<<あなたの声が聴きたくて>> ~遠く離れたあなたのもとへ。届け! 私の一途な思い~
あのお方
~あなたの声が聴きたくて~
「あ、あ~、聞こえますか?」
あの日、私はあの人の声で恋に落ちた。
(やばい……この人の声、好きだ……)
ドキッ……ドキッ……
心臓の音が大きくなってくるのを確かに感じた。
この人の声だけで……それもたった一言なのに……
今までの人生でこんなことは初めてだった。
~~~~~~~~
ある日、私はとあるSNSのグループを見つけた。
雑談や歌を中心に交流する、そんなグループ。
私もその時はヒマだったし、なんとなく加入したことを覚えている。
そのグループは入室したての私にも優しかった。
最初の日は、グループの雰囲気を楽しむ。
それだけにとどまった。
そして次の日、私は一握りの勇気を振り絞って、マイクのミュートボタンを解除した。
「はじめまして!」
私の声は固くなっていただろうし、そのあとは特に何も話すことはなかった。
けれど楽しかった。
またお邪魔しよう。
そう思えた。
何日か経って、私はグループの中で特に緊張せずに話すことができるようになった。
だから自信がついた。
そこで私は、次の段階、みんなで歌を歌うイベントに参加することにした。
カラオケのような感じでイベントの参加者が歌いあう、そんなイベント。
そこではみんな楽しそうに歌っていた。
正直あまり上手でない人にも賞賛の言葉が投げかけられる。
暖かい雰囲気に満ちていた。
だからなのだろうか?
歌のイベントに参加したばかりの私も、やってみようと思えたのは。
私は歌いたいという意思を明確にし、歌の順番を待った。
ドキドキしたけれど歌いきることができた。
みんな上手だと言ってくれた。
お世辞でも嬉しかった。
私の声で国歌を歌ってほしい、目覚ましに使うから、と言ってくれる方、もいた。
もちろん嬉しかったからすぐに歌ってあげた。
すごく喜んでくれた。
もっと嬉しくなった。
そのすぐあとだろうか?
わたしがあの人の声を聴いたのは。
「あ、あ~、聞こえますか?」
(え?)
「こんにちは~」
(やばい……この人の声、すごく好きだ……)
ドキッ……ドキッ……
心臓の音が大きくなってくるのを感じた。
この人の声だけで……それもたった一言なのに……
今までの人生でこんなことは初めてだった。
あの日、私はあの人の声で恋に落ちた。
その後私は、あの人……リムさんと呼ぼうか。
リムさんの一挙一動に敏感になった。
リムさんが喜んでいたら私も喜んだ。
リムさんが楽しそうなら私も楽しかった。
リムさんの色々なことを知りたい、と思ったし
実際、リムさん関係の情報を集めたり、推理しすぎて
なぜ知っているのか? と尋ねられてしまったこともあった。
もちろん私は反省した。
それからは適度な距離を取って交流を重ねた。
お互いのメッセージに反応し合ったり、
チャット上で話が合ったりして、結局仲も良くなった。
そして、雑談や歌のイベントにも積極的に参加した。
イベントでリムさんが話しているとき、私の心は安らいだ。
幸せだと思えた。
反対に、私が話している時にリムさんが参加してくると、
リムさんを見つけた私は、いつも緊張で声が固くなってしまった。
変にリムさんを意識してしまう、その結果だった。
ここから私が今でも後悔している事を書いていく。
ぜひ読んでほしい。
ある日、私とリムさん、それともう1人いたが話せる機会があった。
そこでリムさんは一言、
「そういえば、―私の名前―さんの声聞いたことないかも? 話せる?」
私は……私は!
……話すことができなかった……
あの時、一言でも話せたら……
未来は変わっていたかもしれないと……
後悔しているんだ……
まさかあんなことになるなんて……
「私、このグループを一旦抜けようと思います」
えっ……?
「でもいつか戻ってきます、叶えたい夢を叶えられたら」
―リムさん が グループから退出しました―
そ、そんな……
このあと、メッセージも見返した。
それによると、リアルが急に忙しくなったらしい。
でも1年以内には戻る予定と書いてくれていた。
だから私は待つことにした。
私の名前はグループに在籍したまま、
自然とイベントにも参加しなくなっていった。
でも待つためだけに、いつかまたリムさんの声が聴きたいから
ずっと残しておく、そのはずだった。
ある日、グループは破壊された。
グループを設立した人から、
グループを管理する権限が不正に奪われたのだ。
犯人たちは、管理する権限を正式な管理者に返す条件として
多額の金銭を要求する様子を生配信していた。
許せなかった。
私はみんなに、
「集団で犯人たちを通報しよう!」
と呼びかけた。
それが犯人たちの最も嫌がる方法だと思ったからだ。
案の定、犯人たちは私の行動に過剰に反応した。
そして私は消された。
グループから強制的に追い出されたのだ。
あの後どうなったかは分からない。
調べてみても、グループの名前は最初から無かったかのように消えていた。
ただ、ただ、悲しかった。
時が過ぎた……
それから私は、リムさんとの思い出に蓋をして生きてきた。
けれど心のどこかには引っかかるものがあった。
だから私は決めた。
リムさんが住んでいるだろう地域に旅行に行くことを。
いつか見たリムさんのメッセージの中に、
地域を特定できる言葉があったのを思い出したからだ。
「今日、花火に行ってきました」
この言葉が決め手になった。
思い立ったが吉日。
私は、急いで旅行の準備を進めた。
必要なものはバッグにゴチャゴチャと詰め込み、
急いで家を出た。
~~~~~~~~
ドォーン!! ドォーン!!
今年も花火大会が開催された。
あぁ、きれいだ……
周りも花火に見とれている。
ザワザワ、ザワザワ……
さすがは花火大会、人も多く騒がしい。
「すごい……」
バッ!!
気のせい……?
今、人ごみの中で確かに……
「あっ」
見つけた。
私の体が、心がこの人をリムさんだと告げている。
だけど頭が否定してくる。
(そんなはずはない)
(気のせいだ)
(私はおかしい)
怖い……怖いよ……
話しかけるのが怖い……
……でも、もっと怖いのは……
リムさん、あなたの声がもう聴けなくなること……
だから私は勇気を出す。
「しゅ、しゅみませんっ」
やってしまったー!!
噛んだ! 思いっきり噛んだー!!
おしまいだー!!
「どうしましたか?」
お、お、おちついて……
今度こそ……!!
私は……!!
後悔しない!!
「リムさん、というお名前で活動していたことは……いや、なんでもないです……
忘れてください……」
「その声……もしかして! ―私の名前―さん!?」
ああっ……あぁっ!!
「リ、リムさん……ですか?」
「はい! そうですよ! ―私の名前―さん! 久しぶりだね!
会えてめっちゃうれしいよ!」
「私もうれしいです! お会いできて光栄です!」
「アハハ! そんなに固くならないでよ~。
……でもよかった。
また―私の名前―さんの声が聴けて。
また聴きたいな、って思ってたんだよ?
ずっと…………なんちゃって!
冗談だよ!」
「私もっ!」
シンッ……
かなり大きな声が出たことに気づいた。
「……―私の名前―さん?」
伝えなければ……っ
「私も……リムさんの声が聴きたかったっ!
初めて聞いた時からずっと……
ずっと……あなたの声が好きなんです!
ここで出会えたのも偶然じゃなくて!
あなたの声が聴きたくて、遠く離れたこの地まで来ました!
貴方の声が……聴きたくて……っ」
そこで私は感極まって、ただ涙を流すことしかできませんでした。
そんな情けない姿を見せる私を
リムさんは
ギュッ……と
抱きしめてくれました。
「―私の名前―さん……
私もずっと心の中であなたのことが引っかかってた。
でも今日会えて分かった。
私もあなたの声が聴きたかったんだ……ってこと……
不思議だよね……こんなことがあるんだ……」
リムさんの瞳からも一筋の涙がこぼれた。
~~~~~~~~
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<<あなたの声が聴きたくて>> ~遠く離れたあなたのもとへ。届け! 私の一途な思い~ あのお方 @anookata
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