闇の精霊の封印解いたら愛が重かった

ワシュウ

歪んだ性癖に目覚めたの?

私が中3の時に、母が離婚届を置いて浮気相手と出て行った。

大学生だった兄は父親が引き取って地元に残り、母似の私は母方の祖父母に預けられる事になった

大人しくて出来の良い兄と馬鹿じゃないけど普通の私じゃそうなるよね…と思った。

せっかく受験に合格したのに入学金の振り込みはされてなかった。母が持ち逃げしたんだろうって…

当時付き合ってた彼氏は「離婚とか話が重くて付き合うのしんどい」と振られた。

しかも翌日から親友だと思ってた友達と付き合い出した…元から浮気してたって別の友達から聞いた。腹いせに彼氏と元親友の悪評流しまくった。陰湿な嘘は付いてないよ?

みんな親が離婚した私に同情的だったのと、元親友は色んな所で嫌われてたから噂はあっという間に広がって2人とも卒業式を前に不登校になった。どうせ引っ越すしと噂を放置したまま縁を切った


不幸中の幸いだったのは、祖父母の自宅がそこそこ都会だった事

木造2階建ては不便だからと引っ越していて、私が住んでた家より広くて綺麗な駅近のマンションで祖父母の使ってない一室を使わせてもらえる事になった


高校教師だった祖父母の年金額が会社勤めの父の収入より多いらしい…世知辛い。

子育て終わって悠々自適にのんびり老後ライフ

母から自分は厳しく育てられたから高校生の頃はグレたと聞いてたけど、孫には優しいのか年取って丸くなったみたい


祖父母は私に気を使ってくれる

「今どきの高校生は神戸や大阪に遊びに行ったりするって聞いたわ。おばあちゃんと今週の土曜にホテルのスイーツバイキング食べてお買い物しましょうね」


祖母が私立高校の二次募集を見つけてきた。

通うはずだった高校より制服も可愛くなった


無事高校に入学したと父に連絡したら「そうか、あまり迷惑をかけるなよ」とだけ返事が来た

後に、祖母が話してるのを偶然聞いて知った事だけど、兄は引きこもりになり父が仕事と家事で手が回らなくて大変だったらしい。

娘まで面倒見きれない返されても困ると電話していた

「困るわ、そこまでまかなえないもの、いずれ戻ってもらわないと」

「そうだな…ここのマンションもミサキに譲ると約束してるしな」


他意はなかった、高校へ入学したと知らせたかっただけ…

独身のミサキ叔母さんとうちの母は仲が悪かったな…



電車通学にも慣れた頃、それは突然だった


いつも通り電車から降りたら、知らない駅にいた。まるでホラー映画のような外国の地下鉄の駅だった

わけもわからずパニックになり彷徨った。人気のない無人の駅は薄気味悪くてただ怖かった

階段を見つけて登るとそこは大自然のジャンクルの中だった


そのまま踵を返して階段を降りたのに、さっきまでの地下鉄じゃなくなっていて、遺跡のような別の場所に出た

直感的にあ、もう戻れないんだ…そう思った


手持ちが学生カバンだけでジャングルを彷徨いたくないから地下遺跡をみて回った


薄ぼんやり光る部屋にクリスタルで出来た棺があって、そこに白骨死体が収められていた


作り物かと思い近付いて見る

今思えば変だと思うけど、その時は少しも気にならなかった。棺の中の花は摘みたてのように新鮮だったのに


白骨死体の胸に手紙が開かれた状態で置かれていて、文字が目に入った


『迎えに来たよ マーリン』


こんな辺鄙な場所なのに、文字が日本語で書かれてたから少しの安堵と希望が湧いてきて口に出して読んでしまった

突如、棺が光って白骨死体の逆再生のような現象に声も出ない程驚いた


見る見る元の生きた状態に戻っていき、光が収まる頃には、黒髪で白く綺麗な肌の美しい青年になった

目を開いて顔をゆっくりとこちらに向けた


黒い瞳の目が合った…ひぇっ


ぼんやりした目に生気が宿り大きく見開かれて驚いた顔になる…それから輝くような笑顔になった


「僕を迎えに来てくれたんだね マリー」


さっきまで白骨死体だったのにムクッと起き上がって飛びついてくる

構えた手ごと抱きしめられた


「遅いよマリー!ごめん嘘だよ、大好きだよ、ずっと待ってたんだ会いたかった」


私の名前はマリ

驚きすぎて呼吸を忘れかけた肺に息を吸い込んだ。


「あっ…あの、誰ですか?これは何ですか?ここはどこですか?ちょっと離れてください」



「ふふっおかしな事を言うね

   今度は死んでも離さないから」



それが私と彼のとの出会い


彼は魔法使いらしい、何もないところからテーブルと椅子と温かい紅茶のポットとティーカップを出した


ニコニコ笑いながらいつの間にか執事みたいな服に着替えて紅茶を注ぐ


「ほら、座って、ねぇマリー、あれから何年たったの?」


「え?さあ?」


「マリーは今何歳なの?」


「15歳です」


「丁度いいな…だけどもっと早く来ても良かったのに」


「あの、ここはどこですか?」


「ここはアルラシードのジャングルの奥地じゃないの?お前が作った隠れ家だろ」


「え?」


「どうしたの?座らないの?お前はハチミツレモンティー好きだったよね?」


「あの?あなたは魔法使いですか?」


「僕は偉大なる闇の精霊だよ…知ってるくせに」


「知りません」


「……もしかして僕の事忘れちゃったの?」


「あの、人違いです…私は"マリー"じゃなくてマリです、すみません」


「本当に全部忘れちゃったの?何も覚えてないの?本当に僕の事忘れちゃったの」


「人違いです、知りませんすみません。あの、家に帰りたいんですけど」


彼はティーポットを持ったまま大粒の涙を流した


そんな懇願するように見られてもどうすることも出来ない だって知らないし多分人違いだし

ここが何処か分からない


彼はゴトッとティーポットをテーブルに置いて涙を拭い見つめてくる


「なら思い出させてやる」


ツカツカと距離を詰められ、流れるように腰と頭に手を添えられ…


ファーストキスだったのに

知らない男の人に奪われてしまった


驚いたしビックリしたけど不思議と嫌悪感はない…イケメンだからかな?

チュッチュと角度を変えて唇が離れた

はぁ…とため息までもが熱かった


「お願いだ、僕の名前を呼んでよ…君が幻じゃないって証明してよ」


「…マーリン…さん?」


「うん僕だよ。……君が来るのをずっと待ってた。君だけでいい、他に何もいらない、今度は僕だけのものになってよ、どこにも行かないで、僕がずっと側にいるから

病めるときも健やかなるときも、たとえ死が2人を分かつ時も…その後もずっと一緒だよ、永遠に愛してるマリ」


涙が出てきた

人違いでも良かった、必要とされたかった…誰かにそう言ってもらいたかったんだと思う


「うん、今度こそずっと一緒だよマーリン」


『今度こそ契約成立だ』



そうして私は半永久的に不老不死になった、闇の精霊の凄い加護みたいなので…

もうそれ呪いじゃないの?


怪我はするけど瞬時に治るし、お腹はすくけどでも死ぬほど苦しくもない

夜は眠くなるし火は熱いし冬は寒いけど、死ぬほどじゃない、ただ軽い火傷程度でそれもすぐ治る。でも完全な不死じゃない、首が胴体から離れたら流石に死ぬって


齢15歳で人間を辞めてしまった


教訓、安易に返事をしてはいけません!

修行みたいなのをすれば魔法が使えるらしいので、明日から頑張ります


「マリ元気になった?大丈夫だよ僕がついてるからね」


「はいお願いします…そろそろ降りてもいいですか?」


膝に座らされるのは何だか恥ずかしいし、ペタペタ触って頭を撫でられたり、指を絡めて恋人繋ぎしたり…照れるし恥ずかしい


「何で?降りてどうするの?また居なくなるの?」


ひぇ…顔が殺人鬼のようです


「そうじゃなくて、私重たくないですか?足は痺れませんか?」


「なんだ良かった。全然大丈夫だよ、僕なら平気だからね。僕を気遣ってくれたんだね。マリはやっぱり優しいね」


人違いしてる…

私はそのマリーさんじゃないし


でもそんなこと言えない

今更捨てられたらどうしたらいいか分からない

多分私は麻痺してるんだと思う、この重たい束縛も別にいいと思ってしまってるから


「今度こそ離さないから、僕だけの1輪の花でいてね」



――それから数日


ファンタジーな世界だと思ったのに魔法は一般的じゃないらしい。あるにはあるけど、王侯貴族ですら魔法ってなに?だった


世間知らずの小娘がいきなり異世界に来ても何も出来ません。実家の何でも揃ってるキッチンでカレーライス程度の家庭料理は作れても異世界のアウェイなキッチンで見た事もない食材では何も作れないからね!


どこの誰かも知らないマリーさん!

危険物はしっかり封印しといて下さい!

自称闇の精霊のマーリンは、実は破壊の大魔王様でした…とかあんまりじゃない?



「マリただいまぁ、今日はボア肉買ってきたよー?柳川風の鍋作ってよ」


「私は鶏肉買ってきてって頼んだの!もぅ!

それに昨日はグラタン食べたいって言ってなかった?」


白菜がないからキャベツに似た野菜と

頑張って薄切りにした何かの肉を重ねて鍋で塩を振りかけて煮る。味噌か醤油が欲しい


「ねぇ、マリは今日は何してた?」


「掃除して、庭の畑の雑草抜いて、昼からは本を見てたよ」

異世界の文字読めないけど


「僕がいなくて寂しかった?」


「うん、まあ寂しかった」


「素直で可愛いマリ大好きだよ、ヨシヨシイイコイイコ」


ここは人里離れたジャングルの奥地

見たこともない虫とか爬虫類とかがウヨウヨいて、夜になると獣か鳥の鳴き声が響く


なのに、こんな所にポツンと一軒家なんて誰が建てたの?

しかもやたら近代的な家で、水道やシンクやお風呂にシャワーなんてまるで日本人が作ったみたい。

マリーさんが作ったらしい、マリーさんは私と同じ日本人なんだ、建築家かなんか?洗濯機まで置いてある


閉じ込められてるわけじゃないけど、周りはジャングルだしね

一度、マーリンがいない間にジャングルに入ったけど巨大ムカデと蛇の戦いを目にして逃げ帰った


「私も町に行ってみたい」


ピリッと空気が変わった


「何で?」


「町には何があるの?私も買い物したいよ」


「逃げるつもり?僕が買ってくるよ?マリはここにいてよ、どこにも行かせないから」


「…マーリンは重いって言われた事ない?」


「無い」


「別に一人でうろつきたいなんて言わないよ?この世界知らないし怖いから…一緒に買い物しようよ?デートしようよ?それも駄目?」


「デート?……仕方ないなぁ僕とデートしたいならいいよ?海に行く?山に行く?」


「町に行きたいかな…もしかして港が近いの?」


「近くは無いけど、場所なら分かるよ」


「じゃあ明日行こうよ」


「うん、デート楽しみだ…マリ大好きだよ」


「私も大好きよ」




――自分が毛色の珍しい人間だと知ったのは、港町に着いてから。

ここは褐色肌の国だった



「お嬢ちゃん観光かい?串焼き一つどうだい?」


「美味しそう、マーリン買ってよ」

「あぁ、オッサン2本くれよ」


「はいよ」


ぶらぶら歩いて疲れたからひと休み、マーリンが何か飲めるココナッツのようなジュースを買ってくるから待ってろと

言われた通り待ってたら男数人に誘拐された。

自力で脱出して逃げ惑い迷子になっただけなのに


気がついたら港町が地図から消えてしまった


殴られて縛られた傷と破られた服のおかげで、マーリンから逃げ出したんじゃなくて誘拐されたと分かってもらえた


「マリごめん…僕がもっとちゃんと見てれば良かった、痛かった?怖かった?

もう町に行こうなんて言ったら駄目だ、マリがまた居なくなったら僕は今度こそ…」


「いるいる!絶対にいるから!もう何処か行きたいとか言わないよ怖かったし!

ま、町はどうなったの?このクレーターは?マーリンが何かしたの?町の人は?」


「マリを連れて行こうとする奴らなんか町ごと消したよ」


「…もう、元に戻せないの?関係ない人がほとんどだよ?悪いことしたのは4〜5人だけだよ?さっきのお店のおじさんは良い人だったじゃん…消す事ないじゃない…うぅぅ…グズッ」


「泣くなよ、マリは僕が怖くなったの?

大丈夫だよ元に戻せるから泣かないでマリィ」



どういう原理なのか分からないけどポッカリ空いた巨大なクレーターが元の町に戻った

みんな何事も無かったかのように通常通りで誰も騒がない


ゾッとした…膝から崩れ落ちそうなのをぐっと踏ん張って耐えた


私はとんでもない魔王様の封印を解いてしまったみたい……諦めて人身御供になろうと思った


「マリ震えてるの?寒いの?」


「ひっ…干物を大量に買って帰ろうね…調味料も欲しいし」


「味噌と醤油も買う?」


「え?!売ってるの?」


「元々持ってるよ?」


「もっと早く言ってよー!塩味のスープ飽きたんだけど!」


「聞かれなかったし、お前は料理得意じゃ無いって言ってたじゃないか?」


「調味料あったらちゃんと作れるよぅ!もう」


「アハハッ怒った顔も可愛いね。またチーズケーキ作ってよ」


「…うん」


私はチーズケーキなんて作ったことないよ

作り方もうろ覚えだし…チーズケーキ用のチーズないじゃん?


マリーさんと私を重ねて見てる間は殺されないかな?

私じゃない誰かを見てるマーリン

懐かしそうな顔で私を見ないでよ…胸がチクリと痛んだ


――それから更に数日


「マリどうしたの?最近元気ないね、何かあった?」


「気のせいだよ私は元気だよ」


「お前はいつも笑ってろよ…もしかして町ごと消したのが怖くなった?お前が嫌ならもうしないから。僕の事嫌いになったの?」


「嫌いになってないよ、大丈夫何でもないから」


「マリ大好きだよ」


「うん…私も」

大好きって言われるたびに胸が苦しくなる

抱きしめて慣れた手付きで頭を撫でるのも、愛おしそうな目で見るのもマリーさんにやってたんでしょ?

何かを期待した目で見られても同じことなんてできないよ


「マリはどうして泣きそうな顔をするの?教えてくれないと分からないよ」


「何でもないの、私の気持ちの問題だから」


「今どんな気持ちなの?僕に教えてよ、マリは今何を考えてるの?僕の事が怖くなった?」


「怖いのかな?…頭の中ぐちゃぐちゃで私も分からないの」


「頭がぐちゃぐちゃなの?!それって病気?……どうして泣いてるの?泣くなよ、どうしたらいいの?マリ…僕の胸が苦しい、病気が移った?もしかして帰りたくなったの?」


「私に帰る場所なんてないよ…お母さん、お父さん、お兄ちゃん……家族だと思ってたのにみんな私を捨てたの」


「マリは捨てられてないよ?」


「お母さんは浮気して出て行って…お父さんは帰ってくるなって、お兄ちゃんとは何年も口聞いてない…」


「それは……マリには僕がいるよ、ヨシヨシ」


「うわぁーん!私はマリーさんじゃない!私をちゃんと見てよ!マーリンの過去の人じゃない!私は私よ!他の誰の代わりでもない」


抱きしめて撫でてくれた手を払い除けた


マーリンが驚きと悲しそうな顔をしてたけど手当たり次第物を投げつけた

女の人が好きそうな花柄のティーカップを投げた時にマーリンの瞳が大きく見開いた


投げた後で大事な思い出の品かもしれないと頭をよぎったけど、ティーカップは壁にぶつかってパリンと割れてしまった


マーリンの顔が怖くて見れなかったから、私は振り返らず走って逃げ出した

日が落ち始めたジャングルを走って走って走り抜いた。迷子になるのもわかってたけどひたすら真っ直ぐに走った


しばらくまともな運動してなかったから息が上がる、走ってる間もマーリンの傷ついた顔が頭に浮かんでくる

枝や葉に引っ掛けて傷だらけになってもすぐに治る…そっかもう人間じゃなくなったんだった。


人間みたいに傷つくのやめよう

心に暗い感情が湧いてくる、別にただの花柄のティーカップじゃない…大事な物ならしまっておけばいいのに


日も落ちて真っ暗になったジャングルを月明かりだけでひたすら真っ直ぐに走った

だから気付かなかった、ガサガサと追いかけてくる音がマーリンじゃなくてジャングルの捕食者だって事に


振り返ると豹のような猛獣が木の間をすり抜けてこちらに飛びかかって来ていた


咄嗟に腕でガードしたけど、鋭い爪が肉に食い込む。痛いし怖くて「キャァ!」と叫んだ


けど次の瞬間声が出なかった、息が出来なくて喉に食い付かれたのだと分かった


「ゴハァッ…ゴボッ」

あ、コレは流石にヤバい死ぬ

メリメリと首の肉や骨が軋む音がする、死ぬっ

…でも悪い事したし仕方ないよね。マーリン…ゴメンナサイもう帰れそうにないです

息が出来なくて意識を手放した



――気がついたら知らない天井だった


臭っさ!え?ここどこ?

あれ?首は?…指先で首を触るとザラザラした麻布の感触。

外は明るくて夜が開けていた、薄汚れた服と臭くて汚いベッド…天井どころか小屋もボロボロ


「痛っ…あれ?傷が塞がってない??」


首の傷は塞がってそうだけど、たった今指に刺さったトゲの傷はいつもみたいに瞬時に治らなかった


小屋の外から音がする、誰か来る


「£an €nm¢ £aµ――…」


あっ言葉が分からない…詰んだ

褐色肌のお兄さんがこっちを見て何か言ってる


今までマーリンのなんかファンタジー的な魔法で言葉がわかってたんだなぁ

加護がなくなったんだと分かった


怒らせて捨てられたんだろう、当たり前じゃない

感謝して這いつくばって縋りつかなきゃいけない人だったのに……


泣いたって何も変わらないけど、勝手に涙は出るもので胸がいつもより何倍も苦しかった

体が人間に戻ったから感情も人間に戻ったに違いない


お兄さんが隣に座って涙を撫でてくれた

何言ってるか分からないけど慰めてくれるのかな?


手にはパンのような物と果物があって、どうやら食べていいそうだ。だけどパンは硬すぎて噛み切れずやっとの思いで二口目で断念。果物は甘さ控えめの酸っぱ苦くて食べるのが大変だった


お兄さんに連れて行かれて、川は沿いに来た。身振り手振りで私が川辺で倒れてた事を知る


「助けてくれてありがとう」


お兄さんに伝わったのか照れたように笑っていた

その日からお兄さんと共同生活が始まった。

アフリカの発展途上国並みの生活は現代っ子の私にはとても辛かった

まず飲める水まで遠い…食べ物が不味い…毎日下痢…お風呂無し…虫刺されまくり…服とか洗濯しない

言葉が通じないとかどーでもいいほど辛い


遠くの川まで飲水を汲みに行った時に、巨大なワニがいて子供が目の前で川に引きずり込まれた

私はへたり込んで動けなかった

みんなもっと騒ぐかと思ったけど全然騒がないの、まるで日常の一コマのよう

母親らしき人の様子を見ても、涙の1つもなかった…


お兄さんが夜に話し来てきた

多分元気ない私を見て心配してるんだと思う、だってマーリンと似たような感じの表情だったからだったから


無理に笑って大丈夫ってジェスチャーする


するとお兄さんは跪いて私の手を取り自分のおでこに付けたり、指先にキスを落としたりしてきた。

自分でやっておいて照れたように見上げてくる


キョトンと見つめる

何がしたいのか、何をしてるのか意味が分からなかった

ニコッと笑って誤魔化すと寝床に押し倒された

柔らかくもない寝床、めっちゃ痛いんですけど?


「あの、何?急にどうしたの?え?キャッちょっと待って!」


服をまさぐられ、胸を揉まれる

怖い!だってお兄さんが急に男の顔になってたから…

「ヤダァ!誰か助けてっ、むぐんー、んー…」


口を押さえつけられ両手を上で捕まれ身動き取れない、お兄さんは器用に足で服を脱いでいて、足で私の服を脱がしていく


ヤられる?!

こんなところでレ〇プ?そんなのイヤー!


ジタバタ暴れると、バチンと殴られて目から涙が溢れる。今までの自分がいかに恵まれて甘ったれだったと思い知る

振り上げられた拳が怖くて目をつぶった

だけど殴るフリだったのか、目を開けたら残酷なほど冷たい目で見下された


何なの?置いてやって食わせてるんだからヤらせろって事なの?


口を塞がれたまま至近距離で視線を合わせてボソボソとひくい声で何か言ってた。

多分脅されてるんだと思う、言う事を聞けとか暴れたら殺すとかかな?


従順になったフリして大人しくする

むしろ、顔や首にキスしてその気にさせる

向こうが油断した隙に地面の砂を顔にぶつけた

砂が目に入ったのか何かアウアウ言って私から離れた所で、私は真っ暗な外へ走り出した


逃げてばっかりだ


何か言って追いかけてきたけど走った、靴は脱いでたから裸足で走った。足の裏の感覚がジンジン痛いだけになっても走った…多分血だらけ


男数人が追いかけてくる声がする

ワニのいる水辺に来ていた、隠れるところなんて……

大きな石をバシャンと川に投げ込み私は船の中に隠れる


追ってきた男たちは川を探してるようだけど、この川にはワニがいるから、中へ入ろうとはしなかった。体を縮めて船に隠れてると流されてるように感じた

流れの早い川じゃないけどゆっくり流されてる


このまま下流へ逃げよう

ワニの川に緊張して気を張ってたけど、いつの間にか寝てた…夢でもワニの川を見つめてたから自分が寝てることに気付かなかった。

起きて辺りを見渡す夢を繰り返し見た、起きなきゃと思ったのにまた夢で…


次に目が覚めた時は太陽が真上に来ていた

どれだけ進んだのかわからない、枝に引っかかって止まっていた


もしかしたらそんなに進んでないのかもしれないし一晩中流されたのかもしれない、けど追いかけて来たら今度は殺されそうだと思ったから枝を折って船を流れに戻した


川辺に実がなってる木を見つけたのは幸運だと思った。船を寄せて手の届く範囲の実を船に放り投げた


ナスとキュウリが生臭くて酸っぱくなったような味だった。残念すぎ

ポチャっと音がしたと思ったら船に魚がダイブしてきた…いくら何でも生では食べられないしね


そして日が暮れるまで船に乗り続けた

あの実が当たったのかお腹痛い、足の裏もまだジンジン痛い


「お腹痛いのにお腹すいたなぁ…」


今更だけどヤラれる方がマシだったかな?

臭くて汚かったけどボロ小屋と寝床あって、不味かったけど食べれる果物とカチカチのパン


両親はともかく「おばあちゃんは心配してるかな?」


人間飲まず食わずでも生きられるのか、あの闇精霊の加護がまだあるのか、あれから3日、船に乗りっぱなしで川を下る

せっかくの魚は置きっぱなしにしてたら腐って虫がたかっていた…


川幅が数キロはありそうな広い所に出た

こんなに広い川をこんな小さなボートで進むのは何だか怖い

水も濁ってきて流れが早くなってきた…

陸に上がり時かな…岸によせてボートを捨てた川沿いを歩く…足の裏が痛い、お腹も痛い、頭も痛い


そして…人がいた!村だ!やった!


……また襲われるのかな?今度は人買いにさらわれて奴隷?もしかして内臓取られて死んじゃうのかも?


「日本に帰りたい…おばあちゃんのマンションじゃなくて私の住んでた小さな家に帰りたい。どうして私が追い出されるの?大学生のお兄ちゃんが一人暮らしすればいいじゃん!家の手伝い何もしなかったくせに!」



――その頃

その兄と父は汚部屋のゴミ屋敷となった家で、カップ麺も捨てず机に放置したまま小蝿が湧いていた。生活能力のない男二人


父親は会社に泊まるようになり、シャワーは会社の福利厚生で提携してるフィットネスジムで済ませ、服はコインランドリーで週に一度自分の分だけする


たまに様子見で家に帰ってきて玄関にカップ麺を置いていく。ドアを開けたら異臭とゴミの山、上の部屋で物音がしたからまだ生きてるのだろう。

帰り際に2階を見上げるとカーテンの隙間から覗く変わり果てた息子の姿


「どうしてこうなった…」

家政婦として娘を呼び寄せるか考えて、そう言えば行方不明だと思い出した。

きっと母親の所に行ったに違いない

スマホの待ち受け画面は娘の高校の入学式のもの、最後にメールしてから随分たった。

助けを求めたら負けなような気がしてこちらからは連絡してない

今日も残業だが、働いてたほうが気が紛れる…

過労死したら救われるだろうか――




足が痛くてもう一歩も動かせない


村は怖くて寄れなかったから川沿いを歩いていたら後ろから袋を被せられ殴られ拉致られた。

つくづく恐ろしい国じゃん


私は今、どこかのキャラバンみたいなのに売られて、荒野を荷物を担がされて歩かされてる

足が痛くて動かせないと思ってたけど体は勝手に動いてる…変な煙吸わされて感覚が麻痺してるから自分で動いてるのかもわからない

同じ奴隷小屋に捕まった人は私よりガリガリで皮膚病が痛々しい


あのまま船に乗って海まで行けば良かったのかな?でもワニに食べられてたかもしれない

最初の村のお兄さんとヤッてたら今頃は臭く汚い小屋でカチカチのパンと不味かったけどまだマシな実でも食べれたかな?どの道売られてたかもしれない


どれだけ歩いたかわからない、7日目までは数えてたけどもう忘れてしまった…そして大きな街に着いた


奴隷は服を剥ぎ取られ1列に並ばされた

多分競売かな?毛色の珍しい私はジロジロ見られた。羞恥心もないよ…ただ他の奴隷は2本指建てて話してたけど、私の時は5本だったから倍額で取引きを持ちかけてるのだと思った


金持ちそうなヒゲ親父が私に向かって何か言うけど意味がわからないし

ジェスチャーで何か言えと言われてる気がした


「カントリーロー…」

高く買われたほうが大事に扱われるんじゃないかと思って歌ってみた



「え…日本語?」



ポソッとそんな声が聞こえて振り向けば、褐色肌の青年と目が合った


「助けてっ!私は日本人です!」



――その人はこの国の十三番目の王子様だった

地方都市の視察をしていて、たまたまお忍びで街に来ていた所に、懐かしい日本の歌が聞こえてきたと


私は転移だったけど、彼は転生で10歳の時に前世の記憶に目覚めてサムウェル・ムハサマド・ターリー・アルラシード

長いからサムって呼ばせてもらってる


同郷のよしみと多分私がサムの好みの女の子だったから離宮の部屋の1つを貰って囲ってもらった。

お風呂に入って服をもらい、医者に足を手当てしてもらい、虫下し?みたいな薬を飲ませてもらった


私の話をしたけど、にわかに信じがたいと言われて

闇の精霊の加護があるのか霊視?できる人に見てもらう事になった


本場のシャーマンってこんな感じの人なんだろうなと不気味な見た目といかにもな道具を広げられ

結論から言うとガッツリ闇の精霊の加護が張り付いていた。私は何も頼んでないのに剥がそうとしたけど返り討ちにあったらしい、シャーマンのおばあちゃんが倒れた


「んなっ!シャルマーシャ殿が老婆に?!」


「え?どこが変わったの?最初から老婆じゃん」


「£µⅽⅴⅳ £πµⅽ €πµ¢(殿下お下がりください)」


シャーマンの幻術か何かで若い美女を装っていたらしい、その術が剥がれて元の姿を晒したようだ

サムも怒ってたけど、サムの近衛騎士がシャーマンのおばあちゃんを切り捨てた


目の前でスプラッタ事件がっ!


「こ、殺す事ないじゃん…」


「幻術を使って城に入る事は禁止されてるのだ、それとこの術は禁呪に分類される。マリは自分が老婆にされそうだったのに気付いてなかったのか?」


「…私?」



サムは親切で、自立するにしてもこの国の言葉を知っておけと講師をつけてくれた。時々私の所に訪ねてきて食事していい雰囲気になる頃にサムの婚約者達がぞろぞろと迎えに来る


リアルハーレムとかキンモー…無理無理ナイナイうわぁ


一夫多妻の国でサムの婚約者は8人いるらしい。サムは18歳になると婚約者達とまとめて結婚式を挙げて地方都市に引っ越すとか。

そこで市長みたいなポジションをもらうらしい

その前任者の市長の娘2人も婚約者なのだとか


私はそのハーレムメンバーから嫌われてる。公爵令嬢を筆頭に序列があって、奴隷として拾われたのに奴隷から解放されサムの関心を引いてるから

女の敵は女だね…


ある日、夜中寝てる時に男数人に拉致られた

寝間着のまま縛られて馬車の荷台に転がされる、ゴトゴト運ばれ夜が明ける頃にようやく馬車から降ろされた


どうやら今度は確実に殺されるらしい、ワニのいそうな川を前にナイフを向けられた。

刺し殺して川に捨てたらワニが死体処理するって所かな?

ハーレムはキモかったけど今度こそ助かったと思ったのになぁ…


「もういいや…私なんか生きてたって仕方ない。ひと思いにサクッと殺してから川に捨ててよ、生きたままワニに食べられるのは痛そうだなぁ」


鋭いナイフがキラリと光った

次の瞬間、首にチリっと電気が走ったみたいに熱くなった

私が動いたら、首から血が噴き出てそれは激しい痛みに変わった

汚い足で腹を蹴られて後ろの川にドボンと落とされる


これで終わるのね…走馬灯かな?思い出が駆け抜ける――


「はっ!…あれ?首が」


「お嬢様お目覚めですか?」


マーリンが椅子に座ってこちらを睨んでた


「そんなに睨むなら助けてくれなくて良かったのに…ティーカップ割ってごめんなさい、ずっと謝りたかったの」


マーリンは驚いた顔をする


「私が簡単に謝らないと思ったの?」


「違う…助けなくて良かったなんて、どうして?

お前は最後まで僕を呼んでくれなかった、本当に死ぬところだったのに馬鹿なの?!」


「私の事をずっと見てたの?」


「…だって心配だったから」


「困ってる所でカッコよく助けに入ればヒーローになれると思った?」


「うっ…名前を呼ばれるまで待ってたのに」


「はぁ…」


「どうしたら僕の事好きになってくれるの?僕はこんなにも好きなのに…どうしたら昔みたいに愛してくれるの?何をすればお前は僕を愛してくれるんだよ」


「だって別の人間だもん。愛の形なんてみんな違うのに、思い出の中の理想通りじゃないからって私を否定しないでよ。もっと早く助けてくれても良かったじゃん」


「僕だってもっと早く助けたかった!だけど名前を呼ばれるまで出ていけなくて…自分の力でどうにもできなくなるま待ってたのに」


「誰の入れ知恵か知らないけど…右も左も分からない世間知らずの15歳の女子高生を言葉も通じない異世界の発展途上国の貧困層の村に無一文で放置するって前提をしっかり伝えてる?」


「ぐっ…伝えてない。入れ知恵ってどうしてわかったの?」


「悪意の入れ知恵をくれるやつとは縁を切りなよ。

恩どころか殺意しか沸かないよ、最初に豹に食われてあのまま死んだほうがマシだって思ったからね?」


「えっ!何で?」


「魔王様を怒らせたから絶対に帰れないと思ってたの。マーリンは前に町ごと消したじゃない?…戯れに生かされてるだけだと思ってたから、マーリンの所に帰るって選択肢が一度も思い浮かばなかったなぁ」


「そんなぁ…じゃあ僕が陰ながら見守ってたのって全くの無駄だったの?」


「私は私なりにマーリンの事好きだったのよ?

今は殺意のほうが勝ってるかな。好感度マイナスに振り切れた感じ?」


「え!僕の事好きだったの?」


「事あるごとに過去の女と比べられたら千年の恋も冷めるわ」


「そんなぁ」


「逆の立場で考えてみてよ?

私が理想のお兄ちゃん像を語って、お兄ちゃんなら自由に買い物させてくれた、お兄ちゃんなら焼菓子作ってくれた、お兄ちゃんなら可愛い黄色い子犬を買ってきてくれた。マーリン早くお兄ちゃんになってよ…とか言われたら困るでしょ?」


「…僕はお前の兄じゃないよ?」


「ね?そう思うでしょ?私もマリーさんじゃないのよ。

チーズケーキなんて作ったことないよ。柳川風鍋も実家ではあご出汁使ってたし。グラタンだって鶏肉じゃなくてベーコンとポテトだった…」


「ごめん。マリの言ってることがやっと解った。マリは、どうしたら僕の事また好きになってくれるの?」


「マーリンが…マリーさんじゃなくて、私を好きになってよ」


「マリーじゃなくてマリを?…最初からずっと好きだよ?」


「マリーさんの代わりでしょ?」


「違うよ」


「違わないよ…マーリンの好きな人はマリーさんでしょ?今も昔もマリーさんじゃなきゃ満足出来ないのよ。

もしマリーさんが飛び出したらすぐに追いかけたでしょ?

危険な目に遭ってたら助けたでしょ?

大事なら死ぬまでほっとかないよ。私だから死ぬまで見てられたのよ」


「違う!…僕がどんな気持ちでお前を見てたのか分からないだろ」


「私、もう2回は死んでるのよ?多分実際はもっと死んでるよね?

荒野を歩いてる時も加護が無かったら死んでた…虫下し飲まされるような汚い川の水も飲んで、食べられない木の実食べてお腹下して、足の裏がぐちゃぐちゃでバイキン入って足を失ってたかもしれない。

魂(メンタル)が擦り切れるよ…マーリンなんて…私が死んで永遠に一人になればいいのよ。

昔の恋人の幻を永遠に追いかけてれば?」


「何でそんな事言うんだよ!マリの馬鹿!マリなんて大っ嫌い!僕のマリーウェザーはそんな事言わない!お前はマリーウェザーじゃない!僕のマリーじゃない…お前なんて勝手にどっか行けよ!」


「じゃあ加護外してよ?今度こそ死んで元の世界に戻るから。死ぬと輪廻の輪に帰れるんでしょ?転生者のサムが言ってた

今度は男に生まれ変わって一人で生きていきたい」


「人は誰しも一人では生きていけないんだぞ」


「浅く広く付き合えばいいよ、現代人は誰しも深い繋がりばかりじゃない」


「加護を消すと死ぬぞ?いいのか!」


「そうだと思った…こんな世界に未練なんてないよ。ティーカップ割った事は謝れたし

私がいくら愛してもあなたは永遠に満足出来ないんだよ」


「僕が嫌いって言ったから?嘘だよ僕がお前を嫌うはずないじゃん!

嫌だ、僕を一人にしないでマリ大好きだよ

もう言わないから!昔のことを全部忘れたっていい!僕を呼んでよ!お前が僕を嫌いでもいい、一緒にいてよ」


「ごめんね…多分ここに来る前から心が壊れてたんだよ色々あったから」


「どうしたらいいの?壊れた心はどうやったら治せるの?」


「もう遅いよ…誰かの代わりじゃなくて、私を必要とされたかったんだと思う」


「僕はマリが必要だよ?」


「全部無かった事にしてやり直せるほど私は強くないの…お願いもう死なせて…狂いそう」


「死んでも狂っても離してやるもんか!ずっと一緒にいるって約束したじゃないか」


「ごめんなさい…」

涙が溢れてポタポタ落ちた


気持ちが深いところまで沈んでいく、真っ暗になって何も感じなくなった、死ぬってこう言う事なんだ


夢を見た――

ちゃんと男に生まれ変わって、彼女も人並みに何人か付き合って別れて…両親に愛されて、美味しいカルボナーラが作れるお姉ちゃんがいて、犬や猫を拾ってきては一緒に世話して習い事もたくさんやらせてもらって、そこそこの高校へ通って大学生も卒業して就職した。

お姉ちゃんが結婚して寂しかったけど、すぐに里帰り出産して、旦那さんより先に赤ちゃん抱っこして、お風呂とかも手伝って…

前世は27歳の普通のサラリーマン!普通が一番だね


何故かある日、ゲームの世界に転生して…ヨーロッパ風の白人の伯爵令嬢だった。

白髪碧眼の美しい聖女になって…闇の精霊と契約して、ダンジョン攻略して闇妖精、吸血鬼、深海魚、堕天使と次々陰キャな仲間を増やして…そんな長い夢を見てた


夢の中で私はマリーウェザーって呼ばれてた

闇の精霊と仲良くて…だけど…あるぇ?私マリーウェザーじゃん?

マーリンは何で封印されたんだろう?



――そこで目が覚めた


ムクッと起き上がるとマーリンが驚いた顔でこっちを見てた


「あっ……マリ?今、自分で起きたの?」


「おはよう」


「マリ、目が覚めたの?マリが喋って僕を見てる…うぅぅ…目覚めて良かったマリィ…グズッ」


「うん、なんかごめんね?ヨシヨシ泣くなよ。本当ごめんね…体がバキバキだ、私はどれくらい寝てたの?」


「寝すぎだよ、お前は10年くらい寝てたぞ」


「長っ!は?そんなに寝てたの?…もしかしてずっとそうやって待ってたの?」


「違うよ、お前は感情のなくなった人形みたいだった。スープも1日一口ならゆっくり食べるけど…目は見えてるのか分からなくて、どこを触ってもお前は何も感じてないみたいだった、声も出さなくて。

心が壊れて死んだと思ってた…それでも一緒にいたくて体を世話してたんだ。

毎日話しかけて、散歩して、僕は料理だって作れるようになったんだぞ!(※スープのみ)

お風呂だって毎日入れてやって、髪は何故か色が抜けて真っ白になった…あれ?目の色も変わってる?青くなった…何で?」


「本当だ、髪も随分伸びたね。邪魔だし背中辺りまで切ろうかな?10年も介護させちゃってすまん、ありがとうね。諦めないで待っててくれて…本当に愛だね」


「2人だけの世界だったけど、すごく幸せな時間だった…

僕の手からスープを一口飲ませるのが楽しくて愛おしくて…マリを生かしてるのが僕だって神にでもなった気分だった。

僕が選んだ服を着せて散歩に出かけて、お前はすぐ疲れて動かなくなるんだ

そうなると、僕がお姫様抱っこして運んでやってた。いつも眠る前に本を読んであげてたんだ。おやすみのチューして…そして明るくなって朝起きた時におはようのキスをするんだ。

さっきキスしてお前の目が覚めたんだ

昨日読んだ物語のおかげかな?愛する王子様のキスで目が覚めるお話。ちゃんと聞いてたんだな」


「は?…歪んだ性癖に目覚めたの?」


「え?」


「冗談だよ。魔王様のキスで目覚めたよ!ありがとうマーリンこの世界で一番大好き」


「僕も…僕も大好きだよ…マリの目に愛情が浮かんでる。ずっとお世話してたから僕の思いが通じたんだね?ウレシイ」


「うんそうだよありがとう」


サラリーマンだった自分も伯爵令嬢だったマリーウェザーも、ちゃんと愛されて育ったから、愛が何か解ってたんだ。

15歳でメンタル弱ってたマリを追い詰めて殺したのはお前だけどな?10年も世話してもらったしチャラにしてやるよ


さて、13番目の王子様に仕返しでもしようかな?よくも暗殺者仕向けてくれたなメス豚どもめ!殺してくれるわ!

王子様が実は種無しだって知ったら大騒動になるかな?子を産めないと泣いてる妻がいたら下剋上だね


ダンジョン行ってスキルボード手入してまたレベル上げしよーっと

今生は伯爵令嬢じゃないからノブレス・オブリージュ関係ないし?婚約者とか御家事情とか面倒事も無い。

マリは大人びてる(老けてる)から20前後くらいに見える、15歳のぷるぴちボディで不老不死とかまさに理想じゃね?キャハ

あー、でも何度か死んでるから、前職だった大聖女チートになれないだろうなぁ

闇神官ダークプリーステス闇女教皇ダークハイプリーステスならなれるかな?

いっそ狂科学者マッドサイエンティスト目指そうかな?

あ、前世では適性が無かったけど今度は魔法剣士になれるかも?ムフフ


「ふふっマーリンずっと一緒にいようね、今度はちゃんと守ってね?」

「うん、今度こそ死んでも離さないから」

「メンタル豆腐なんだから無理すんな?」

「目が覚めたら別人みたいだ…」

「10年も寝てたら別人になるよ多分」

「そうなのかな?」

「そうなんだよ、責任とって幸せにしてねダーリン」

「僕、マリーじゃなくてちゃんとマリが好きだよ?」


うん、寝る前にそんな事言って喧嘩してたな。愛に飢えた若い娘の心の叫びだね

ここは心の広い大人な対応をしてあげようと思う


「何年前の話ししてるの?あれから10年経つのにまだ根に持ってたの?私は微塵も気にしてないからお前も気にすんな」


「えっ」


あれぇ?自分で思ってたよりも怒ってたんだな

死ぬまで放置された腹いせが口から溢れた


「そんな事よりダンジョン行こうよ!場所知ってるでしょ?邪教の遺跡ダンジョンを先に行ってから街ダンジョン行こう。あそこまだ温泉残ってる?有資格者チャレンジャーなら秘湯ステージ解放されるよね?

スープを一口とかお腹すくし!朝食ぱぱっと作るから午前中に買い物行くわよ!アイテムボックスは…使えるなヨシッ!」


マーリンがえ?え?みたいにアワアワしてたけど、ささっと着替えて朝食作りにとりかかった


「僕も出来る!朝食は作れるのに…あっ、そのパンはいつ買ったか分からないやつ」


「は?これパンだったの?じゃこれカビ?うわぁ…捨てろよ!」


鈍臭いのは昔から変わってないな

仕方ないから面倒みてやんよ

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闇の精霊の封印解いたら愛が重かった ワシュウ @kazokuno-uta

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