第9話 アダ名
何故か唐突に
「それでは改めまして。ワタシは、完全なクソビッチです。これから宜しくお願いします」
本当なら深々と礼をしたいところなのだろうが、歩きながらなので軽い会釈に済ませた超絶美少女。俺もそんなことがあったから彼女の気持ちは分かる。あれは、たしか・・・、あっ、今日のことだったな。とにかく超絶美少女の挨拶を受け、今度は山岸の番となる。
「あ、うん・・・。アタシは、山岸
超絶美少女の【名乗り】を受け、やはり多少の戸惑いが見える山岸。そんな彼女の言葉に、超絶美少女は引っ掛かる。
「よろ? 【よろ】とは、なんですか?」
「【宜しく】のことよ! 略して【よろ】!」
「あ、なるほど・・・。そういう言い方があるのですね」
なんだか浮世離れしているようにも思える超絶美少女。なんとも丁寧な口調で喋る彼女は、どうやら略語───というか、若者言葉に疎いようだ。
「
「え? そ、そう?」
自分の名前を褒められて、山岸はそれなりに照れた。右の人差指で、仄かに赤く染まっている自身の頬をポリポリと掻いている。
「はい。カノンといえば───、ポリフォニーの一つで、様々な作曲家によって素晴らしい楽曲が色々と生み出されています」
「「・・・・・・・」」
超絶美少女の言ったことを理解できなかった俺と山岸は、思わず顔を見合わせた。そんな俺たちを尻目に超絶美少女は続ける。
「あと───、強力な威力で知られていますね」
それはカノン砲───いわゆるキャノン砲だよな?
「・・・・・・・」
山岸は、またしても理解できてない様子。
「それで、アンタの名前はなんなのよ?」
「はい?」
山岸からの問いに、超絶美少女は首を傾げた。すると山岸が畳み掛ける。
「名前よ、名前!」
「ワタシは、完全なクソビッチです。クソビッチと呼んで下さい」
「だから、それはもうイイから! 名前を教えなさいよ!」
「え? え?」
山岸に強く迫られ、超絶美少女は困惑している。そして助けを求めるかのように、俺の顔を見る。素直に名前を教えればイイだけなのに、どうしたのだろう。なにか教えてはいけない事情でもあるのだろうか。しかしまぁ、超絶美少女は困っている様子。そんな彼女のことを放ってはおけず、俺はついつい口を挟む。
「おい、山岸。少し落ち着けよ」
「はぁ!? 落ち着けるワケないでしょ! ってか、なんでアンタは落ち着てんのよ!」
山岸の怒りの矛先が、俺へと変更された。
「アタシは名前を教えたのに、このコは教えてくれないなんて、どう考えても
それはまぁ、そうなんだけど・・・。
山岸はおろか、俺もまだ超絶美少女からキチンとした自己紹介はされていない。それはなんとも
「だからワタシは、完全な───」
「もうイイって言ってんでしょ! そんなの呼べるワケないじゃん!」
「そ、そんな・・・」
山岸に言い切られ、悲嘆にくれる超絶美少女。たしかに彼女は変なところがあるが、とはいえ少し可哀相に思える。超絶美少女は眉を八の字にして、今にも泣き出しそうな様子だからだ。よって必然的に、俺は彼女の肩を持つ。
・・・言っておくが、これは比喩表現だ。実際に超絶美少女の肩を持ったりはしない。肩を組んだり、肩を抱き寄せたりとか、色々としてみたくはあるけれど・・・。
「まぁまぁ、とにかく怒鳴るなよ」
「怒鳴ってないわよ!」
いや、怒鳴ってるだろ・・・。怒鳴ってなくて、その声量なら、それはそれで
「あぁん、もう! じゃあ、アダ名! アダ名はないの?」
妥協点を
「アダ名は、色々とありますけど・・・」
「なら、教えてよ」
「えっと・・・」
超絶美少女は軽く握った右拳を顎に当てた。そして些かの
「アンナ、ジェンナ、カンジー、アンジー、アニー、アンヌ、ジェニー、ジェンヌ、カヌ、カッゼ、カンズ、エンナ、エニー・・・」
「ちょ、ちょ、ちょっと!! いくつあるのよ!?」
超絶美少女が用意した多数の答えに、山岸は戸惑っている。そして勿論、俺も。
ホントにいくつあるんだよ・・・。
「さぁ? 数えたことはないですけど・・・。二十くらいですかね?」
「多すぎ!!」
山岸の声が、昇降口に
・・・たしかに多すぎるだろ。もはや同一人物のアダ名とは思えないぞ。
次の更新予定
俺の隣にはクソビッチがいる @JULIA_JULIA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺の隣にはクソビッチがいるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます