第18話【大切な人にありがとう】

俺と晴也は自陣テントに戻り、最後の種目【借り物競争】を観戦する。

やはり観客の目は六花に集中する。何のお題を引くのかはランダムだが、あわよくばそのお題に関係できればと一部――というかかなりの男子生徒が願っている。

彼女持ちの晴也や、普段から一緒にいる俺はあまり興味がない。

まあ、六花に興味がないというのは嘘か。それは正直でいよう。

自分に嘘をつくのは疲れるし、何より虚しい。自分で自分を否定するのは辛い。

(六花‥‥)

「おいおい新くん、なーに敵のお姫様凝視してるのかなぁ」

「るっせ。……晴也‥‥お前は今、俺がどんな風に見える?」

「え? ‥‥うーん‥‥恋に正直になれていない‥‥ひねくれもの?」

「どうせ、ひねくれものですよ‥‥俺は。てか、恋じゃねーし」

「だから正直じゃないって言ってんだ。恋してんだろ、お前は」

「‥‥何があったか、少し‥‥話すよ」

もうこいつには素直でいこう。そっちの方が良さそうだ。いろんな意味で。

数分後。

「ほうほう、なるほどー‥‥めっちゃアメェじゃねーか!」

説明後、晴也からの鉄拳が飛来した。

「いって! なんなんだ‥‥?」

「お前、よく自分とは縁がないみたいに言えてたな! バリバリに仲いいじゃん!」

「仲がいいって、ただ飯を作ってもらってる隣人だぞ‥‥?」

「それはもう隣人以上友人未満とかじゃねぇよ! もう友達以上恋人未満だよ!」

「はぁ‥‥? そんなこと‥‥」

「じゃあ普通の隣人は毎食作ってくれる人ばっかですか⁉ んなワケねーだろドアホ!」

「じゃあ、友人だとして‥‥毎食はおかしいのか?」

「おかしいよ、おかしすぎるよ! 普通恋人とかのやつでしょそれ!」

(対馬では普通だったような‥‥)

俺、夏休みの大半はリーリルに飯作ってもらってたし…………。

お隣さんってそんなもんじゃないのか…………?

「それがお隣さんっつう概念ならマンションやアパート、一軒家問わずに全男子がリア充になって幸せになっとるわ!」

「な、なる…ほど……?」

「なんで疑問形なんだよ、少しは自分の幸せを自覚しろ!」

「そ、そうか‥‥俺、幸せなんだ…………」

「ああ、それも特大にとびっきりの、な」

「すんげー幸せ者、か」

確かに言われてみれば、俺は恵まれている。

お隣に。縁に。友に。人に。

色んな巡り合わせに恵まれ、俺は支えられている。

「新、お前白雪さんと――――あっ、ああ、あああっ…………」

「ん? どうしたんだ晴也、そんな怯えた顔して‥‥」

「う、後ろ…………」

「後ろ? ……ぁ」

「すいません、新くん」

「は? え、ちょっと、六花さん?」

六花は俺の手を握って走り出した。

「六花っ⁉ え、何⁉」

「私の借り物が新くんだったんです」

「そんなことある⁉」

六花の最高速度に引っ張られ、俺の四肢が悲鳴を上げる。

(いってェ…………なんだこの状況…………!)

俺の驚愕以上に、観客は重傷だ。

「なんで……なんで白雪さんが音花の手を握ってんだぁ⁉」

「借り物なのか、あいつ!」

「羨ましい、恨めしい‥‥代われぇえええ!」

悪寒が走る。この後どうなるかは本気で考えたくない。

ゴールテープを切った。

『それでは、お題を確認しまーす!』

俺は六花に小声で耳打ちする。

(六花、これどうすんだよ‥‥)

(どうするとは?)

(男子生徒の嫉妬が凄いぞ)

(大丈夫です。‥‥それを言うなら、お題も凄いですよ?)

「お題‥‥?」

『確認しました、お題は――――【異性の友人】、です!』

「…………!」

(友人‥‥)

「六花、お前‥‥」

六花は周りには聞こえない、小さな声でこう言った。

「貴方は私にとって‥‥友人以上の‥‥〝大切な人〟です」

「…………ありがとう、六花」

ここから始まる、新しいお話。

恋人になるのはまだまだ先。けれどそのための一歩は確かに踏み出した。

これは、【すべての人が持つ可能性を掴んだ少年少女の物語】。



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白雪姫を助けたらいつの間にか逃げられなくなっていた件 乙川せつ(神成幸之助) @X10AFREEDOM

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