第2話
ゴールデンウィークの悪夢───いや、醜態から早いもので、もう二週間が経った。そしてまた、僕と
そう、懲りずに来ているのだ。客はその時々で異なるから、まぁイイ。だけど店員さんは、そうではない。前回の醜態を知っている店員さんもいるに違いないのだ。
・・・いや、いるのだ。僕と楓さんが入店したとき、何人かの顔が引きつっていたのを、僕は見てしまっている。彼ら彼女らは、僕たちの醜態を見聞きしていたに違いない。そんな場所に、またしても僕たちは来てしまっている。
「
楓さんは相変わらず三国志の話をしている。三国志を絡めたダジャレを言っている。
ちなみに
しかし、つい今しがた、楓さんが言っていたのは、そのことに関してではない。ではでは、どういうことか、というと・・・。
まず始めに、三国志というのは大きく二つに分かれていて、歴史書としての【
そのうちの【
けれども、【
楓さんは、そのことに対して、『チョー運がイイ』と言ったのである。イマイチよく分からない人物が、今や人気キャラにまで成り上がっているのだから、それはたしかに運がイイといえるだろう。
ちなみに楓さんは、
ちなみに、幼い子供といっているが、正確にいえば、赤子───つまりは、赤ちゃんである。楓さんは、赤ちゃんを見殺しにしろ───という考えを持っているのだ。う~ん、やはり鬼畜である。
とはいえ楓さんは、【
そんな【
つまり、どういうことか、というと───。
「なにを難しい顔をしてるんだい?」
ハッ! いけない、いけない。楓さんの三国志ダジャレを無視して、考えごとをしてしまっていた。なんとか上手く取り繕わなくては。
「えっと・・・、超ウンコしたいんです」
「ブハッ!
よし、ウケた。ハッキリいって、楓さんは笑い上戸である。三国志ダジャレであれば、ほぼ確実に笑うのだ。そして下ネタにも耐性がある。決して引いたりはしない。だから彼女を笑わせるのは、
しかしながら、そんな楓さんに対し、僕は呆れている。例の如くに呆れているのだ。三国志ダジャレを連発するから、呆れているのだ。しかし話題を変更することは出来ない。なぜなら、またしても醜態を晒してしまうことに、なるかもしれないからだ。
「『超ウンコしたい』と『趙雲、越したい』か。なるほど、キミは立派な将軍になりたいんだね」
いえ。将軍になんて、なりたくはないですよ?
「あ、そうだ。聞こうと思ってたことがあるんだけど・・・」
「なんですか?」
「万華鏡、見る?」
「ブフォッ!!」
思わず、吹き出してしまった。楓さんの発した言葉に驚き、吹き出してしまった。前回に引き続き、またしても吹き出してしまった。そして、これまた前回と同様に、楓さんが紡いだ言葉により、僕たちの周りにいる客はそれぞれの会話を止め、皆が一斉にこちらを見た。しかし、それらのことを楓さんは気にするでもなく、続ける。
「ねぇ。万華鏡、見たい?」
「ねぇってば。ワタシの万華鏡は見たくないのかい?」
いつも見てるみたいに言わないで下さい!!
「ワタシの万華鏡はキレイなんだよ」
いつもは汚いんですか!?
「キミには見て欲しいな。ワタシの万華鏡は特にキレイに見える筈だから」
なにか特殊なことでも、したんですか!?
「ま、万華鏡ですね!! 万華鏡!! あの、キラキラしてるヤツ!!」
僕は大声で叫んだ。
とにかく、楓さんに正しいイントネーションを伝えなければ! そして周りの客たちには、万華鏡のことだと伝えなければ!
そんな思惑から、僕は大きな声で叫んだのだ。すると・・・。
「ほら。昔、言ったよね? たまに体験教室に通ってるって。この前、そこで作ったんだ。───だから万華鏡も見てくれるよね?」
あ~。楓さんが中学生のときに、そんなことを聞いたなぁ。ランチョンマットを作ったり、エプロンを作ったり───って。なるほど、今回は万華鏡を作ったのか。それを見せたいんだな。とはいえ・・・。
「万華鏡、見たいよね?」
見たいです──とは言いにくい。変わらず楓さんのイントネーションが
困ったことに、今回は一つの単語である。だから前回のように、単語の並びを入れ替えるという手法は使えない。このまま正しいイントネーションを叫び続けるしかないのだろうか。しかし、万華鏡、万華鏡と大声で連呼していたら、それはそれで
「ねぇねぇ。万華鏡、見たいよね? 興味あるだろ?」
興味はありますけど!!
「万華鏡ですよね!! あの、クルクルと回して中を見るヤツですよね!!」
「あ、あぁ・・・。そうだけど・・・」
楓さんの顔が、引き気味である。まるで、『なんで、そんな分かりきったことを言ってるんだい?』という感じだ。
「もしかして、ワタシの万華鏡は見てくれないのかな? この前、栗とリスの写真は見てくれたのに」
それ、やめて!!
「リスと栗です!! リスと栗の写真です!! リスと栗なんです!!」
周りの人間に対し、とにかく大声で叫んでいる僕はまるで、無実を訴えている囚人のようである。
「栗とリスは見てくれたのに、万華鏡はダメなんだね・・・」
「見ます!! 見ますから!! クルクルと回して中を見る万華鏡を、見ますから!! キラキラしてるヤツを見ますから!!」
そのあと、程なくして、僕たちはカフェから立ち去った。
・・・出禁になるんじゃないかな。
その発言は危険です!! @JULIA_JULIA
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