門番の鬼

@sts2278

第1話 怖い鬼

これは今から数百年前の「こわぁい鬼」の伝説のお話…。


私の名前は鈴。百姓の娘だ。

生まれも育ちも本土から離れた小さな島で、根っからの田舎者だ。


私の体は生まれつき、他の人よりひとまわりもふたまわりも大きかったので

周りからは「将来有望だねぇ」とか「男の人よりも大きいし戦で大活躍できる

」とか言われてた。


でも、私はみんなが思うような優れた人物じゃなかった。

簡単に言えば「臆病者」だったのだ。


人に話しかけることができないくらい臆病者なので、怖くて黙っていたら「強いものは語らないんだ」なんて話が回った。

否定する度胸もないから噂はどんどん大きくなった。


結果「なんかすっごい強い人」という情報だけが島の中に伝染していた。


そのうち私を「鈴」と呼ぶ人はいなくなった。


代わりに「鬼女」とか言い出す人が現れた。

そして次の年には「鬼」が現れた。

そして次の年になると「豪鬼」になった。

もう原型などなかった。


助けてください。

本当に助けてください。

私は強くないんです。

戦だって行きたくないんです。

なんならあやとりとかが好きです。二人でできるやつに憧れてます、やったことないけど…


そんな日々をただ過ごし、すくすくと体の成長をすすめ、迎えた十五歳の春の夜


「あの人」は現れた。


「豪鬼かいうの女がいるのはこの家か!!!!」

晩御飯の献立を考えながらとりあえず粟を水で洗っていた私は、急な大声にびっくりして鍋をひっくり返しそうになってしまった。


声の方向を見ると、一人の女性がいた

「ど、どどどどどどなたでっしゃろ…?」

「うん?お主が豪鬼か!噂に違わぬ大きな体躯じゃ!さぞ力も強いとみえる!」

一体誰なのかわからないまま私は必死に考えを巡らす。

目の前の女性は、高そうな着物を着て、厚い下駄を履いている。

これだけで島の中の人間でないことはわかる。しかもきっとお金持ちだ。


着物の襟付近の家紋が目に入る。

名家「三叉」の家紋だ。一瞬で私の脳内のぐっちゃぐちゃになった。

なぜこんな名家の貴族のお方がここに⁉︎

「良い良い!可愛らしい顔や声もしておるし!妾好みじゃ!」

「へ…?かわ…?」


初めて聴いた響きだった。

かわいいなんて単語、生まれてこの方聞いたこともなかった。

わたしが、かわいい…?


しばし惚けてしまうほどに、その方の言葉は私に甘く響いたのだった。


「のう!おぬしよ」

「は、はい…?」

「妾の従者になれ!妾にはお主が必要じゃ!」

「…へ?」

思考が停止した。従者?なんで???

「豪鬼というのもいささか乱暴な名前じゃ。お主には似合わん。そうさな」

「ちょ、ちょっとまってください!急にそんな、私話が見えねぇんだけども…⁉︎」

「まぁ、今は豪鬼以外は思いつかん!すまんな!それはそれとして荷物をまとめろ!京へむかうぞ!」

「ひ、ひえええ⁉︎」

「お!そうじゃ名乗りを終えてなかったのう!妾の名は律!三又律じゃ!よろしくのぅ!」


齢十五にして人生の転機が訪れた

私は島を離れ親元を離れ、遠い遠い本土のお町に連れて行かれる。

拒否権はない。だって向こうは大貴族様だもの。


とんだ横暴なお金持ちだと呆れる反面…

律様が言った「かわいい」という言葉を、もう一度聞きたいと思ってしまっている私がいることに、本当は少し気づいていた。

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