第13話 『お休みも大事』
放課後、瑠奈がいつものようにスマホを握りしめ、眉をひそめている。
彼女の表情に明るさがなく、いつもなら楽しそうに「いいね!」をチェックしているはずのスマホ画面を、今日はじっと見つめていた。
数日前に投稿した「放課後デート」の写真。
彼女が「今日は塩谷くんと放課後デート!」と書き添えて投稿したものだが、その投稿が今、彼女の心を重くしている。
「なんで……こんなこと言われなきゃいけないの?」
瑠奈は小さな声で呟いた。
「どうしたんだ?」
と聞くと、瑠奈が悲しそうな表情を浮かべながら、俺にスマホの画面を見せてきた。
コメント欄には、最近になって増え始めた批判的なコメントがずらりと並んでいる。
「偽リア充」「やりすぎ」「ただの見栄じゃないの?」といった、否定的な言葉がどんどん増えていた。
「放課後デートの写真を投稿しただけなのに……こんな風に言われるなんて思わなかった」
瑠奈の声には、明らかにショックが滲んでいた。
もともと彼女は、リアルで友達が少ないことを気にしていた。
それを埋めるようにSNSで「リア充」を演じ、誰かに「羨ましい」と思われることで自分の価値を確かめていたのだ。
しかしそんな彼女にとって、その彼女の居場所でもあるSNSで否定されることは、自分から居場所を奪われた、それに等しい。
彼女が「リア充キャラ」にこだわる理由を知っていた俺は、その心の中の不安や孤独も少し理解しているつもりだった。
だからこそ、俺は彼女が傷ついているのを放っておけなかった。
「なあ、瑠奈」
少し考えてから、俺はそっと声をかけた。
「確かに、SNSで批判されるのは辛いかもしれない。でもさ、SNSのために無理にリア充を演じなくても、普通にしていればいいんじゃないか?」
瑠奈は、驚いたように顔を上げ、戸惑いの色を浮かべた瞳で俺を見つめた。
「でも……私には、これしかないんだよ」
やはりこの言葉だ。
視線を下げ、再びスマホの画面を見つめた彼女の声には、深い不安が滲んでいるように感じられた。
彼女にとって、SNSは「リア充な自分」を見せることで「自分の居場所」を作る手段だったのだ。
俺は何も言えずにしばらく黙っていたが、少し考えてから、思い切って彼女に伝えた。
「俺は、SNSの瑠奈じゃなくて、普通の瑠奈もいいと思うけどな」
自分でも不器用な言葉だと感じたが、それが俺の本音だった。
彼女がSNSで見せるキラキラとした姿も魅力的だが、素のままの瑠奈も悪くない。
むしろ、最近の彼女の自然体な表情に触れるたびに、特別な感情を抱いている自分に気づき始めていた。
瑠奈は少し驚いたように俺を見つめていたが、やがてふっと小さなため息をついた。そして、少しだけ顔をほころばせた。
「……ありがとう、塩谷くん。そう言ってもらえると……少し気が楽になる」
彼女は言葉をかみしめるようにして、そう呟いた。
それからゆっくりとスマホの電源を切り、心の中の重荷を少しだけ下ろしたような表情を浮かべた。
「ふぅ……」
ゆっくりと息を吐く瑠奈。
その目には新たな決意のようなものが浮かんでいるような気がした。
******
その夜、家で宿題をしていると、スマホに通知が入った。画面を確認すると、瑠奈からのメッセージだった。
『──今日はありがとう。少しの間、SNSから離れてみることにする』
『大丈夫なのか?』
『塩谷くんに言われたから、って訳でもないよ。ちゃんとこれは自分でした決断だから安心して、塩谷くんが悪く思わなくていいから』
彼女のメッセージには、不安と共に小さな決意も感じられた。
普段、リア充アピールを支えにしている彼女が、自分からSNSと距離を置くことを決意するなんて、彼女にとって大きな一歩に違いない。
「焦らずに休んでいいんじゃないか」と、俺は返信を送った。
しばらくして返事が届いた。「うん、少しゆっくりしてみる」と書かれた短いメッセージには、彼女の気持ちの変化がうかがえる気がした。
もしかすると、俺との関係が彼女の支えになりつつあるのかもしれないと思うと、少しだけ嬉しかった。
俺は彼女の安堵した姿を想像しながら、画面を閉じた。
その夜、瑠奈が抱えている孤独や不安に少しでも寄り添えたことに、静かな満足感を覚えていた。
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学年一の美少女ぼっちに偽彼氏に任命されたので、彼女のことを全力で幸せにしたいと思う やこう @nhh70270
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