Reそれぞれのハロウィン

花森遊梨(はなもりゆうり)

mure power

ブラックベリーが腐ってしまった。

 

 

せっかくコ◯トコにタカと電車で行って買ってきた貴重な果物が、たった5日間冷蔵庫に入れたせいで半分近く腐ってしまった。だが、そんなブヨブヨになったくらいで諦められるか!

 

 

うん、ブヨブヨのべと甘さの奥にアルコールみたいな香りを感じる。まだ腐っていないベリーの甘酸っぱさとのシナジーでいくらでもおいしく食べられそうだ。

 

バシッ‼︎

 

 

「痛った‼︎いきなり殴るとかどういうつもりなのタカ‼︎」

 

学校指定のオイモジャージで腐った果実をむさぼる少女は銅島操どうしまみさお 

 

「そのブラックベリーは腐ってるだろ、なんでごちそうですみたいな顔で食べているんだ?」

 

操と同じえんじ色の学校ジャージだった。美しい黒髪、鼻がすっきりしたあごの細い面長の綺麗な顔、操をたたいた手の脂肪の少なさがその性別を物語る。


彼は内海鷹斗うつみたかと

 


「タカは何もわかってないわね、野生の動物や虫は新鮮な果物よりもこういう腐って栄養満点になった果実や食物を喜んで口にするものが多い。そして忘れがちだが、人間だって動物なの」

 

「操はチンパンジーじゃなくて人間だろ。宝の持ち腐れだからもっと立ち振る舞いを人間に寄せてもいいと思うんだがな?」

 

「でもさ、捨てる前に一つだけタカも食べてみない?

 

「全く…あ、意外とおいし?」

 

「でしょ?」

 

 

繰り返すが、二人が食べているのは腐ったブラックベリーである。魂のレベルが同列とはこのことかもしれない。

 

 

今日は10月31日。ハロウィンである。


ハロウィンとは人間が威圧的な格好をして「菓子をくれ、さもなければ渋谷に行っていたずらするぞ」という悪魔のシノギを人間が奪い、調伏する慰霊行事である。

 

 

…にもかかわらず悪魔を追っ払ったのに人間がゴミをばらまき人を傷つけ呪詛を吐き散らし国によっては人間を鉛玉であの世に叩き込む。悪魔に勝るとも劣らない害を生じさせてるという本末転倒にして悪魔召喚の行事となりがちである。

 

「ハロウィンとは渋谷で悪魔を召喚し、人間に銃をぶっ放し、時にぶっ放される血塗られた行事じゃないんだよな」

「ハロウィンにかこつけて外国ではカジュアルに人を射殺?リアル世紀末の岡山や渋谷も世界的には理想郷に近いって変な気分」

操ハウスの台所、冷蔵庫から2人分の食材を取り出しながら

「だったらいいんだがな、外国では日本じゃ半笑い会釈でやり過ごすところでバーン!と「ろすされる」の関係になるし、それがハロウィンでも通常営業だから怖いんだ」

「『ろすされる』?…「殺す殺される」ってダイレクトの方がわかりやすいかも」


だから外に繰り出し露出を増やし、殴り殴られ殺し殺される血塗られたハロウィンがあるならば、二人で秋の食材をお料理して過ごすハロウィンもある。これこそが二人のハロウィンと言える。


操が作るのはカボチャのアイスクリーム

 

つぶしたカボチャをアイスに混ぜて冷凍庫に放り込むだけ。もともとは幼稚園の幼稚園児向けの本に書いてあった製法であり、あれから10年以上経ったいまでも立派に通用する。

 

「操はなにそんな高級アイスクリームを混ざるだけのくだらない工程に使うとは!」

 

 

鷹斗が作るのはサツマイモのアイスクリーム

 

こちらは牛乳と生クリームと砂糖と卵を混ぜ合わせて、最後にあらかじめつぶしておいたサツマイモと混ぜて冷凍庫に入れるだけ。


 

「アイスクリームにそんな高い卵を使うの!?平飼いのナチュラルエッグなんてご飯にかけるのが一番美味しいのに!!」

 

お互いにアイスクリームが大好きだし、お互いに理解できないこともある。


NEXT料理は公園で拾ってきた野生の栗のマロングラッセ。


これまでは調理と称して冷蔵庫から出した食材を混ぜて冷凍庫に戻す以上のことをしていなかったが、今回は食材からして違う。

 


野生の栗は、小粒である。はっきり言って市販の甘栗に比べるとよりその小ささが目立つ。しかし、その甘みは栽培グリよりずっと濃密であり、さらには深い滋養というか深みを感じる!

…らしい。


「金曜日一日放置しただけでこうなるとは…」


そう呟くタカの視線の先にはかつて袋いっぱいに袋いっぱいに生きたカール、つまりは栗虫がウネウネと蠢く地獄絵図であった。

うっかり煙で燻されることも、お湯で煮られることもなかった野生の栗を放置するとこうなる。


「ねえタカ、せっかく集めてきた栗をたかがイモ虫くらいで諦めたくない」

 

「だな」

「そういえば、ハロウィンは動物の犠牲をささげていたらしいし、ね?」

 

 

んん?

 

数分後。


同レベルの2人はすでに鍋の中に入れたサラダ油を煮えたぎらせていた。


 

「基本はフライドポテトと一緒。塩は揚げてから振る。」

 

タカがその中に生きたままの栗虫をドバドバと注ぎ込んでいく。

 

 虫などのワイルドな食材を食べるのには「焼き」をイメージするかもしれないが、これは食感、苦み、悪臭をカバーできず、口に入れて3秒でリバースすることも多い。実はその点、「揚げ」は全てをカバーする。のだ。

 

…という知識はいつのまにか単身キャンプに行っていた操から授かった。

 

 

「やばいぞ、形はイモムシなのに不覚にもパチパチ鳴る音はホントにプライドポテトみたいだ!」

 

「ビジュアルに不満があるなら、すり鉢でグチャグチャにして団子とかポテトチップみたいなユニバーサルデザインにしておけば」

 

「その作業中にこっちは間違いなく吐く自信があるんだよ。目の前でウネウネ系の虫を潰すとか俺が操にやったら虐待になるんじゃあ?」

 

やがて油の中からひき上げられ、ずらずらと並べられる栗虫の素揚げ。

 

 

表面から虫独特の光沢がなくなったのを除けばば、カールそっくりの原形をキープしている。

 

タカと操は顔を見合わせた。

 


 

 

「一緒に食うぞ。三、二、一で行くぞ」

 

「「三」」

 

「「二」」

 

「「一」」

 

「ゼロ、でやっぱり食わなかったな!! 先に俺一人に食わせてモルモットにするつもりだったな操!!」

 

「かくいうタカもためらったでしょ!!! 私一人だけに食わせようとて!!」

 

二人は(火にかけた油の側で)軽めの殴り合いになったが、それで本題から逃げられる訳ではない。

 

さて、栗虫の実際のお味は?



 10月31日。

渋谷の様子はテレビで見るに限る。

興味のないスポーツ番組や犯罪と死者を視聴者が何より求めていると信じ疑わない世紀末な報道番組などやらないこのチャンネルが1番だ

 

ー10月31日、今夜のクレイジーアイスTVは見逃せない!!

 

 

ー恐怖!ハロウィンの渋谷と臓器売買悪魔集団!ー


ー悪魔の皆さん。悪魔は最近生贄を求めなくなり、なぜか金銭やマグネタ◯トを求めるようになったと聞きましたが。


「はい、信用経済の社会において貨幣とはそれそのものが信仰心の結晶。つまり悪魔が金を欲するのは何ら矛盾を生じないのです」


「そして古来のような生贄や血を好む悪魔と今を生きる悪魔たちが手を結び、換金性の高い生贄を募るこの儀式を始めるに至りました」


「あるよ〜あるよ〜心臓が20個あるよ!渡航費いらないよ!こう言ったら人間はみんな大喜び!悪魔とはまったくもって人に喜ばれる職業です」


「ああ、その心臓は全部俺のもんだ。人のものを勝手に売り払うな」

 

「酒や煙草をやらない若者の臓器を根こそぎ奪い取れ!!」

 

「やあリア充くん、君のすい臓を頂戴?」

 

「心臓をプリーズ。嫌なら殺してからお前の死体からぶち抜くから手間が増えるだけサ!」


「お前らの腹の中にはお前らがが一生働いたって手にできない金が詰まってる‼︎さあ、よこせ‼︎」


「最近の若人間はヘタレだからセ(ピー)もろくにしないボールなしばっかり!つまり、私みたいに昔ながらに生き血を残らず搾り取ればがっぽりヨ!」

 

「「「「「うわああああああ!!」」」」」

 

 

 

「.....意外といけるな栗虫」

「 マロン風味のポップコーンみたい、山栗を食べてるからちゃんとおいひいんだね」

 

 

さつまいもとカボチャのアイスクリーム

 

栗虫の素揚げ

野菜室の奥から見つかった傷みかけて柔らかなキウイベリーの盛り合わせ

 


こうして渋谷には本物の悪魔が到来し、物騒なテレビ番組(フィクションです…よね?)の最中、ハロウィンは過ぎていく

 


 

秋の実りの隣に腐った果実や虫の料理をならばえるという収穫祭だか悪魔崇拝なんだかわからない夜は過ぎていく。

 

 

それぞれのハロウィンの光景であった。

 

 

ー次の番組は実録クリスマスドキュメンタリー

「早すぎたクリスマス。黒サンタの最速お仕置き珍道中ーアナタには血まみれの内臓がお似合いよ!この消費者マインドブタ野郎!ー」をお送りいたします



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