第8話 村と行商人

 マモルとセイナのお陰で村の発展が大きく進んでいた。


 魔獣たちも近辺になかなか現れなくなり、水路ももう少しで完成する。また、畑の周りにも柵をたてることが出来た。柵にはマモルが二日に一度スキル鉄壁(改)をかけている。

 そして村人たちの家の補強もかなり出来ていた。

 

 畑での収穫も豊作といえるだけあり、ビックリボア、ミニボアの皮もキレイになめしてある。冬支度の為にミニボアの一部の革は村人で消費する事になった。マイナの英断である。


「マイナ様、有難うございます!」

「これで今年の冬は風邪をひかないぞ!」


 マイナの領主としての働きは他にも、村の中に大きな集会所を作り、村人が集まって話し合える場所として開放した事。

 また解体所も作って十歳以上の希望する子供たちに解体作業の手伝いをしてもらう事。

 共同トイレ、共同風呂も建設中である。トイレと風呂はマモルとセイナの助言により、いま作っている水路を分岐させて利用する事にしている。


 そうしてせわしなく過ごしていた晩夏の頃に魔族領から行商人の一団が村へとやって来た。

 一団といっても行商人は二人で、十人はその護衛隊である。


「みなさ〜ん、おはようございま〜す。やって来ましたよ〜」


「本日という善き日に皆様に出会えた幸運を神に感謝いたします」


 なかなか個性的な行商人のようだ。魔族領から来たというが見た目は人となんら変わりがない。マモルもセイナも初めて見る魔族の人をみてそう思った。護衛の中にはずんぐりむっくりな人やスラッと長身で耳の長いイケメンもいるので、ひょっとしてドワーフ? エルフ? など話の中でしか知らない種族に出会えたのかもと内心で興奮していたようだ。


 行商人の前にマイナとローエンが行き挨拶をする。マモルとセイナはマイナのすぐ後ろについている。

 

「はじめまして、この度この地方の領主となりましたマイナといいます。どうか今後ともよろしくお願いね」


 マイナの挨拶に行商人の二人はビックリしている。そして慌てて跪いて挨拶をする。


「ご領主様でしたか! 私は魔族領のレイモンド商会に勤めている商人でカラムと申します」


「同じく、ベータです。本日はお日柄もよく……」


「あの、どうか立ってちょうだい。私もまだまだ若輩の身だし、わざわざ危険をおかしてまでこの地に行商しに来てくれている二人にはとても感謝してるわ」 


 マイナの言葉に二人は立ち上がり「恐縮です」と声を揃えた。そこでローエンが二人に声をかける。


「今回もよく来てくれたな。実は集会所という物を建てたんだ。今回はそこに商品を並べてくれないか? 買取して欲しい物もそこに置いてあるんだ」


「分かりました、ローエン村長。それではさっそく集会所にご案内いただけますか?」


 カラムがそう言うとローエンは「こっちだよ」と言って案内をする。それについて行く行商人の一団。しかし護衛の一人がマモルとセイナを見て声をかけてきた。


「俺の名前はハッシュというんだが、突然で失礼だが領主様の護衛にしては若いな? どれほどの強さなのか後ほど手合わせしてもらえないだろうか? 俺たちも身内や魔獣が相手ばかりなので、違う手合いの人とも訓練をしてみたいのだ。領主様、よろしいでしょうか?」


 その護衛の人はマモルたちと同じように人に見えるが魔族領で生活をしているのならば魔力が普通の人よりも多いのだろう。

 マイナはマモルとセイナを見る。するとセイナが頷いたので


「ええ、それではカラムやベータの商売が済み次第、手合わせをしてみますか。だけど、うちの村人たちも見学して良いという条件でならよ」


 マイナはハッシュと名乗った護衛にそう言った。


「許可をいただき有難うございます。それではのちほど、よろしく頼む」


 ハッシュはマイナとマモルたちにそう言ってカラムとベータの元に走って行った。


「え!? 良かったの、セイナ?」

「え!? マモル兄さんがニコニコしてたから良いのかなって思って……」

「僕!? いやいやあんな強そうな人と手合わせなんて出来ないよ?」

「マモル兄さん、鉄壁を使えばダメージ無しでしょ?」

「でも僕は人を攻撃したり出来ないんだよ、今はまだ気持ち的に……」


 二人でそう言い合っているとマイナが


「あの、セイナ姉さま。私もセイナ姉さまが手合わせされるのかと思ったのですが……」


 セイナと目が合って許可をしたのでそう言う。


「えっ!? マイナまで!! 私? 私なの?」


 その言葉にマモル、マイナ、ミアーナが頷く。


「ハア〜…… 分かったわよ。私が手合わせするわよ」


 セイナはそう言って了承したのだった。


 それから集会所へと向かう四人。集会所では村人たちも大勢が集まり、カラムとベータが並べている商品を品定めしていた。


「カラムさーん、この食器まとめて買うからもう少し安くならない?」


「いや〜、奥さんは相変わらず商売上手だ! ならばこれでどうでしょう?」


「良し、買ったー!」


「毎度あり!!」


 そんな言葉が交わされる集会所の中で護衛の者たちも村人から茶や軽食が振る舞われていた。


「いや〜、前に来た時よりかなり発展したなぁ」


「へっへっへ、そうだろう。領主様が来られてから色々な事を整理して取り掛かるようになったからな」


「そりゃローエン村長のやり方がマズかったって事か?」


「ハッハッハ、違うよ。ローエン村長のはこれまでの一般的なやり方だったってだけでマズかった訳じゃない。領主様のやり方が新しくて斬新だっただけだよ」


「へぇー、そうなんだ。そりゃそのやり方を教えて貰いたいもんだな」


「へへへ、そりゃダメだよ〜。領主様の許可がないとな」


「そりゃそうだ! ハッハッハ」


 護衛の者たちとも村人は顔見知りのようで、そのような会話をしていた。マモルやセイナが召喚されし勇者だという事は村人以外には秘密にするという領主であるマイナからの通達があったので上手く誤魔化しているようだ。

 その分、マイナにしわ寄せがいってるようだが。


「マモル様、セイナ姉さま、何か購入される物はございますか?」


 マイナが二人にそう聞くとマモルはベータの前にいき、


「ベータさん、この竹筒に入ってるのは何かな? 何だか良い匂いがするんだけど?」


 とても馴染みのある香りの物について期待を込めて聞いてみた。


「おお、これはようこそ! 今日という善き日に買い物を楽しまれるあなた様のご質問にお答えします。こちらは【セウユ】といって魔族領で多く栽培されております【大マメ】を発酵させて作った調味料にございます。それからこちらにございますのは【テマエミソ】という同じく【大マメ】を元に作られた物でございます」


「買ったっ!! 竹筒何本分ぐらい持ってきてるかな?」


「おお! お買い上げいただけますか? 有難うございます。セウユは竹筒十本、テマエミソは竹筒五本にございます。セウユは一本十銀で十本ですと一金です。テマエミソは一本二十銀で五本で一金となります。合わせて二金です、よろしいですか?」


 ベータの言葉に国王から貰った五十金の余りから二金を取り出してベータに渡すマモル。


「毎度有難うございます、確かに。では商品はこちらにございます」


 手渡されたセウユとテマエミソを大袋に入れて渡してくれるベータ。マモルはホクホク顔で受け取った。更にセイナがベータからレモンのようなレーモンを買い、カラムから水飴を購入する。


「マイナ様、これで私たちの買いたい物は買えました」


 村人だけではなく魔族領の人がいるのでマイナ様と呼ぶセイナ。


「そうですか。ミアーナ、荷物を受け取って先に領主館に戻ってくれますか?」


「はい、マイナ様。置いてまたこちらに戻れば良いでしょうか?」


「そうね、そうしてちょうだい」


 ミアーナもセイナと護衛の手合わせを見たいのでダメと言われたら戻ってくる言い訳を三通りほど考えていたようだが、マイナはそんなミアーナの気持ちなどちゃんと見越していたようだ。


「では、俊足で戻って参ります!!」


 そう言うとミアーナはマモルとセイナから荷物を受取り領主館へとダッシュで走っていったのだった。


 周りを見るとそろそろ村人たちの購入も終わり、カラムとベータがローエンと素材の買取りの話をしていた。

 マイナはその側に行き、三人に言う。


「カラム、ベータ、あなた達の護衛の一人が私の護衛と手合わせしたいと申し出てきて、私が許可しました。ここでの商談が終わったら手合わせしてもらうのだけど、どうせなら村人たちにも見物させて上げようと思っているわ。あなた達はどうする?」


「ほう? そんな事を言い出すのはハッシュですな。私たちが雇う護衛の中では最も強い奴なんです。それで、マイナ様。そちらの方がハッシュと手合わせされるのですか?」


 カラムがマモルを見ながらそう聞いてきたので慌てて首を横に振りながら隣のセイナを指差した。


「なんと! そちらの可憐なお嬢さんが!? まあ、手合わせならばハッシュも本気になったりはしないでしょうし…… マイナ様、私もベータも見物いたします。よろしいでしょうか?」


「勿論よ、それじゃローエン村長。商談が終わり次第、村人たちに知らせてくれる。見物は自由だって」


 こうして、セイナとハッシュによる手合わせは娯楽の少ない村人たちにとってはよい見世物になるのであった。

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