広告マン

白川津 中々

◾️

ようやくこの日が来た。


死に物狂いで勉強しながらも程よい大学に入りコネを作りつつ先輩やOBに「東大A判定だったんですよー落ちちゃったんですけどね★(本当は受かってたけど)」という自慢風自虐で気に入られて大手代理店へコネ入社してから早五年。コネ組と一般入社組との派閥で別れる中コウモリの如くあっちへ行ったりこっちへ行ったりし地盤を固め早々と出世コースを駆け走り自分の裁量で仕事ができるようになった。長年の夢がようやく叶うのだ。



これで、センスのある映画広告を作れるぞ……!



そう、海外の名作映画に使われるようなかっこいい広告を作るのが俺の人生の目標だった。

邦画のポスターなどはなによりキャストのビジュアル重視。バーンと顔を乗せてトンマナ調整する形。なぜかといえば需要があるのと各方面との付き合い方というか昔からの慣習というか、まぁともかく色々面倒な制約があるからだ。

しかし今回俺は方々に働きかけて「好きにやっていいよ」との言質が取れた。よかった。本当によかった。毎日毎日営業回りでどれだけ宣伝効果出すとかバリューでフィーをアジャストとか本当マジでホント……


まぁともかくやりたい事ができるようになったのだ。これでメタクソセンスある最高の映画広告が作れる。やる気しかない。やる気しかない。やる気しか絶対にない。不退転の心持ちでいざ着手!





こうして企画は走り作品は完成。上映期間が終わった。俺の作った広告は邦画史上稀にみるセンスと持て囃されたが数字は振るわず更迭。グループ会社へ出向となる。


しかし、いいのだ。

売れない事はなから分かっていた。

結果はどうあれ夢は叶った。

後の余生は終わった映画の広告と同じ。

剥がされて、差し替えられて、忘れられていく。

だが、それでいい。それが広告だ。


俺の余生はゴミ箱へ。

それでこそ広告マン。

楽しさの後は、何もない。

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