#9 ちはるファンタジー




「じゃんっ。ショートケーキです!」

「おー、ショートケーキだ。まゆちゃん、お絵かき上手だね?」


 なでなですると、「えへへぇ、」と笑顔が蕩ける。

 得意半分、照れ半分の愛くるしいお顔。


茉遊まゆ、お皿のおかたづけできるかな?」

「うん!」千遊ちゃんママが尋ねると、まゆは元気に頷く。

「ついでに、お茶を持ってきてもらえる?」

 付け足してママがリクエストすると、

 まゆは「はぁい♪」と元気にお返事して、――めいっぱいお茶をついだグラスをトレイに載せてくる。そろ~り、そろりと。


 「ちょちょ、、」さすがに慌てて、

 膨らんだお腹を気にしつつ、ママは立ち上がってトレイごとそれを受け取る。


「す、すごいね茉遊。ありがと」

 ママがお礼を告げると、まゆはえっへんと胸を張る。

「とうぜんですよ? マユはのおねえちゃんなんですから」

 か、かわいい。

 さらさらの黒髪に折り目正しいブラウス。清楚可憐な容姿に比しておてんば気質とか最高かよ。


 しかし結婚披露宴のとき彼女のお腹にいた赤ちゃんが、もう年長さんだなんて……。


「弟が生まれたらもーっとお姉ちゃんになれるね?」

「おねえちゃんじゃだめなんです。マユはおよめさんをめざしてるんだから」

「おお、、」高みを目指す者は現状に満足しないらしい。


 すると、まゆはとことこと歩み寄り、


 そっ、


 とあたしのお腹の上に手を置く。


「ちはるさん、」

「うん?」

「――いつかいっしょに、あそびにきてね」

「??」

 それだけ言うとぽっと頬を赤らめて、まゆはリビングから廊下へ出て行った。



「――っ、ねぇ、ちぃちゃん」

「ぅお、」いきなり前のめりに。

「最近した!?」

「ふぇっ!? し、したけど……??」

 ただごとならぬ目で千遊ちゃんが迫ってきて。

 思わず口を突いた告白を気にも留めず、彼女はごくりと唾を呑む。


「じ、じつはね……この子が宿ったとき、茉遊に教えられたの」

 ええ、と思わず声が漏れる。秘め事の声を聞いてたとかじゃなくてか(←ロマンのないやつ)。

 刹那、はっと何かに気付き「ごめん、、」と告げる千遊ちゃん。

「き、気にしないでよ!」慌ててあたしは手のひらを振って。

「――実は昨日出されたやつ、まだ残ってんだよね。ついにきたのかしら?」

「!」

 ふと心当たりをぼそりと呟くと、千遊ちゃんはぼっと赤くなって頬を手で覆っていた。


「やめてくれ、ちぃちゃん。その無自覚はウチに効く……」


 ちなみにまゆは、おトイレだったようで、ほどなく戻ってきた。



     *


(前日の夜……)


「うーん」

「どうした、ちはる?」

「これをどう使おうかと思っての」

 あたしはごそごそと寝間着のスウェットから包みを取り出す。

 丸いシルエットが浮かんだ〇・〇一。


「竿を替えるのかな?」

「おっと間違えた。これじゃ」


 小ネタのためだけにポケットに忍ばせといたそれをぺっとテーブルに置き、あたしは茶封筒を取り出す。


「じつはな、バイト先からお小遣いをいただいたのじゃ……☆」

 んふふ、と口元を隠すと、


「ち、ちはる! 早まるな、今からでもいいから返してこい」

「ごめんなさい、つい出来心で……って違うわ!!!」

 本気で心配すんなや本気で!

 まったく……そこまで欲深い人間じゃないかんね?

 まぁそーゆー欲は、たくさんあるケド……。。


「ほら、なんだかんだ三年必死こいて働いたから」

「いつも感謝してます」(最敬礼)

「で、『話があるから』って、ランチ帯のピークが過ぎた頃に店長から呼び出されて――あとは流れで」

「――なるほど、(会社の)言うこと聞く見返りにお小遣いもらっちゃったんだ……」

「『明日も(ランチ帯のシフト)よろしくね』って……いっぱい(お金)出されちゃった。こんなの断れない……」

 

 中身を取り出し眺める。渋沢三枚。

 紙ぺら三枚のはずなのに――時給二十三時間分の重みが、そこにはある。


「つまりボーナスですね?」

「ボーナスです」

 顔を見合わせて互いに目を輝かせる。

 人生初のボーナス。

 ――使い道は、もう決めている。


「――だから悠太、えっちしよ☆」

「どうしてそうなる!?」

「考えるな、感じろ!」「ふぎゃっ!?」

 ぴっと電気を消したあたしは、彼に襲いかかった。


「ま、まだお風呂、、、」

「乙女みたいなこと言ってんじゃねー!」

 馬乗りのままワイシャツを脱がせてベルトを外す。


「――え、」

 うそ、

「――ガチガチ?」

 準備万端。

 なんで? ムラムラしてたの?

 きょとんと愛棒をつつけば、


「……なんか、さっきの会話で妄想が膨らんじゃって」

「膨らませてるのはこっちだろ!」(物理)

 とか言いながら、あたしもぬるぬるなんで……。

「あたしのことも、きもちくして?」

 あてがって腰を落とせば、ぬぷぷ……♡とあっさり入っていった。

 あたしは悠太専用機でいいです、はい。



「他の人としてるとこ想像しちゃった……?」

「、なわけないし……っ」

 とか言いながらそっぽを向く。

 赤くなっちゃって、かわいいやつめ。


「犯したのは悠太のくせに……♡」

「ッ、!」

 中でびくっと脈を打つ。

 表情に余裕がなくなって。

 いいよ。そのまま。

 二人の赤ちゃん、一緒につくろ?


「ん、」唇を這わせて、

「ん……」舌を絡める。

 瞬間、どびゅっと奥にかかって。

「――これはきたやろ」

 見下ろしながら。

 軽い調子で告げれば、「どうすかねー、」と笑って、悠太はケモノめいた眼差しを解いた。


「んしょ……うわー、めっちゃ出てる……」



     *


 スウェットを着直し、


「旅行に行かない?」

 あたしは尋ねる。


「これで」(ぴらっ……♪)

「いいんすか!?」

「日頃のご愛顧に感謝を込めて⭐︎」

 ひらひらと踊る渋沢。

「圧倒的感謝っ……!」

「苦しゅうない⭐︎」

 まだまだ足りないかもだけど……こんな時くらい恩返ししたいからね。


「それに……」

「それに?」

「ぃ、いつまで二人の生活なのかだって、わかんないっしょ?」

「っ、」

 恥ずかしくて思わずそっぽを向いてしまったけど、

 ――いつかは、って思ってるし。

 今日がその日であってほしいって、思ってる。


「もし、授かったら気軽に旅行なんて行けないし。だから、今のうちに、ね?」


 頬を掻いて尋ねれば、

 「ん、」と彼も頷く。


 つらかったこともあるけれど、

 ――友達のまま、好きになった頃から。


 あたしは悠太だけを愛してる。


 新たな幸せと引き換えに失うだろうその気持ちを。

 あたしは心の小箱に、そっとしまった。




 ――――――

 ……



「いでで……」

 近ごろ歩くと関節が痛い。


 物陰で休んでいると、空いた食器を抱えて戻ってきたパート仲間が「大丈夫?」と声をかけてくれた。始めたての研修期間のときに教育係になってくれたベテランの先輩主婦さん。


「店長呼ぼっか?」

「平気平気!」

 あたしは顔の前で手を振る。

 ゆうてもうチョイで上がりだし。もうひと頑張りしなくちゃね。


「私も肩が凝るのよねー」と彼女。

「腰痛いん?」

「ゃ、ここ(脚の付け根)らへん。やたら動悸がするしすぐ息上がるし、トシなんすかねー?」

 まぁ三十年生きてればガタも来るか……なんて自虐的に苦笑してたら、


「っ。なーちゃん、最近した?」

「へ、?」


 突然神妙に。

 思わず釣り上げた口角が固まって、「ええと、、」と言葉を探す。


 三週間前もあったな、こんな流れ……?


「ふ、ふつーに今朝とか?(爆)」

「妊活してる?」

「ええ、そらもうどびゅっと……」

 もはやつけないのが習慣化してるだけなんすけどね(爆)


「無責任なことは言えないけど、、」

 そう切り出して、彼女は顎に手を当てる。


「――赤ちゃん、いるんじゃないの?」

「はぁ……?」


 ありふれた土曜日の午後。

 なんでもない時間の中に、突如霹靂が走り抜けた。――――……



◇次回予告◇(33秒)


ちはる「やりましたー!」

亜子めい「「おめでとー!!」」

ちゆ「おめでとうちぃちゃん!」

ちはる「みんなありがとー! ちはるは幸せ者です…⭐︎」

マユ「えっへん。これもマユのおかげ……」

ちゆ「こら、出しゃばんないの!」

めい「これはおしべとめしべがね……」

亜子「若林先生、真面目語らんでよろしい!」


ちはる「悠太も出てきなよー?」

ちゆ「主役もこっちこーい!」

悠太「ここは女性陣で……」

ちはる「もー、度胸のないヤツだなー? 亜子めいよろしく!」

亜子「なとりんもおいでよ!」

めい「作者に私らの出番アピれ」

悠太「ちょちょ、、ゎっ」(ぽよん♪)

亜子「きゃぁ!?〃」

めい「……(冷め切った目)」

ちはる「ゆ、悠太を誘惑するなぁー!!」

 、、とゆうわけで次回っ、『友達のまま好きになってもいいですか?』最終回!


『友達のままでも、ふーふでも』


 ――絶対運命、黙示ろ痛゛ッ!?


悠太「それはさすがに怒られる!」

ちはる「あてて……ら、来週もみてね⭐︎」



⭐︎機動戦艦ナデシコみたいなノリが好きです。

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友達のまま好きになってもいいですか? みやび @arismi

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