第7話 praeteritum et venator《過去と狩人》(1)
酒場『シルバーポイント』を後にしたウルフェンはビリーの家へと向かった。
情報の真偽はどうあれ初めて人狼伝説を聞くことが出来たのはビリーのおかげだ。何か翌日にでも手伝えることは無いかを聞いて恩返しをしよう。そう考えながら伝えられていたビリーの家へとたどり着く。
コンコン――
ドアをノックすると中から足音が聞こえてきた。出てきたのは息子のロビンだった。
「あ……、えっと、ウルフェンさん、でしたよね?」
背の高いウルフェンに対しロビンは少し緊張しているようで、こちらへどうぞと言って逃げるように部屋へと入っていった。
ロビンの後に続き部屋へと入るとテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいた。
「ウルフェンさん、来てくれたのですね。お待ちしてましたよ」
「あぁ、今日は助かった。この村では俺の探している物が見つかるかもしれない」
ウルフェンがビリーに感謝を伝えると同時にキッチンにいた女性が料理を運んできた。
「こちら妻のサーシャです」
「ウルフェンさんでしたよね?今日はゆっくりしていってください」
とても優しそうな女性でお似合いの夫婦という印象だ。
「夕食がまだでしたら食べていってください。それと宿もまだでしたらうちに泊まってください」
ビリーの優しさに感謝をしながらウルフェンは食事の席についた。この家族を見ているとなんだかとても懐かしい気がした。
* * *
「ごちそうさま、こんなにも美味しい食事は久しぶりだ」
「それは良かったです、作った
サーシャは嬉しそうにしていた。それを見てウルフェンもなぜだか自然と笑みがこぼれた。
「サーシャ、ウルフェンさんの泊まる部屋を用意しておいてくれ」
「わかったわ、あなた」
そう言って部屋を出ていくサーシャを見送りながら、ウルフェンはビリーにあの話をいつ聞こうかと内心落ち着かなかった。
「悪いな、急に泊まることになって」
「いえ、私から言い出したことです。それにウルフェンさんもこの村に長居するつもりなら宿代だって馬鹿になりませんし」
「そうか、助かるよ。それにロビン……だったか?悪いな、しばらくここにお世話になる、よろしくな」
ロビンはウルフェンとの食事を通して、最初にあった警戒心はどうやら無くなったようだった。
「はい、よろしくお願いします。もし良ければ僕に旅の話を聞かせて欲しいです」
「あぁ、もちろんだ」
子供にしては礼儀正しいロビンにも、やはり子供らしいところはあるようで目を輝かせながら喜んだ。
ただ、旅の話を聞かせるとはいえウルフェンは人狼であることは話す訳にはいかなかった。その事を隠しながら話すのは少し大変そうだと感じた。
だがそれでもロビンに旅の話をしてあげようという思いは強くあった。ここまで
だがその前にビリーがウルフェンに問いかける。
「そういえばウルフェンさんはどうして旅をしているんですか?旅をしているにしてはあの時会った時もわざわざ街道から遠く、それに森の奥にいましたけど……」
ウルフェンはビリーに会い村に着くまでの間、自身のことは特に話していなかった。それはビリーが聞いてこなかったのもあるが出会ってすぐの他人を信用出来なかったからだ。だが今は違う。
「そうだな……、実は俺は吸血鬼を探しているんだ。どうしても奴らを殺さなきゃならない」
「吸血鬼を?それはいったい……なにかあったんですね?」
「あぁ、家族が殺された、
「なんて事だ……、やはり奴らは根絶やしにするべきなんです!」
正直ビリーがここまで強く肯定するとは思わなかった。確かに吸血鬼は存在しているし被害も出ている。だが数百年前と比べ今では被害者の数は想像よりはるかに少なくなっている。ビリーが吸血鬼に直接被害にあったとは考えにくい。
きっと何か、吸血鬼に関わる何かがここで手に入る。ウルフェンはそう確信した。
「お前の方こそ、奴らとなにかあるんだな?」
ビリーは一度ロビンに部屋に戻るように言い、狩人の鋭い目つきをしてゆっくりと口を開いた。
「……はい。これは吸血鬼たちと我がアルコス家、そして共に戦った吸血鬼ハンターたちの話です――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます