第6話 罠とレベルアップ
マモルたちが開拓村に受け入れられ、そして先ずはという事で村の困り事を確認してみると、
「ミニボアたちが畑を荒らすので困っております……」
ローエンのその言葉に来るまでに見た畑を思い出した。初耳のミニボアとはどういう存在なのかと聞いてみれば
「ミニボアは体長一メートル、体高五十センチのボアで、とにかくすばしこい奴なのです。一応は魔物に分類されておりますが、人を見ると逃げ出すので弱い魔物とされていますが…… あの逃げ足の早さを見るとそんなに弱くはないのではと私は疑っております」
そういう話であった。なのでマモルとセイナは頷きあい、ローエンにこう提案してみた。
「罠を仕掛けてみませんか? 人をみれば逃げ出すのなら罠を仕掛けて捕獲してみましょう」
けれどもローエンはその提案に申し訳なさそうに言う。
「マモル様、実は私たちもそう考えて罠を仕掛けたりしたのですが…… 一度も掛かった事が無いのです……」
そこでマモルはどんな罠を仕掛けたのか確認してみた。
「落とし穴とロープを使って足に引っかかるようにした罠なのですが、落とし穴はバカにしたように石を落とされていて、ロープはロープで土に埋められて逆に確認に行った者が引っかかってしまい……」
「罠を作る時は素手で作られてたんですか?」
セイナの言葉に頷くローエン。それからも何点か質問をしてマモルとセイナは頷きあった。
「お聞きした話を考慮したら僕たちの世界にいた猪という動物と行動がよく似ています。それなら僕とセイナの作る罠には掛かるかも知れません。試して見ても良いですか?」
マモルの言葉にローエンは頷いて、「ぜひお願いします」と頭を下げた。
それからマモルは切り落とした枝とキノコが生えてきている腐朽しかけの枝も貰った。
セイナはセイナでロープを黒く染めて、一度それを土の中に埋め込んだ。
マモルは落とし穴を掘り、中には腐朽しかけの枝を入れる。それから穴を枝で防ぎ枯れ葉をしき、土を被せた。その周りに浅く穴を掘り更にキノコを埋めていく。落とし穴から一メートルほどの範囲でキノコを埋めた。全ての作業は手袋をして行う。
村人の中で手の空いた人に手伝ってもらい、落とし穴は五ヶ所作った。森から畑に来るならばここを通るだろうという場所の選定もマモルとセイナで相談して決めた。
セイナは森の出口付近で黒く染めたロープで罠を仕掛ける。手伝ってくれた村人にも手袋をしてもらい、その手袋を先に森の腐葉土の中に突っ込んでもらう。
罠は全部で八ヶ所に仕掛け、
「それじゃ、明日の朝に様子を見に来ましょう」
マモルとセイナにそう言われて、これで本当にミニボアが引っかかるのだろうかと半信半疑ながらも村に帰ったのだった。
マモルとセイナが今回利用したのはスキルとして発現した【
今回は猪用の罠をミニボア相手に試してみたのだ。
翌朝、ローエンと何故かマイナとミアーナも着いてきて、手伝ってくれた村人も一緒に罠を見に行くと、
「掛かってる!?」
「落とし穴にハマってる!!」
「おい! ロープの方にも全部掛かってるぞ!!」
村人たちが驚きの声を上げた。
「何でか理由を教えてくれませんか、マモル様、セイナ様」
マイナからそう言われてマモルは理由を答えた。
「ミニボアというのが猪と似ているならば鼻が異常にいい筈なんです。そうすると、人の匂いをする物は避ける傾向にあります。まあ、ミニボアは魔物らしいのでバカにしたように落とし穴には石を落としたりしたんでしょうが。でも、人の匂いを消してやり、警戒心を更に薄れさせる為にキノコも埋めたので、そのキノコを掘るのに夢中になり落とし穴の存在に気づかずに踏み抜いたんです」
更にセイナがロープの方の理由を言う。
「ロープ罠の方も基本的には同じです。先ずは人の匂いを消す事に重点を置きました。そして後は色ですね。夜に麻縄の色は月明かりがあれば目立ちます。なので黒く染めさせて貰いました。そして落とし穴と同じようにキノコも仕掛けて、この場所に置いたキノコを食べるならばここに足を置くだろうという場所にロープを仕掛けたのです」
二人の言葉を聞いていた村人たちから感心した様子がうかがえる。
「凄い、これなら俺たちでも出来るな!」
「ああ、仕掛ける度に勇者様の手を煩わせる事のないように、手伝いをして覚えた俺たちが他の者に教えていこう!!」
こうして、今回捉えたミニボアは落とし穴の五ヶ所には二頭ずついたので十頭、ロープの方は八ヶ所すべてに掛かっていたので八頭となった。
「おお、これでまた肉が手に入った!!」
ローエンはとても喜んでいる。中々、村人たちで狩りを行うも狩りについては素人の集まりなので、いつもローエンが一人で何とかはぐれたミニボアを一頭狩れるぐらいだったらしい。
そしてミニボアの素材は魔族領から来てくれている行商人が買ってくれるので村の収益が上がるのもローエンが喜んでいる理由に含まれていた。
「マモル様、セイナ様、領地の為に本当に有難うございます」
マイナが二人にそう言って頭を下げると、ローエンと村人たちも一斉に「有難うございます!」と大声で言って頭を下げた。
「いえ、住まわせて貰うんですから当然の事です」
マモルの言葉にローエンは沁み沁みと言った。
「いや〜、マモル様とセイナ様のお二人が話に聞いていた勇者様方と
一体どんな風に聞いていたのか知りたかったが、あえてそこには踏み込まずにマモルとセイナは黙って頭を下げた。
「それでは館に戻りましょう。マモル様、セイナ様、館で落ち着いてステータスの確認をしてみて下さいね」
マイナにそう言われて戸惑いながらも頷く二人にニッコリと笑ってマイナは歩き出した。
館に着くとマイナの書斎に入り、さっそく確認をする二人。
「あ! レベルが上がってる」
「私も上がってる!」
マモルは六級から飛んで四級に、セイナも六級から五級へとレベルが上がっていた。
「やっぱり上がってましたか。ビックリボアにミニボアの討伐、それにマモル様は村の柵にも鉄壁というスキルを使用して下さってましたから、必ず上がっていると思ってました」
【名前】マモル
【年齢】十七歳
【性別】男性
【種族】人
【状態】良好
【職業】自宅警備員·守護者
【
【能力】
体力∶28,000
気力∶55,000
魔力∶13,000
【
ストレージ(容量大)
言語理解
精神強靭
鉄壁(改)
【名前】セイナ
【年齢】十六歳
【性別】女性
【種族】人
【状態】良好
【職業】お嫁さん·攻破者
【
【能力】
体力∶31,000
気力∶15,000
魔力∶34,000
【
ストレージ(容量極大)
言語理解
精神強靭
剣聖技
マイナの話は続く。
「私も文献で読んだだけなのですが、勇者様たちはレベルが上がった時に何らかの知らせが来ると思ってらっしゃる方が多いとその文献には書かれていました。けれども私たちの常識ではレベルが上がるのはスキルを使用したり、魔物を倒したりすれば上がり、それは自分でステータスを確認しなければ分からないというものです。なのでマモル様もセイナ様もこまめにご自身のステータスを確認して下さいね」
実際にマモルもセイナもレベルアップの時にはゲームのように何らかの知らせ(脳内で音楽が鳴るなど)があると思っていたので、マイナの話に少しビックリしたが頷いた。
「そうなんだね。教えてくれて有難うマイナちゃん」
そしてマモルは気がついた。スキル【鉄壁】が【鉄壁(改)】に変わっている事に。さっそく説明を読んでみる。
【鉄壁(改)】
このスキルを掛けられた者(物)は一度だけだが神からの神罰すらも耐えうる事が出来る。
また、これまでと同じで竜の突進やブレスぐらいならば四十八時間、防ぐ事が可能である。
輝石を利用すれば効果時間は伸ばす事が可能である。直径二センチの輝石に貯めれば七十二時間、直径三センチの輝石ならば九十六時間と一センチ大きくなる事に二十四時間プラスされる。
『おお! なんか鉄壁だけの時より詳しい説明が出た! でも、輝石を利用しなくても四十八時間になったんだ』
説明を読んでちょっと嬉しくなったマモル。但しこの事実はセイナとマイナだけに話す事にした。二人にも秘密にして貰う事に決めた。
セイナにだけ話そうかとも思ったが、領主としてこの地方を治めるマイナにも話しておくほうが色々と相談しやすいと考えたからだ。
「マイナちゃん、悪いけどミアーナさんにも聞かせられない話をしたいんだ。頼めるかな?」
マモルの言葉は当然マイナの側にいるミアーナにも聞こえている。
「大丈夫ですよ、マモル様。私は扉の外で人が来ないように見張っておきます」
ミアーナも心得たもので直ぐに部屋を出ていってくれた。
「それで、マモル様。お話とは何でしょうか?」
「うん、実はね……」
こうしてマモルはスキル【鉄壁】が進化した事をマイナに話し、マモル、セイナ、マイナの三人だけが知る秘密にして欲しいと頼んだ。
「まあ!! スキルが進化するなんて!? 文献にも書かれていませんでしたわ!? そうですね、分かりましたマモル様、例え何があろうとも私からマモル様やセイナ様のスキルについて漏れる事はございません!!」
フンスッという感じで気合いを入れてそう宣言をしてくれるマイナにマモルもセイナも「有難う」と礼を言うのだった。
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