かくれんぼ

鈴寺杏

第1話

 私は『かくれんぼ』が少しだけうまい。と思っている。

 なぜ少しだけなのかというと、隠れるのは得意だけれど、見つけるのは上手ではないからだ。



 子供の頃、新居に引っ越すことになった。

 公共事業による立ち退きだったので、転居先も割と近場。学区も同じ。

 そんな中、田舎特有の「新築祝い」という名の飲み会が行われ、親族の一部がやって来た。

 当然、同年代の子供達も何人か来ていたので、酔っぱらって上機嫌な大人たちは放っておいて遊ぼうということになった。

 そこで選ばれたのは『かくれんぼ』だ。

 まだ小学生になる前の年齢の子もいたので、単純なものに決めた。


 最初、自分が鬼となって探す役になった。

 何と言っても我が家、自分のテリトリーだしホストとして当然だった。とはいえ、当時まだ小学校低学年だった私は、引っ越し直後でちゃんと間取りを把握できてはいなかったのだが。


 初回が終わり、次に一番小さい子が「今度は僕が鬼やる!」と立候補した。

 私は、押し入れの上段。布団の間に挟まり息をひそめることにした。

「もういいかい?」

「まーだだよ」

 そんなやり取りが繰り返された後、鬼の子はドタドタと走り回り探し始めた。

 我が家は、豪邸というわけではない。隠れる場所は限られるため、次々とみんなを見つけていく。


 そして最後は、私一人となった。

「〇〇ちゃんどこだろー」

 間近で聞こえる声に、ドキドキしながら身体を縮こませ息を我慢した。

 鬼の子に押し入れの扉を開けられ「マズイ!」と思ったが、覗いただけで扉を閉め去って行った。


 だんだんと鬼の子の気配は離れていき、布団の中の私は緊張を解くことが出来た。


 そのまましばらく隠れていたが、今度は静かになり不安になってきた。


 まだだろうか。

 もう出て行った方がいいかな?

 でもまだ見つかってないし。


 鬼の子を待ちながら、そんなことを頭の中でグルグルと考えていたが、一向に来る様子が無い。

 それから何分経っただろう。

 一人で不安なまま過ごす時間はとても長く感じ、結局出て行くことにした。


 みんなを探し、大人たちのいる部屋へ戻ると、子供達も揃っていていつの間にか『かくれんぼ』は終了しているようだった。

 そこでみんなが普通にしている光景は、私の心をとても寂しくさせた。

 それはまるで「後で分ける約束をしていたお菓子が、知らぬ間に分けられていて、私の物が残ってない」そんな感覚だった。


 大人になった今ならわかる。あれが『虚無』と言われるものだったのだと。



 さて、なぜ私がこのエピソードを思い出したかというと、小説の公開を始めたからだ。

 他人からの視線を「恥ずかしい」と、強く感じる私がなぜ公開という一歩を踏み出せたのか考えてみた。当然私にも「承認欲求」や「目立ちたい」気持ちが存在する。でもその気持ちが「恥ずかしい」に勝てていたなら、もっと前から小説の公開を始めていたと思う。


 そして出した答え。


『きっと誰かに見つけて欲しかった』


 投稿サイトや本屋さんで小説を探すことは、どこか『かくれんぼ』に似ている気がする。


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かくれんぼ 鈴寺杏 @mujikaku

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