学園1の美少女が突然スキンヘッドになった ~しかも陰キャの俺が調査を押し付けられた件~

蛇乃木乱麻

第1話 陰キャは押し付けられる

 学園1の美少女ともてはやされている志垣しがき ルリが突然スキンヘッドになった。おしゃれ坊主とかでもなく、完全に毛がない。

 何の前触れもなく撃ちだされたその大ニュースは、瞬く間にクラスの壁、ひいては学年の壁を超えて爆発的に広がった。そのスピードは異常であり、1時間目が終わるころには志垣 ルリのクラスの前には人だかりができていた。

 そんな状況になってもなお、志垣は平然と自分の席に座り誰からの問いにも答えを濁した。


 そんなお祭り騒ぎは志垣が下校するまで続いた。


 ◇


「で、なんで俺が先生に呼び出されてるんですか?」

 俺の名前は日隠ひかげ アラタ。志垣急にスキンヘッドになる事件の爆心地、2年A組に通ういわゆる陰キャという奴だ。


 そんな日陰者の俺は、うちのクラスの担任を務める担木かつぎ先生に「志垣のことで話がある。放課後、指定した教室に来てくれ」と茜差す空き教室に呼び出されていた。今は教室内に転がっていた椅子に座って先生の来訪を待っている。


 妙な誤解をされないように言っておくが俺は一般的な日陰者。

 ラノベの主人公にありがちな「陰キャだけど美少女の友達がいて……」みたいなことは一切ない。当然、志垣とは友達どころか挨拶の一つも交わしたことがない。俺は陰キャの仲間たちを裏切るような真似はしていない。


 ではなぜ担木先生は、志垣の話で俺を呼び出したのか。


 それは先生が俺に何かとてつもない面倒ごとを押し付けようとしているからだ。


 担木先生は1年の時も俺の担任を務めていたが、その時にも1度こんなことがあった。担木先生は美人教師だと話題だったし、最初は「美人教師からの呼び出し? まさかいかがわしいことが起こる!?」などという考えを持った。

 しかしいざ行ってみると、待っていたのは絶望。


 詳しくは話さないが、俺は到底日陰者とは思えない行動を強要され、クラスでの立ち位置を大幅に悪化させた。

 その余波は現在にまで届き、今も俺は教室ですみっこぐらしをせざる得ない状況になっている。


「悪い、職員会議で遅くなった」

 空き教室のスライドドアを開けて現れたのは担木先生。

 艶々の茶髪を一つに束ね、大きな目に長くカールしたまつ毛、みずみずしい肌にピンクの唇。黒いスーツからあふれ出んばかりの乳房を携えている。

 ビジュアルの面で言えば美人教師としか言いようがないだろう。


「先に言っておきますけど、俺は何もしないですからね」

 俺の正面に椅子を出して座った先生に、先制攻撃を仕掛ける。

 一度はその美貌に騙され、最悪な目にあった俺だがもうそうはいかない。

 今、2年A組で俺に日が当たらないのは8割がた彼女のせいなのだ。


「まあまあ、話ぐらい聞いたらどうだ?」


「来たからには聞きますけど」


「ならさっそく本題に入ろう。日隠には志垣がなぜ急に髪を剃ったのか調べてほしい」

「いやです」

 俺の即答は先生の顔をゆがませる。


「い、いや返事が早くないか」


「考えてもみてください。おそらく今、志垣さんは「なんでスキンヘッドに?」という質問を耳にタコができるほどされている。そのうえで答えていない。ということは何か大きな理由がある可能性が高い」

 俺は一息ついてから口を開く。


「そんな重大な秘密を親しくもない陰キャが聞いてきて、答えてくれるわけないじゃないですか」


「……そうだな」

 先生は引きつった顔でそう答えた。


「じゃあ、そういうことなんで」

 俺は椅子から立ち上がる。


「ま、待って!」

 背後から聞こえる必死な声。

 俺は性懲りもなく振り向いてしまう。


「学園1の美少女の担任は教師三年目には荷が重くて……日隠くん、協力してくれないかな」

 うるうるとした茶色の瞳が上目遣いによってより強力になる。その顔はまさに悲劇のヒロインという状態だった。


「わかりましたよ……」

 こうして俺は2度目の失敗に足を踏み入れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る