第4話 初貫通
今日もカリンは元気に走り回っているな、なんて思いながら洗濯物を取り込もうとある部屋の襖の前に来て感じる違和感。ん? 襖を二度見する。
こぶし大くらいの穴が出来ていた。これまであらゆる猫達が襖を傷めてくれていたが、見事に貫通した穴を作られたのは、今回が初めてだ。
犯人は言わずもがなである。
「あぁあ……やりおったな。」と呟いた時、その犯人が揚々とその穴から飛び込んできた。ぼうっと立っている私に少し距離をおいてカリンがこちらを見ている。
何かをしている訳でもなく、しようとしている訳でもなく、ただ立っているだけの人間が奇妙に思えたのか、カリンはじっと様子を伺っている。もちろん、カリンのやらかしたことは褒められることではないのだが、カリンを叱ったとしてどうだろう。理解してくれるかどうか悩ましかった。
ひとまず、襖にあいた穴の周りを触りながら、修繕方法を考えていた。この襖だけに限ったことではないのだが、これまでに飼ってきた猫達が残した悪戯の後があちらこちらに残っている。場所によっては下地と化した古い襖紙が覗けて、我が家の歴史を彷彿とさせてくれる。
そうしながら、破けた穴のまわりを確認していると、横から白い手がちょんちょんと割り込んでくる。揺れる襖紙に誘われたカリンが傍に来ていた。
「カリンさんよぉ。襖に穴をあけたのは君が初めてなんだよ?」
せめて恨み言の一つ位は言わせてもらおう。この頃には、その名が自分を指していると自覚し始めたカリンは、こちらをちらりと見上げる。その目は「何のこと?」と言っているとしかみえない丸くてあどけない色をしていた。
どうせまた破かれるなら、ホームセンターで襖紙を買ってきて直せばいいか。最初から通り道をつくってしまおう。穴の周りを指で探りながら、固い部位を確認した。どうやら、猫が通る穴を作れそうである。
修繕の取り掛るまでの数日間、その襖は嘆かわしい状態のままで縦横無尽に走る猫を通していた。カリン自身が通る程しかない穴であるにもかかわらず、全速力で通り抜けていく様には舌を巻く。
よくぶつからないものである。カリンの運動神経は高そうだなと思いながら、私はスマホでの動画鑑賞をしていた。しばらくして戻ってきたカリンは、お気に入りのおもちゃを咥えていた。そして私の前でポトリとそれを落とした。
一人遊びは飽きましたか。一緒に遊ぼう。私はスマホをおいて、おもちゃを手に取った。
おてんばな猫姫さんよ。飼い主をナメるなよ 錦戸琴音 @windbell383
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。おてんばな猫姫さんよ。飼い主をナメるなよの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
保護した子猫の家族全員に会ったかもしれない。/星町憩
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます