第7話 セイナとマイナ(+ミアーナ)

 マモルもセイナも現在は領主館の空いている部屋を借りている。けれども時間が出来たらマモルとセイナの住む家を建ててくれるとローエンは約束してくれていた。

 けれどもマイナはその事に反対のようだ。


「マモル様、私と同じ屋根の下にいるのはダメなのでしょうか?」


 そんなふうに聞かれてダメと冗談で言えるほどマモルは女性慣れしていない。そもそも親しい女性も母を除けばセイナしか居ないのだから。


「い、いや、そうじゃなくて、あのここは領主が住む館なんだから僕とセイナが居るのは場違いになるというか……」


「そんなことはございませんっ!! 以前に申し上げた通り、勇者様とは王族よりも上の立場になります! なので、この地で一番の屋敷に住まわれるのも当然の事なのです!!」


 マイナは力いっぱいにそうマモルに言う。それにタジタジとなるマモル。


「いや、でもねマイナちゃん。僕にはその勇者としての自覚というか…… その……」


 マモルの様子にセイナがマイナと二人で話をすると言ってくれたので、これ幸いとマモルは村の様子を見てくると言って外に出ていった。


「マイナちゃん、二人きりでお話するのは初めてだね」


 セイナがそう言って切り出すとマイナは目に少し不安を浮かべながら頷く。


「フフ、そんなに警戒しなくても大丈夫よ、マイナちゃん。私はマイナちゃんの気持ちも分かってるから」


「セイナ様……」


「はい、ストップ! そこ!! そこよ、マイナちゃん。私はマイナちゃんより一つ年上だけど、それでもマイナちゃんとは友だち、ううん家族のように有りたいと思ってるわ。そんな私を様なんて他人行儀に呼ばないで欲しいの」


「えっ!? いえ、そんな…… 私なんかがセイナ様と家族だなんて……」


「大丈夫よ、マイナちゃん! マモル兄さんなら受け入れてくれるわ!」


 何やら確信してハッキリと断言するセイナ。


「ああ見えてマモル兄さんは度量が広いんだから。私とマイナちゃん二人の愛をしっかりと受け止めてくれるわ」


「あっ!? 愛!? えっと、その、セイナ様はそれでもよろしいのでしょうか?」


 マイナは戸惑いながらもセイナに確認をする。


「そりゃ、本当は私だってマモル兄さんを独り占めしたいわ。でも…… マイナちゃんは私に似てるの。それに、私は末っ子だから妹が欲しかったのもあるの」


 セイナの家庭は複雑である。先ず、父親は自身の父親だが、母親は違う。というか、既に違う母親が二人目でもある。

 父親の年齢は五十五歳。バツ四でもある。セイナの母親の前に父親と結婚した女性との間には一人の兄と二人の姉がいる。

 その女性と別れた後にセイナの母親と再婚し、セイナが産まれた。

 そして、セイナの母親はガンによりセイナが三歳の頃に亡くなった。その一年後に再び父親は再婚する。その女性との間には子供が産まれなかったが、兄、姉、セイナの事を自分の子供のように接してくれた心優しい人だった。そんな女性をあろう事かセイナの兄が襲ってしまう。

 それにより兄は刑務所に、心を病んでしまった女性は父親と離婚して実家に帰った。

 今の母親はその後に再び再婚した女性だが、二人の連れ子がいて、セイナよりも三つ年上の双子の男児だった。

 そして、セイナはその二人から執拗に体の関係を求められていたのだ。

 セイナの姉二人は見て見ぬふりである。


 しかしながら、セイナの祖父がいた為にそんな連れ子二人に乱暴される事は無かった。

 セイナの祖父、剣聖将はセイナの才能を見いだして、幼い頃からセイナに武術を教え込んでいたのだ。

 セイナの父親である我が子には何の才能もなく、また武術にも興味を示す事がなかったので、教えたりはしなかったのだが、セイナは祖父が型稽古をしているのを見様見真似で五歳の時に隣で始めたのだった。


 そんな祖父の住む離れに避難して暮らしていたので、セイナは双子の毒牙から逃れていた。

 それにセイナは隣に住む護衛まもるの事が好きだった。幼い頃に母が亡くなり、剣家の庭で泣いていたセイナに優しく声をかけてくれ、そして自分の家に上げてくれて、泣き止むまでずっと側にいてくれたマモルの優しさにセイナは心惹かれたのだった。



 そんな家の事情とマモルを好きになった経緯をマイナに語るセイナ。話を聞き終えたマイナはセイナに、


「セイナお姉様とお呼びしてもいいでしょうか?」


 と思わずという感じで言っていた。


「勿論よ! マイナ! 私は姉で家族なんだし同じ男性を愛する同士なんだから敬語も無しよ!」


「はい、セイナ姉さま。敬語は努力します、ううん、するわ」


 こうして、マモルを愛する二人の女性はタッグを組み、いかにしてマモルが二人を愛してくれるようになるかを相談しだすのだった。 


 マモル包囲網の完成であった。


 その日から、セイナとマイナ、何故かミアーナまでもがマモルへの猛烈アピールを始めた。

 わけの分からないマモルはあたふたしながらも、そういう事はまだ早いよ、と何とか女性陣のアピールを躱していた。


 実はミアーナまで参戦したのにはセイナもマイナも驚いていたが、ミアーナ曰く


「私も既に二十歳となりました。出来れば強く優しい男性の子種を頂戴いたしたいのです。私の産まれた部族の掟のようなものですので、セイナ様、マイナ様、どうかご寛大なお心でお赦し下さいませ」


 との事らしい。ミアーナは愛はあるけれども、「子種を頂戴出来て、子供を授かったならば一人で育てる覚悟です」なんて言い出し二人から


「ダメよ! そんな事は許さないわ!」(セイナ)

「ミアーナ、マモル様のお子様は私たちの子供よ!」(マイナ)


 そう言って許されて泣いて喜んだようだ。


 女性陣からの猛アピールを躱し続けるマモルにカルバートから助言があった。


「のう、マモル様や。このままじゃと姫様たちは最終手段に出るやもしれぬぞ? 何でそこまで逃げておるのじゃ? 姫様たちが嫌いなのか? そうでないならば覚悟を決めるべきじゃとこの年寄りは思うておるぞ」


 カルバートからそう言われてマモルも三人と話し合う必要があると思い、その日の夜にマイナの書斎に集まって貰った。


「あの、その…… 少しだけ何も言わずに僕の話を聞いてくれかな?」

 

 ちょっと頼りなさそうだが真剣な眼差しでそう言うマモルに三人は頷いた。


「有難う。三人の気持ちはとても嬉しいんだ。これは本当にそう思ってるよ。でも、僕はまだ弱い。三人を必ず守るって心で決めていても、実際には守れるかどうか分からないぐらいに弱いと思ってる。それに、僕の住んでた世界では一人の女性と生涯を共にするのが当たり前だったから、その倫理観というのが僕の中にもあって、葛藤しているんだ。だから、三人を平等に愛せる自信も無いんだ…… こんな僕がいま、三人を受け入れてしまったらきっと何処かで破綻してしまうと思ったから、返事をちゃんと出来ないんだよ……」


 マモルの正直な言葉に三人は、


「マモル兄さん、私も他の二人も守られるだけじゃなくてマモル兄さんを守りたいと思ってるよ」


「マモル様、私はまだまだ頼りない領主ですが、マモル様に何かあれば全力で手助け致します」


「マモル様、しがない侍女でございますが私以外のお二人との間にお子様がお産まれになっても必ず我が子のようにお育て致します」


 そんな言葉をいい、最後にセイナが


「私たち、マモル兄さんと生涯を共にしたいの!! だから、受け入れて欲しい」


 と目を潤ませて頼む。 


「セイナは僕がマイナちゃんやミアーナさんとそうい関係になっても大丈夫なのかい?」


 マモルの問いかけにセイナは頷き、それは他の二人も同じ気持ちだと告げた。


「うう…… うん、分かった。でももう少し時間が欲しい。でもせめてマイナちゃんが十六歳になるまでは待とうよ!」


 ここだけは譲れないとマモルが強く言うと、三人はパアッと顔を綻ばせて、


「マイナが十六歳になったら絶対にだからねっ、マモル兄さん!! 嘘ついたらハリセンボンだからねっ!! 角野◯造じゃねぇよって言わせるからねっ!!」

「そう言えば、私の誕生日って明日だったわよね、ミアーナ? いえ、今日だったかしら?」

「いいえ、マイナ様。私の記憶では昨日だったかと」


 などと冗談も飛び出すほど上機嫌になったのだった。実際にはマイナが十六歳になるまでまだ十カ月はあるので、それまでの期間でマモルは自分の意識を変えてみようと考えるのだった……

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