第36話
やがて、朝が来て。目を開けると岩島さんの寝顔があって。カーテンの隙間から覗く空は明るく、外でスズメ達がチュンチュン鳴いていて。
素肌に彼の温もりを感じ、下半身には昨夜の名残があって。そして、現実に戻され。
無意識に悲鳴を上げていた。それは嫌だという感情からではなく、昨夜の行為の光景を思い出し。恥ずかしさからの悲鳴。
すると、足音が聞こえ、扉が開く音が聞こえ。また足音が聞こえ、すぐに扉が開く。
「――は? ななな、何やねん急に!」
私の声に驚いて、岩島さんが飛び起きた。舌を縺れさせて焦っている彼は、部屋の出入り口の方を見て硬直している。
何事かと思い、上体を起こしてそちらを見れば、私の思考回路も硬直した。
「きさま……死にたいようだな?」
開いた扉の向こうに立っているのは亮平おじさんで。スーツ姿のおじさんは、般若面のような形相でこちらを見下ろしている。
今の私達の姿は、明らかに行為の後を表しており。殺気立ったおじさんに何を言っても、言い訳がましいとしか思えず。愛多ければ憎しみ至るというが、多すぎる愛も考えものだ。
「ホンマ、三十越えた娘に親心働かせるんは勝手ですけど、その夫にまで口出すんは過保護過ぎんで?」
岩島さんは憎まれ口を叩いているが、胡座をかいている右足は小刻みに揺れている。彼が貧乏揺すりをしている時は、明らかに焦っている時。その証拠に目は泳いでいる。
「だったら、なぜ娘は悲鳴を上げたんだ?」
「そら、ワシも知りませんて。……なんで上げたんや?」
岩島さんの目がこちらに向き、私は自分が裸だったことに気付いて身体を掛け布団で隠し。そして、彼から目を逸らして、
「……なんでこうなったのか分からなくて」
そう答えた瞬間、亮平おじさんは更に目を見開いて岩島さんを睨む。
「ちゃうちゃうちゃう、そらちゃう! 見てみい? お前がわけ分からん答え方しとるから、あのおっちゃん勘違いしとんで!」
焦った岩島さんは声を荒げ。やがて頭を抱え、
「……ホンマに今日生きられるか分かららへん」
と、彼は深く溜め息を吐く。
お前が好きやねん5 夜市 @yoruichi4649
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