愛に満ちた母親に見えたので聞いてみた。
「母親目線ではないよ。可愛いものは愛でたくなるものだろう。」
「なるほどね。」
よく分からん。ただ分かるのは、本当に可愛いものが好きなんだなということだけ。
「お、今度は水に飛び込むみたいだぞ。」
これも順番に飛び込んでいく中、数匹は中々飛び込めずにいた。そして、その中の一匹が足を滑らして落ちた。
「なんか、鈍臭いのがいるな。」
「そんなところも可愛らしくて良いじゃないか。」
「そうだな。ペンギンにも得手不得手があるって事だな。」
きっとまだ成長途中で泳ぐのが得意じゃないんだな。
「おい、アイツなんかお前に似てね?」
「どの子のこと言ってるんだ?」
ほらアイツだよと指をさしても首を傾げるので、懇切丁寧に説明してやる。
「ますました顔してカッコつけてるところとか。俺たち
ギャラリーから人気者なところとかな。アイツがそっくりだろ。」
「君が言いたいことはよく分かった。つまりボクはすましたカッコつけの嫌な奴ってことを言いたいんだな。」
「嫌な奴とは言ってないだろ。」
「だったらボクも。あの子は君に似てると思うぞ。」
龍宮が指さしたペンギンは、群れに馴染めずに一匹でいるペンギンだった。
「なにか勘違いしてるようだから言っておくが、俺は好んで一人でいるだけだからな。」
「あの子だって好んで一匹でいるかも知れないだろ。」
「いいや、そんなことは無いね。」
「どうしてそう言い切れる?」
「俺のサイドエフェクトがそう言ってる。」
人生で一度は言ってみたいセリフ第三位が言えたぜ!しかも、タイミング的には完璧じゃないか?
「サイドエフェクト...ってなんだ?」
「あ...ただの勘です。はい。」
あまりの嬉しさに余韻をかみ締めていると、空気の読めない言葉が飛んできた。知らないものは無理もないが、それは聞かないで欲しかった。恥ずかしいじゃん。
「勘のことをサイドエフェクト?って言うのか。覚えたぞ。」
「覚えなくてよろしい。」
厳密言うと違うことなんて言わなくていいよな。それよりも、これってこの先龍宮の勘が働いたときには、俺がいじられてるみたいな感じになるってことで間違ってるか。
「君はときどき変な言葉を使うな。」
「龍宮。お前は知らなくていいことだからな。それと、変とは言わないでくれ。」
「おっと、それはすまない。特殊な言葉を使うな。」
それあんま変わって無くないか。まあ、それでも変って言われるよりいくらかマシだな。
「ところで、ペンギンってラテン語で...」
「肥満って意味だろう。君の考えることはお見通しだよ。」
俺がドヤ顔で披露しようとした知識を途中で遮って、一言一句同じ言葉を発した。
「俺の考えがお見通しだったとしても、遮ること無いだろ。」
「可愛いペンギンの由来が肥満だって言われたら、テンションが下がるじゃないか。だから、そんなことをしようとする君には、恥ずかしい思いをして貰おうと思ってね。」
「それは、龍宮の狙い通りだな。ドヤ顔までしたのにすっげえ恥ずいわ。」
考えてみれば、俺よりも遥かに頭が良くて知識もある龍宮にマウント取ろうとしたことがそもそもの間違いだ。
「あれだな。君をからかってる時がいちばん楽しいな。」
「勘弁してくれ。」
楽しそうにしてるわけだ。俺をからかってる時がいちばん楽しいのだから。俺としては、辞めて欲しい限りだが、この無邪気な笑顔を見ると、それも悪くないかと思いそうな自分がいて怖い。
「はっはっはっ。そんな顔をされるともっとからかいたくなってしまうな。」
バツの悪そうな俺の顔を見てながら快活に笑っておぞましいことを言わないでくれ。
「君は表情の変化が乏しい人だと思ってたが、違うみたいだったな。感情がそのまま顔に出るタイプだったか。」
「その言葉、そっくりさんそのまま返すぞ。龍宮こそそんなにいい顔できるなんて知らなかった。」
「第一印象なんて関われば変わるものだ。それだけ、短い期間だがお互いを知ることになったという話だ。」
「まあな。認めたくないけど、ココ最近で一番関わりが深いのは間違いなく龍宮だ。」
龍宮への第一印象なんて男女問わずモテて運動と勉強共に隙がない気に食わない奴だったのに、か期待なんかに縛られてそのくせそれを受け入れている気に食わない奴になってるし俺への印象が変わってるなんて当たり前か。
「嬉しいことを言ってくれるね。」
「ただの成り行きだがな。」
「それでも、最初ボクを無視してたとは思えないほどよく喋ってくれる。」
「もう諦めたんだよ。しつこいんだもんお前。」
今思い出しても、あの一週間よく毎日話しかけに来たな。無視されるって結構キツイって聞くのに。やっぱり頭のネジの一本や二本くらい外れてんだろうな。
「また失礼なことを考えていそうだ。」
「考えてねえよ。それよりも、早く進まねえと時間以内に回り切れないぞ。」
「そうだな。早く進もうか。」
やっぱりエスパーだな。考えてることが分かるってそんなに顔出てるかな。
ともかく、問い詰められる前に誤魔化されてくれたのは助かった。失礼なこと考えてたのは確信してたっぽいけど。
俺は基本龍宮の隣を歩くだけで、なんの動物が見たいとかは無い。なので、龍宮が見たい動物を見るだけなのだが、ペンギンの次はゴリラで立ち止まった。
その道中にシロクマがいたりしたがその辺に興味はなかったみたいだ。
「ゴリラ好きなのか?」
「筋肉の感じが好きだな。」
「筋肉が好きなのか。なるほどね。」
まさか筋肉フェチだったとはな。龍宮はもう、ゴリラに夢中...いや、ゴリラの筋肉に夢中になっている。
それにしても、整った顔立ちをしているな。モテるのも理解はできる。俺がこいつに魅了させることは無いと思うけど。
「ボクの横顔に見蕩れてどうした?」
「ゴリラの筋肉なんかに魅入ってなければ、絵になる横顔だなぁ。と思っただけだ。別に見惚れてたなんてことは無い。」
「つれないなぁ。可愛いと言ってくれても構わないんだぞ。」
「言うわけないだろ。」
本気か冗談か分からないことを言うのは辞めて欲しい。たと本気だったとしてもそんなこと口にするなんて有り得ないが。
「へぇ。」
「なんだよ。」
その含みのある笑みを見て理解した。あ、これからかわれてるだわ。それは束の間の覚悟の時間。
「言うわけないってことは、可愛いと思ってるってことで良いのかい?」
ほら来た。顔を見るまでもなく、楽しそうに口角を上げているのが分かる。
ただ、俺も言われっぱなしじゃいられない。
「まぁ、そうだな。結構可愛いと思ったことならある。」
「んなっ...!な、何を言ってるんだ君は。可愛いだなんてそんな...」
え?なにこれ。ちょっと予想外の反応にびっくりしてる。そんなにあたふたして顔も真っ赤にしてどうしたんだよ。可愛いなんて言われ慣れてるはずだろ?
「いつもの余裕はどこに行ったんだ?」
「い、いつもは気を張ってるから!君とだと良くも悪くも自然体に近いから!」
ほうほう。つまりは、学校でなければからかわれた時に、いつでも反撃できるわけだな。いいことを知った。
それにしても、責められるのには弱いんだな。やっぱり君はボクのこと可愛いと思ってたんだ。くらいは言われると思ってたのに。
「ボクもう帰る時間だから。」
龍宮が言い訳を並べ立てていると思ったら、突然帰ると言い出した。
「え?そんな急に?」
「じゃあ、また明日学校で。」
そして、呼び止める暇もなく来た道を戻って行った。
いや、まあいいんだけど、無理言って一緒に回ってもらってたからいいんだけどね。
「はあ、俺も帰るか。」
妹にも龍宮にも置いていかれて、帰る時には一人になっていた。今日良かったとがあるとすれば、龍宮が慌てふためく姿を見ることができたことくらいだな。
学校のプリンスと呼ばれる女子の秘密を知ってしまった。 浅木 唯 @asagi_yui
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