第8話 praeteritum et venator《過去と狩人》(2)
時は遡り二百年程前、吸血鬼たちは各地で人間を襲い時には食糧に、時には娯楽として人間狩りを行っていました。
吸血鬼たちは夜の間のみ活動しますがその間だけは人間には勝ち目のない、完全な上位捕食者でした。空を自由に飛びまわり鉛玉ぐらいではあまり致命傷にはならず、あの鋭い牙で噛まれたら最後、体は麻痺し血を最後の一滴まで吸われてしまう。人間には逃げ回ることしか出来ませんでした。
しかしある時、偶然にも吸血鬼の弱点が見つかったのです。それは『銀』です。たまたま襲われた人が銀のナイフを吸血鬼に突き刺したそうです。すると吸血鬼の顔色がたちまち悪くなりそのまま逃げていきました。
このことから吸血鬼は銀が弱点だと広まりその村では銀製の剣や弾丸が作られました。
それがここ、『シルバラッツ村』です。
職人たちが作り上げた武器は特別な製法で作られていて今ではもう作ることは出来ないそうです。
その武器も最初は身を守るために作られていましたが、いつしか吸血鬼を狩るために作られるようになりました。
そうして集まった人たちは吸血鬼ハンターと呼ばれ、その一員にアルコス家初代吸血鬼ハンター『イリア・アルコス』が参加したのです。
その後5年間吸血鬼の住処を見つけては戦い、仲間の数を減らしながらも吸血鬼たちを討伐していきました。イリアも吸血鬼との戦いで成長を続け、仲間内では吸血鬼の弱点は銀とイリアだ、と言われるまでになったそうです。
幾つもの戦闘を繰り返しついに吸血鬼の親玉との戦いが始まりました。その親玉は『ミヒター』と呼ばれていたそうです。ハンターたちが次々に倒れていく中、イリアはミヒターと対峙しました。
ミヒターが宙を舞えばイリアは銀の弾丸を、牙を振るえば剣で対抗し勝負は拮抗していました。
もう立っているのはふたりだけになり、お互い満身創痍。その時、ミヒターは一瞬の隙をつき逃げ出したそうです。
イリアは後を追おうとしましたが仲間たちを助けることを優先しみんなの元へ戻りました。
親玉こそ逃がしはしたものの大量の吸血鬼を討伐したことでその戦いは勝利となりました。
しかしまだ残党は辺りに逃げ隠れしており、その後は残党狩りが行われ数十年は戦いが続いたそうです。そうしてしばらくすると吸血鬼の姿は見ることがなくなりました。
吸血鬼の親玉ミヒターもその後一切情報が無く、遠い地に去っていったのかまだこの地に隠れ住んでいるのかは不明。
吸血鬼が減り平和が続くと吸血鬼ハンターたちは役目を終え次々と引退していき、もう正式な吸血鬼ハンターはひとりもいません。
そしてこの話も次第に人々からは忘れられていき、今では伝説上の話となっています。
「これが私の知る吸血鬼との戦いの話です」
ウルフェンは驚愕していた。
二百年前。
それは自分の
そして『ミヒター』の名。
自分の愛する人達を目の前で殺した張本人。
繋がってしまった。
ついに、ついに最も欲していた憎き敵の情報を得ることが出来た。ウルフェンの内は喜びやら怒りやらがぐちゃぐちゃに混ざりあっていた。
その中でひとつ、確かなものがあった。
「……何百年も前……そのミヒターという吸血鬼に家族を殺された。だからそいつを見つけ出して必ず復讐を遂げる」
「え、何百年?いったい何を……」
この男にならば、吸血鬼ハンターの血を引くこのアルコス家にならば自分のことを話してもいいと――。
「俺は人狼だ」
「何ですって、人狼?あなたが?」
ビリーは驚きを隠せないようだ。しかし、それでも疑いはしない。
「正真正銘本物の人狼だ。あの時からずっと奴らを探している」
「他に仲間はいないのですか?」
「俺一人だ。おそらく人狼はもう他には誰も残っていないだろう。それに俺が知っている限りでは人間は吸血鬼に対し無力だったと、だから人間の協力者もいない」
「……それでは一度も人間と共に吸血鬼を討伐したことは無いのですね?」
「ん?あぁ、無いが……、なにか気になることでもあるのか?」
「これはちょっとした作り話のようなものです」
ウルフェンはその言葉に、運命めいた何かを感じ取っていた。
「さっき話した吸血鬼と人間の戦い、実はたった一人だけですが人狼が参戦していたという話があるんです」
確証は無い。ただの希望だろう。
「その人狼は人探しと吸血鬼への復讐をしていたそうです」
だが最後を見た訳では無い。確かに
「その人狼の名は――」
まるで耳の隣で自分の心臓が脈打っているようだった。
「ヴォルフ、とだけ伝えられています」
父はあの時、死んでなどいなかった。
ウルフェンナイト 姫崎 @himesaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ウルフェンナイトの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます