第5話 マモルとスキル
領主館は他の家に比べると立派な佇まいだった。
「まあ、とても大きな御屋敷だわ。素敵」
マイナは領主館を見て喜んだ。後でミアーナに聞いたら、マイナは役に立たない子という事で、離れの宮の外れに建てられた部屋が二つしかない家に住んでいたらしい。
その昔に離れの宮に当時の国王の愛妾が住んでいた頃、庭師親子が住んでいた小屋だったそうだ。
「この館でもよろしいでしょうかマイナ様?」
ローエンが恐る恐るそう聞くとマイナは
「十分だわ、ローエン村長有難う」
笑顔でそう言ってローエンを安心させた。中に入ると村民たちが風呂を利用するかわりに交代で中の掃除をしてくれていたそうで、埃もなく清潔感に溢れていた。その事にマイナはまたローエンとフォンにお礼を言う。
そして、一階にある広間の隅で簡単な応接セットがあったので、マイナ、ミアーナ、カルバート、ローエン、フォンの五人で今後の話合いを行う事となった。
「えっとそれじゃマイナちゃん。僕とセイナは村を少し見て回るよ」
「ローエン村長、私たちよそ者がウロウロしても大丈夫でしょうか?」
マモルとマイナは村の様子を見てみたいので村を回る事にしたが、もしもよそ者がうろつくのを村人が嫌がるようならこの館の周りだけぐるっと歩こうと話をしていた。
「ああ、そうだった。マモルくんとセイナちゃんだったね。ちょっと待っててくれないか。確かこの館にも置いてあった筈だから……」
そう言ってローエンは席を外す。一分もしないうちに戻ってきて、木で出来た首飾りをマモルとセイナに手渡した。
「これを見えるように首から下げておけば私の客人だと村人は認識してくれるから」
渡された首飾りを見えるように首から下げた二人はローエンにお礼を言って館を出た。
領主館はローエンの住まいから徒歩五分ほどで村人の住居からもそれほど離れていない。
マモルとセイナは先ずは住居を見て回る。
「何だか木で出来た家を見ると安心するね、マモル兄さん」
「うん、そうだねセイナ。でもみんな中は土足なんだよなぁ」
土足なのは事情があってこの世界では人を襲う魔物がいる。この村は開拓中で柵で囲ってはいるが少し強い魔物なら木で出来た柵など直ぐに壊してしまう。幸いにも今までに柵を壊された事は無いそうだけど、もしもの時に直ぐに逃げ出せるように、家でも土足のままなのが庶民の基本らしい。
まあ、貴族の場合は家を石やコンクリートを使って建設するので土足らしいが。
住居を見て回っているマモルやセイナに村の子供たちも後ろをついて歩いている。話しかけたそうにしているが勇気が出ないようだ。
そこでセイナから話しかけた。先頭にいる女の子に
「こんにちは。私の名前はセイナっていうの。あなたのお名前を教えてくれるかな?」
振り向いて目線の高さを合わせてそう聞いてみた。
「あ、こ、こんにちは。私の名前はユナです。お姉さんとお兄さんは旅人ですか? この村には何で来たんですか?」
十歳ぐらいに見える女の子のしっかりとした受け答えにセイナはニッコリと微笑む。
マモルは内心でオジサンと言われなくて良かったと思っていた。
「しっかりしてるのね、ユナちゃん。私とコッチのマモルお兄さんはこの村に住む為にやって来たのよ。これからよろしくね。それで、住むようになる村の様子を見てみたくて回らせて貰ってたの。良かったらユナちゃんたち、私たちを案内してくれるかな?」
セイナの言葉にユナの後ろにいた三人の子供たちの顔もパァっと明るくなった。
「うん! セイナお姉さん! マモルお兄さん! コッチだよ!!」
ワラワラと子供たちが駆け寄ってきてセイナとマモルの手を握る。全員が女の子でユナが一番年上のようだ。
「マモルお兄ちゃん、アタシはショールです、八歳です」
「えっとね〜、エマ、五歳なの!」
マモルの左右に来た子たちが名乗る。セイナの左手を握る子もノーリと名乗っている。
「こっちにね、畑を耕す道具を入れる倉庫と井戸があるの、でね、あっちにはね、」
一所懸命に案内してくれようとする子供たちに有難うと言いながらマモルは目に見える柵にスキル【鉄壁】を掛けていく。
バッテリー代わりとなる輝石などが無いために効果は二十四時間だが、無いよりはマシだろうと掛けているのだ。
スキル【鉄壁】はその名の通り掛けられた者(物)をとてつもなく頑丈にするスキルである。
今のマモルの六級という低いレベルであっても竜のブレスすら熱気を感じさせずに止められるそうだ。また、輝石などの魔力を貯めておける石を設置すればその効果時間を伸ばす事も可能である。
ステータス画面でスキルの詳細を読んで鉄壁について知ったマモルは出来る事をやっているのだった。
「ユナちゃん、村は柵で囲ってるけど畑の方はどうして囲ってないのか知ってるかな?」
『ナイスな質問だよ、セイナ!』内心でそう思いながら聞き耳をたてるマモル。
「人数が少なくて畑仕事を優先させてるから畑の方の柵にまで手が回らないんだってお父さんが言ってました。畑仕事以外にも森を少しだけ切り開いたりして魔族領との道を作ろうとしたりしてるので。あと、何とか水路を作ろうと川から水を引けるように土木工事もしてるんです」
「そうなんだね、ユナちゃんはお父さんのお話を聞いてちゃんと覚えているなんて凄いね」
「そんな事ないです。ホントは私が男の子だったらもっとお手伝い出来たんですけど……」
『いやいや、どんだけ良い子なんだ。僕が十歳の頃はゲームばかりして親の手伝いなんてした事ないよ』マモルの心の中ではそんな言葉が浮かんでいる。それでも柵にスキルを掛けるのを忘れずに行っている。
「あっ!? マモルお兄ちゃん! セイナお姉ちゃん!! 逃げなきゃ!! ビックリボアが村の柵を壊そうと走ってきてるっ!?」
ショールの言葉に柵の隙間から覗いたら本当に猪か? というほど大きな猪が柵に向かって爆走して来ていた。
「大丈夫だよ、ショールちゃん、みんな。逃げなくても柵は壊れたりしないからね。それよりも解体出来る人って村にいるのかな?」
マモルは慌てだす子供たちにそう声をかけたけど、ユナが叫ぶ。
「逃げないとダメですっ! マモルお兄さん! ビックリボアの突進は柵を壊しただけじゃ止まらずに、家を何軒か破壊してやっと止まるぐらいなんですっ!!」
もう爆走する足音がドドドッと響いているが、セイナはマモルを信じていたのでユナに落ち着いて話した。
「ユナちゃん、落ち着いて。マモル兄さんが柵にスキルを掛けてくれてるから。柵にぶつかってビックリボアは気絶するはずよ。そしたら私がとどめを刺すから、お肉を得る為に解体出来る人を呼びましょう」
セイナの落ち着いた声音に慌てていたユナも少し落ち着いたようだが、これまでにも何度かビックリボアによって柵と家を壊されているので、信じ切る事が出来ないようだ。
なので進行方向から二メートルほどズレてビックリボアが柵に到着するまで待つ事に。
そして……
ドガーンッ!!!!!
物凄い大きな音が辺りに響いたが、柵はびくともせずにちゃんと立っていた。
「すっ! 凄いっ!! 倒れてない!!」
隙間から覗くとビックリボアが倒れてピクピクしているのが見えた。
「ユナ姉ちゃん! アタシ、村長に言ってくるねっ!!」
ショールがそう言って駆け出し、セイナはヒラリと柵を飛び越えた。そしてミアーナから渡された短剣を手にしてビックリボアの首を正確に突いた。
ビクンッ! と一度跳ねてからビックリボアはピクリとも動かなくなった。
「マモル兄さん、村の柵は全てスキルを掛け終えたの?」
柵の外から聞かれたマモルは
「いや、あちら側はまだだから、僕一人でちょっと行ってくるよ。セイナはストレージにそのボアを入れてこっちに戻っておいて。子供たちを見ててやってよ」
「うん、分かったわ」
そうしてマモルは駆け出してまだ鉄壁を掛けてない柵に向かってスキルを掛けていく。
村を囲う柵の全てに鉄壁を掛け終えて元の場所に戻ってみたら、マイナ、ミアーナ、カルバート、ローエン村長、フォンまでやって来ていて、セイナがストレージから出したビックリボアを見て感嘆していた。
「コイツはいっつも村の柵を壊す奴で、賢くて罠にも引っかからないから困ってたんです! さすがは勇者様たちだ!! コイツを退治してしまうなんて!! 当分の間は肉に困る事は無さそうだ。有難うございます!!」
ローエンが戻ってきたマモルに向かってそう礼を言う。倒したビックリボアの体長は目分量で八メートル、体高は三メートルはある。村人全員で食べるにしても暫くはあるだろう。
「あの、僕たち二人が召喚された勇者だというのは村の人たちには…… って遅いか……」
マモルは村人には勇者だということを黙っていて貰おうかと思っていたのだが、ここにはユナ、ショール、ノーリ、エマがいる。ユナならば言えば黙っててくれるだろうが、他の子には無理だろう。
「おっと…… 失敗しましたか…… すみません……」
ローエンがそう頭を下げるがマモルは首を横にふり、
「いえ、良いんです。それで村の人たちが僕らを受け入れてくれるなら」
とローエンに気にしないでくれと伝えた。それからローエンにスキルの話をして、どこかに輝石が取れる場所は無いか聞いてみる。
「魔族領との境の森の奥に洞窟がありまして、そこでなら輝石も取れると聞いてますが、魔物が多くて洞窟までたどり着くのが難しいと思います……」
「そうですか…… 僕とセイナは明日からその森でレベルを上げる訓練をさせて貰っていいですか? それと、訓練を休む日は皆さんの手伝いをさせて下さい」
マモルの言葉にローエンは
「勇者様までマイナ様と同じ事を…… もしも、よろしいのでしたら手を貸して下さい、よろしくお願い致します!」
そう言ってマモルの提案を受け入れたのだった。
村の広場まで運んでビックリボアの解体が始まった。マモルもセイナも教わりながらやってみる。
「マモル様、柵を強化して下さって有難うございます!!」
村人たちはローエンからマモルが柵を強化してくれたと聞いたのだろう。マモルは次々とお礼を言われて照れてしまった。
こうして、マモルたちの新たな生活が幕を開けた。
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