第2話 オナジワダチ
俺は自分の愚かさに呆れた。担木先生のウルウルした目の奥にある嘘に気づきながら、それを見過ごした。しかもこれは2度目だ。
しかしいつまで悩んでいても仕方ないので、目じりに涙を浮かべる女性を見過ごせなかった、と自分にかっこつけた言い訳をして納得することにする。
まだ心地いい春の温度を保つ5月の朝日を浴びながら、俺はいつも通り学園に向かう。
ちなみに、俺や志垣の通う『
◇
退屈な午前中が終わった。クラスの中心格の皆様は教室の中央で机を固めてパーティーみたいに弁当を食べるが、俺は窓辺の席のまま。
1日たって減りはしたものの、2年A組の教室の前には志垣目当ての野次馬があふれている。人の頭皮がそんなに気になるか、と正直思うところではあるが、これから調査をする身としては複雑な気分だ。
ちなみに野次馬が集まってくることが分かり切っていたため、志垣はもう教室にはいない。どこか安全な場所で食事をとっていることだろう。まるでどこかの国の大統領のような待遇。学園1の美少女とは大変なものである。
「今日もすごい人だかりだな」
話しかけてきたのはこの学園に2人しかいない友人の1人、
彼はサラサラの紫髪センターパートによって顔がすべて白昼のもとにあるにもかかわらず、きりっとした眉毛をはじめとして顔面のパーツが暴力的に整っている。
そんな日向がお似合いの人間が、なぜ日陰者の俺と友人関係なのか?
それは彼が2次元の女しか愛せない上に性癖が大変気持ち悪いからだ。
本人から聞いた話によると、彼はそのビジュアルから1年生の1学期ごろは千手観音でも手が足りないぐらい女子から言い寄られていたらしい。
二次元しか愛せない彼は女子からのラブコールをすべて断り続けていたが、あまりにも多すぎるため、誰か一人と付き合って事態を治めることにした。
竜崎基準で一番許せる女子とくっつき、事は収束に向かった。
しかし彼には女の子がペンキや泥で汚されているところに興奮する性癖(メッシ―というらしい)があった。竜崎が唯一付き合うのを許した女子、彼の性癖。
あとはお察しだろう。
そうして孤立した竜崎は、同じアニメを見ていたことで俺と仲良くなった。
「3次元の女の髪型が変わったぐらいで何になるんだか……」
竜崎は彼を象徴するような一言を言い、空いていた俺の前の席の椅子を180°回転させて腰かける。
「竜崎らしいな」
「そういう日隠はどうなんだよ。俺と違って一応3次元にも興味あるんだろ?」
俺は回答に困る。
なんかめちゃくちゃ興味あると思われても嫌だし、かといってまったく興味がないと言えば志垣についての話題を広げて調査を進めることもできない。
「そうだな……理由が聞けるなら聞いてみたいもんだね」
俺は安牌を打った。
「へぇ。俺よりは興味あるって感じか」
そんな話をしていた時、教室の外から大きな声が聞こえてきた。
野次馬と教室の壁の間に何者かが割って入っている。
「ここはルリ様の教室であって、お前らが集まる場所ではない! さっさと散れ!」
語気が強い者たちの呼びかけで集まっていた野次馬はめんどくさそうにどこかへ行った。集まっていた群衆が散ったのを確認して、大声を張り上げたやつらもどこかへ消えていく。
「あれ、志垣のファンクラブの連中か。推しの緊急事態にナイト気取りかよ」
竜崎が吐き捨てるように言った言葉の中に引っかかる単語があった。
「志垣のファンクラブって、どうやったら入れるんだろ」
「バリバリ興味あるじゃねえか」
竜崎に勘違いされているようだが、調査の入り口はここのようだ。
学園1の美少女が突然スキンヘッドになった ~しかも陰キャの俺が調査を押し付けられた件~ 蛇乃木乱麻 @neekoo
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