君が僕に愛してるを言うまでは

清野 葡萄

コチョウラン

手掛かり一つ見つからない』

『家に手掛かりがないんじゃ、もう捜査しよう

がないぞ・・・」

『にしても、不思議だよなぁ人生順調に進んでた小説家がいきなり殺人事件を起こすなんて』『喋ってないで真面目に捜査してください。一つでも多く証拠を見つけないといけないんです

から』

 全てのことにおいて順調だった小説家、雨宮薫が今月の10日に殺人事件を起こした。被害者は、浅野明日花。容姿端麗、成績優秀おまけに誰にでも優しく、学生の頃には生徒会長を務めていた。

そんな彼女がなぜ小説家である雨宮薫に殺害されたのか、私たちは捜査しているのだが・・・捜査は見事なまでに空振りし続けていた。

『ダメですね、ここにも手掛かりはなさそうで

す』

『ちくしょう、犯人はわかってるっていうのに…・・まるで奴に踊らされてるようだ、くそっ』

先輩捜査官がアニメやドラマで言いそうなセリフを吐き捨て、足早に部屋から出ていく。

私もそれに急いでついて行こうとした時だっ

た。

背後からパリンッとものが落ちる音がして、振り返った。そこには花瓶とアザレアの花が水浸しになった床に散らばっていた。

どうやら私が出口に向かう時に落としてしま

ったらしい。

それにしても何でアザレア・・・?まぁ、いい

か。

そのままにして帰るわけには行かないので急いで片付けようとした時だ。花瓶のすぐ横に結麗に四つ折りにされている紙を発見した。

『うわつ』

一枚のA4サイズの原稿用紙にびっしりと文字が書き詰められている。何かの手掛かりになるかもしれない。私はその文を読むことにした。



なぜ僕が浅野明日花を殺さなければいけなかったのか、説明するにはやはり12年前に戻る必要があるだろう。

『はぁ…』

僕はまたかと呆れたようなため息をこぼすと、彼女、浅野明日花がそれに気づいたように話しかけてくる。

『また教科書忘れたの?』

『うん…ごめん今日も教科書見せてくれない?』

『いいよ、早く戻ってくるといいね』

そう言って明日花が机を近づけて、教科書を見せてくれる。こんな生活はいつまで続くのだろうか。

 忘れたは僕たちにとって隠語だ。

ほんとは、忘れたではなく取られたが正解だ。

 消しゴムや鉛筆を取るならまだしも、学校で一番なくては困る教科書を取るなんて、なんてタチの悪い嫌がらせなんだ。

 だが家に帰るともっとタチの悪い嫌がらせが待っている。

僕の家族は他人から見たら普通だ。特別お金持ちではなかったが不便ではなかった。その代わり家に帰れば、まるでタイミングを見計らったように両親は喧嘩をし始める。僕が『ただいま』といっても両親は喧嘩に夢中で『おかえり』という当たり前の言葉すら返ってこないのだ。

 だが、僕は寂しくなかった。正確には、さびしかったがそんな寂しさを紛らわしてくれる物が僕にはあった。

 全体的に青と黒で統一された海の上を鯨が潮を吹きながら、生き生きと泳いでいる。タイトル『蒼い鯨』。

 鯨が生き生きと泳ぐ姿が描かれた表紙はいつでも僕の寂しさを紛らわしてくれた。

 といっても、僕はこの小説を読み終えていなかった。小説の章は六つに分けられている。すぐに読み終わって飽きてしまわぬように、一年に二章ずつ読んでいた。

 そんな生活も今日で終わってしまう。今日は残った五章と六章を読む日だった。名残惜しい気持ちになったが、同時に期待が込み上げてくる。それだけ僕にとっては、大切で生きる意味ですらあったのだ。

 だが僕は小説を読み終えることができなかった。



この日、僕は小説を読み終えるはずだった。

いつもなら家で小説を読むのだが、朝読んだところの続きが気になり学校に持っていってしまった。

 学校で小説が終わる最後のページまで読んだところで、六校時目の始まりを知らせる鐘が鳴ってしまった。

僕は仕方なく机の横にかけてあるカバンを開け、本をそっとしまった。六校時目は国語だ。

 僕はいつも通り、隣の席にいる明日花に声をかけた。

『教科書忘れたから見せてくれない?』

 そうすると彼女は待ってましたと言わんばかりに口を開く。

『いいよけど、また忘れたの?』

 彼女は少しいたずらな笑みを浮かべながら僕の顔見つめている。

『明日は忘れないでね』

そう言うと引きずる音を立てながら自分の机と僕の机をくっつけた。僕は相変わらず申し訳なさそうに授業をやり過ごす。この時間は僕にとって地獄だったことを今でも覚えている。

 授業が終わり僕はトイレに行ってから帰りの支度をしようとしていた。

『ノート、筆箱…あれ?』

授業が始まる前、確かにカバンの中にしまったはずの小説がそこにはなかったのだ。

 僕はそこで小説をなくしてしまった。

いや、いつも教科書を取る誰かに取られてしまったのだろう。

 本当はこの時点で取られたことに気がついていたが信じたくなかった。あれは両親がくれた最初で最後の誕生日プレゼントであり、僕にとって生きる意味を与えてくれる唯一の物だったから。

 だから僕はみんなが帰った後の教室に一人残り小説を探した。

 当然ながらどれだけ探しても見つかることはなく諦めて帰ろうとした時、ガラガラガラと音がしたと思ったら『どうしたの?』と聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 声がした方に目を向けると、そこには赤いランドセルを背負った明日花が心配そうにこちらを見つめている。

『何か探してるの?』

『うん…僕にとって一番大切な物…』

『そっか、そんなに大切な物なんだね。でも、もう帰らないと。日が暮れちゃうよ』

彼女が言う通り、外は今にも日が暮れてしまいそうなほど暗かった。時計の針はいつのまにか十八時を指している。

 日が暮れちゃう前に一緒に帰ろうか。探し物ならあとでゆっくり探せばいいよ。私も手伝うし!』

 そう言って彼女は僕の手を強引に引っ張った。

 僕は全てを奪われた気分だった。誰だか知らないが、嫌がらせをしてくる人は教科書だけでなく、僕に唯一生き甲斐を与えてくれた物までも一瞬で奪っていってしまったのだ。

 何もかもにやる気をなくしてしまった僕は、妙にご機嫌な明日花に手を引かれながら帰路につく。

『探し物、そんなに大切な物だったの?』

『うん…あの本は僕に唯一生きる意味を与えてくれた本なんだ』

『ふーん、そっかその本は誰かにもらった物だったの?』

『そうだよ、両親が初めてくれた物なんだ』

 彼女は、まるでこの世の終わりのような顔をしている僕とは逆に嬉しそうに言う。

『薫くんはお母さんとお父さんのことをが大好きなんだね』

 僕は驚いた。

いつも喧嘩をして僕なんか気にしてもくれない親を大好きな訳がない…はずなのに、僕の顔は赤くなり熱を持っていた。

 自分でも熱くなっていく顔に出た感情を隠すように僕は震えた声で言う。

『大好きな訳ないだろ!あんな親!』

 彼女は僕の心を見透かしているかのように話し始めた。

『そんな訳ないでしょ?親にどんな酷いことをされて、どれだけ憎いと思っても、心の底から親を嫌いになれる子供はいないよ!人は愛された分その人を愛してしまう生き物だからね』

彼女は続けた。

『仮に薫くんが例外で、親を心の底から嫌いなら、私が愛してあげる。その分、薫くんも私を愛してね。約束。』

 僕は半ば強引にゆびきりげんまんをさせられた。いつぶりだろかゆびきりげんまんをしたのは。

 その時触れた明日花の手は冬にも関わらず温かった。



 私が『ひまわり』という題名のついた、雨宮薫と浅野明日花の約束の話まで読み終えたところで、玄関の方から先輩捜査官の声が聞こえてきた。

『さっきから、何やってんだ?早く次行くぞ』

『すみません、少し気になる物を見つけまして』

『こんな何もないような部屋で何見つけたってんだよ』

先輩捜査官は無理やり私が持っていた一枚の原稿用紙を取り目を通す。

『うわっなんじゃこりゃ。マス目の意味ないくらい文字びっしりだな…気持ち悪りぃ、早く捨てて次行くぞ』

『ちょっと待ってください。この紙も何かの証拠になるかもしれんません』

 私は先輩捜査官から紙を強引に取り返した。

『わーたよ、全く。早く最後まで読んで次行くぞ』

 先輩はため息をつきながら床に座りこちらを見ている。

私は気にせず続きを読み始めた。



あの日の明日花との約束から五年が経った。

相変わらず僕は彼女と一緒の高校に進み、いつも一緒にいる。なぜなら僕の生きる意味は彼女そのものになっていたからである。

 この頃の僕は、かつての生きる意味であった『蒼い鯨』の事すら忘れ、彼女に依存していた。

 彼女は優等生で、今じゃ高校二年生にして生徒会長を務めている。

『今日も、一緒に帰ろうね』

『もちろん』

そう言うと彼女は決まって笑顔になった。

僕はそんな彼女の笑顔を毎日見るのが楽しみだった。

『今日、ちょっと遅くなっちゃうかも』

いつもみんなに笑顔で振る舞っている彼女も暇ではない。

 彼女は今やみんなの憧れでもあるのだ。そんなみんなの憧れで居続けるためにも、仕事をサボる訳にはいかないのだ。

『いいよ、小説でも読んで待ってるよ』

『相変わらず、小説好きなんだね』

 相変わらず僕は、あの日からすっかり変わってしまった彼女とは違い小説が好きだった。 

変わったのは、かつての生きる意味を忘れてしまった事と身長が伸びた事くらいだろう。

 そんな事考えている内に彼女が昇降口から出てきた。

『ごめん、待ったよね。じゃあ帰ろっか』

 あの日のように彼女に手を握られ帰路につく。

 僕は懐中電灯で足元を照らしながら彼女の横を歩いていた。生憎ここは夜でも足元を照らしてくれる都会とは違い、虫の声が聞こえる田舎だ。

 でも僕達はこの田舎の夜が好きだった。都会ではあまり見えない綺麗な星空が、ここではすぐ上を見上げれば手が届いてしまうくらい明るく見えるからだ。

 この日は天気が良いせいか、いつもより星空が明るく見えた。

 僕は星に願いを託すように祈った。

『いつまでも明日花といられますように』

『星に祈らなくても、ずっと一緒いるよ』

彼女が頬を赤く染めながら、照れくさそうに言った。

 どうやら強く願すぎたあまり、声に出してしまっていたらしい。それだけ強く願うほどに心の底からの願いだった。

 しかし、星は僕の願いを叶えてくれなかった。むしろこの出来事がきっかけで僕と明日花の人生は崩壊し始めたのだ。



僕は高校卒業後、すぐに小説家としてデビューした。

 一作目に、星に願ったあの夜を中心に物語が展開されていく、『星夜一縷』を書き上げた。

 僕が書き上げた『星夜一縷』は、見事に大ヒットし、沢山の賞を受賞した。

 明日花からも、『星夜一縷』が大ヒットしたお祝いに白いアザレアをもらった。

『なんで白いアザレア?』

『綺麗でしょ?それにその花、薫くんにピッタリだと思って』

白いアザレアが僕に似合う?一体どう言うことだろうか…

 疑問に思う僕を見て察したのか彼女が照れくさそうに言う。

『白いアザレアの花言葉知ってる?』

 僕は当然花なんて興味がなく、花言葉なんて知るわけがなかった。

『白いアザレアの花言葉はね、貴方に愛されて幸せ。アザレア自体の花言葉はね』

—ピンポーン

 彼女がアザレア自体の花言葉を言おうとしていた時、タイミングよく家のインターホンが鳴った。

『ごめん、出てくるね』

『…うん』

彼女が少し悲しそうにそう返すと、僕は玄関へ向かった。

 今思えばこの頃から彼女の崩壊が始まってしまっていたのかもしれない。

 僕は、一作目『星夜一縷』の映画化が決まると共に二作目『海誓山盟』を発表し、さらに小説家としての勢いをつけていた。

 その勢いにのり、三作目『風樹之嘆』そして四作目『影駭響震』を発表していった。

 僕は新作を出すたびに有名になっていき、四作目を出す頃には家に帰る時間はすでに日が変わってしまう事があった。

 この頃の彼女は崩壊が進み、心身共にやつれていた。仕事を辞め、睡眠薬に頼らないと眠れない日々。

 彼女にとって大変な時期だった。

しかし、さらに彼女は堕ちていく。



薫くん、私を殺してくれない?』

彼女がやつれた顔に引き攣った笑顔を浮かべながら、僕に言った。

『…え?なんで?』

僕は驚きを隠せなかった。

誰だってそうだろ。愛している人に急に自分を殺してなんて言われたら、驚きを隠せるわけがない。

 彼女は引き攣った笑顔を浮かべたまま、言葉を振り絞るように言う。

『あのね、薫くんは小説が売れる度にどんどん有名になって言ってるでしょ?私、それが耐えられないの。薫くんがどんどん私から離れて行っちゃってるみたいで…』

彼女は、今にも泣きそうな声で続ける。

『だからね、まだ薫くんが私を愛してくれてる間に私を薫くんの手で殺して欲しいの』

 彼女は遂に泣き始めてしまった。

僕も彼女に釣られて感情が込み上げてくる。 込み上げてくる感情を必死に抑え、次に僕が発した言葉は、『…わかった』だった。

 彼女は右目から一筋の涙を流しながら、笑顔で言う。

『ありがとう。最愛の人に殺してもらえるなんて、私は幸せ者だね』

 僕は最低だ。こんな時だって言うのに僕は泣いている彼女を綺麗だと思ってしまった。

確かに僕は、彼女を殺す。

だけどそれは今じゃない。

『その代わり、君が僕に愛してるを言ってくれたらね』

『わかった!今すぐにでも言えるけど、今言うのはロマンチックじゃないから、次のロマンチックが来た時に残しておこう!』

 彼女もどうせ死ぬなら、ロマンチックなシチュエーションの中で死にたいのだろう。

 僕は彼女がこの選択を選ぶのをわかっていた。

彼女はロンチストだ。これまでも、これからも。

 僕はこの日、二度目の生きる意味が変わった日だった。

いつかは僕は彼女を手にかけなくればいけない。だからせめて、君が僕に愛してるを言うまでは。



次の日から彼女は見違えるほど変わっていった。

 ご飯を一日三食しっかり食べるようになり、外に外出することも前よりはるかに増えていった。

 相変わらず、寝る時は睡眠薬に頼っていたが、心身共にやつれていた彼女は確実に回復していったように思えていた。

 しかし、その日は突然訪れる。

僕が編集者の人と打ち合わせをするため外出していた時だった。

 僕が帰って来ると、お風呂場の電気がついている。中には誰かが立っている影が見えた。

僕は恐る恐る扉を開ける。

中にいたのは調理用の包丁を持った明日花だった。風呂場にはお湯が張られている。

 まるで今から自殺しようとしているかのようだった。

彼女の左目からは一筋の涙が溢れていた。

『あれ、帰ってたの?』

彼女は包丁をかくし、そう言った。

『うん、ただいま。お風呂場で何やってたの?』

『あ、包丁を洗おうと思って』

彼女が言葉を振り絞ってやっと発した言葉は明らかに嘘だった。

 しかし、それ以上僕は彼女の闇に踏み込む事ができなかった。

この嘘を追求してしまえば、もう彼女の近くに居られなくなってしまう気がしたから。

 だが、もしこの時彼女から離れてしまうとわかっていてでも、勇気を出して彼女の闇に踏み込んでさえしていれば…少しくらい未来は変わったのかもしれない。

 彼女はこの日を境に自殺未遂を何回も繰り返すようになっていた。

でも、彼女は死ねなかった。いや、死ねなかったわけではない。彼女は死のうと思えばすぐにでも死ねただろう。

 それでも、彼女が死ななかったのは彼女なりにあの日僕とした約束を必死に守ろうとした結果だった。

彼女は毎日苦しんでいる。

 そんな彼女を僕は相変わらず愛してしまっていた。

 彼女も僕を愛してくれていたと思う。

だからせめて、僕も君とした約束を守って君を愛したままの僕の手で終わらせよう。

 僕は次の日、休みを取り彼女と最後の時間を過ごす。映画を観たり、一緒にゲームをやったり、ご飯を一緒に作って食べたりもした。

 時間なんて気にせず彼女と遊べるものは全て遊び尽くした。今までで一番楽しくて充実した日を過ごした。

 でも、ついに僕たちに時間が追いついてしまった。時計の針は今にも君と一番最初にした約束をした時刻にさしかかっている。

『もうこんな時間か。薫くんとの最後の時間、人生で一番楽しかったよ。ありがとうね』

『あれ、気付かれてたのか。ごめんね』

『私のこと愛してる?』

彼女はあの日と同じ、照れ臭そうにそうに聞いた。

『もちろん。昔からこの世で一番愛してる』

彼女は照れながら笑う。

『やっとこの時が来たんだね。私ねずっと愛してる人に殺して欲しかったの。それが小学生の時からの将来の夢、私の生きる意味』

彼女はそう言うと、僕の手に包丁を握らせる。

『ほら、早く刺して?18時超えちゃうよ?』

 そうだ、早くしないと。18時超えちゃう…

彼女は最後の言葉を発した。

『愛してる』

あぁダメだ。視界がボヤけて何も見えない。

 僕の顔に雨が降る。この雨はなかなか止みそうにない。

 だけど、僕は約束を守らなければならない。

それが僕が最後に彼女にしてあげられる唯一のことであり、僕の生きる意味だから。

 僕はやっと渇いた唇を動かし、こう言った。

『僕も愛してる。これまでも、これからも』

ありがとう。

僕は彼女に包丁を勢いよく突き刺した。彼女のお腹はどんどん赤く染まっていく。

 彼女は安心したのか目を瞑り、僕の手を握った。

 やがて、僕は彼女の手の温度に気づく。

彼女の手はあの日と違い冷たかった。彼女は笑ったまま僕に寄りかかっている。彼女の右目からは一筋の涙が流れていた。

『相変わらず、君は綺麗だ』

 笑ったまま涙を流し、僕に寄りかる明日花は今までで一番綺麗だった。

 そんな彼女には、アイビーが似合うだろう。

僕は彼女にアイビーを添えて、部屋を後にした。



あれから五日が経った。

僕は今日も取り調べを受けている。彼女を殺す前に取り調べを受けていたら、緊張して頭が上手くまわらなかっただろう。

しかし、僕は五日前彼女を殺したその時から何も感じられなくなってしまっていた。

 雨宮薫は死んだ。残っているのは雨宮薫と言う名前がついた抜け殻のような何かだ。

『もう、殺して頂けませんか?』

『ダメだ、まだ事件が解決していない』

『もう、証拠見つけたんでしょ?』

そう、僕は彼女と僕との間に何があったのか一枚の原稿用紙に事細かく書き、彼女が最後にくれた白いアザレアと一緒に花瓶に入れておいたのだ。

『あんた、小学生の時物を取られる嫌がらせを受けてたんだろ?』

僕は懐かしいと思いながらゆっくり頷く。

 あの頃は、辛かった。そんな辛い日々を変えてくれたのは君だったな。楽しさを与えてくれただけでなく、僕に新たな生きる意味を与え、愛してくれた。

だから僕は死んでも君を愛して続けるよ。

 たとえ今までの事、結末までもが君に操作されていたとしても。

『浅野明日花の部屋を調べさせてもらったのだがな、あんたの名前が丁寧に書いてある教科書が大量に見つかった。それも一冊や二冊じゃない、計十二冊見つかったよ』

彼は僕の前に、懐かしい教科書たちを並べた。

 その中にかつて僕の生きる意味だった『蒼い鯨』の綺麗な表紙があった。

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