その発言は危険です!!

@JULIA_JULIA

第1話

 駿河するが かえでさんは、一つ年上のお姉さん。僕は中学生で、彼女は高校生。去年までは同じ中学校に通っていて、同じクラブに所属していた。そのクラブで意気投合した僕たちは、彼女が中学を卒業してからも、ちょくちょく会っている。そして、今日も。


 ゴールデンウィークの中頃。陽気な空と同じく、僕の心は晴れやかだ。なぜなら楓さんと会っているからだ。彼女とは趣味が合うし、話をしていて楽しい。だから僕は陽気になっている。とはいえ僕は、いわゆる陽キャではない。陽気だけど、陽キャではない。どちらかといえば、陰キャ。しかし今は、陽気な陰キャだ。・・・なんだか、ややこしいな。


 しかしまぁ、僕の心が陽気であることに違いはない。しかしそんな陽気な心は、やがて曇ることに・・・。


「でね、でね! そこで張紘ちょうこうを突っ込ませたんだよ! 長江ちょうこうに、張紘ちょうこうを突っ込ませたんだよ!」


 ・・・また、ダジャレですか?


 楓さんが興奮気味に語っているのは、三国志のゲームの話だ。ちなみに張紘ちょうこうというのは、三国志における三つの大国の一つ───【】という国の文官だ。文官とは、端的にいえば、政治家や官僚のようなモノである。そして長江ちょうこうは、中国大陸を流れている大河のことで、楓さんの今の話の中では、戦場を表している。つまりは水上戦───船同士の戦いのことを、楓さんは言っているのだ。


 しかし、そんな事務仕事を生業とする張紘ちょうこういくさの先陣を切らせて、尚且なおかつ、そのことを嬉々として話している楓さんは、見ようによっては鬼畜である。


 いや、それ以前に・・・。休日にオシャレなカフェへと男女二人で来て、三国志ダジャレを言っている所業こそ、鬼畜といえるだろう。






 さて、三国志といえば、史実をもとにした物語───三国演義が有名だろう。とはいえ、そこらの中高生は、そんなモノには興味などない。ましてや女子高校生ともなれば、尚のこと。今ではゲームのお陰か、三国志の知識を持っている若者も少しはいるが、それでも全体数からすれば、微々たるモノ。よって楓さんの周りには、三国志の話が通じる相手など殆ど存在しないらしい。とはいえ、全く存在しないワケではない。それなのに、わざわざ休日に僕と会っている理由は、他にある。


「・・・・・・・」


「ねぇ、聞いてる? 長江ちょうこうに、張紘ちょうこうを突っ込ませたんだよ?」


「あ、すみません・・・。長考ちょうこうしてました」


「ブハッ! アハハッ! や、やるねぇ・・・」


 下らないダジャレの応酬。これこそが、楓さんが僕と会っている理由であり、中学時代に意気投合した要因だ。しかし、ただのダジャレではいけない。三国志がらみのダジャレでなければ、いけないのだ。それによって今尚いまなお、僕は楓さんと交流を持てている。だから楓さんがオシャレなカフェで三国志ダジャレを言っていようとも、多少は我慢をしないといけないだろう。


 とはいえ、流石に呆れてきた。飽きてはいないが、呆れてきた。会うたび、会うたび、ダジャレ三昧。華の女子高校生が三国志がらみのダジャレを連発しているとなると、三国志が好きな流石の僕でも、流石に引く。せっかく楓さんは、可愛い顔をしているのに。


「それから! それからね! 曹操そうそうを、早々そうそうに退却させたんだよ!」


 曹操そうそうとは、三国志における三つの大国の一つ───【】という国の・・・って、もうイイ! 三国志ダジャレ以外に喋ることは、ないんですか!? もっと、なんかこう、女子高校生らしい可愛いらしい話は、ないんですか!?


「でもね、総大将の曹操そうそうを退却させちゃったから、そのいくさは負けちゃったんだよ! 早々そうそうに!」


 そのプレイ方法に、なんの意味があるんですか? ネタ作りのためですか?


「えっと・・・、三国志以外の話は、ないんですか?」


 三国志ダジャレに呆れてしまっている僕は、ふと訊いてみた。楓さんは女子高校生なのだから、それらしい話題の一つや二つ、ある筈だ。いかに三国志が好きだとしても。


「え? 三国志・・・、以外?」


 キョトンとした顔を見せる楓さん。その顔を見て、僕は思う。


 そんなに意外ですか?


 僕たちは、いつも三国志の話をしている。とはいえ、流石に驚きすぎではないだろうか。たまには三国志以外の話をしたいと望んだら、いけないのだろうか。


「あ! あった、あった! この前ね、珍しいモノを見たんだよ! それを写真に撮ったんだ!」


 えらくゴキゲンな様子でそう言うと、自分のカバンからスマホを取り出し、手早く操作をして、その画面を僕に見せる。


「ほら! 栗とリスの写真!」


「ブフォッ!!」


 思わず、吹き出してしまった。楓さんの発した言葉に驚き、吹き出してしまった。そして楓さんの大きな声によって紡がれた言葉により、僕たちの周りにいる客はそれぞれの会話を止め、皆が一斉にこちらを見た。


「ほらほら! よく撮れてるでしょ? 栗とリスが!」


「リ、リスと栗の写真ですね!!」


 楓さんを凌ぐ大声で、慌てて訂正した僕。いや、訂正というよりも、修正か。とにかく順番が悪い。その二つは、前後を入れ換えないとマズい。しかも、どういうワケか楓さんのイントネーションが少し可笑しい。


「可愛いでしょ? この栗とリス!」


 いやいや、ちょっと待って! わざとですか? わざと言ってるんですか? リスはまだしも、栗は可愛くないですよね? それはダジャレでは済みませんよ!!


「か、可愛いなぁ!! リスが!!」


「栗とリスの写真なんて、珍しくない? これ、ここの近くの公園で撮ったんだよ?」


 露出狂かよ!


「ここの近くに、リスなんて、いるんですねぇ!!」


「初めて撮ったんだけど、キレイに撮れてるよね? この、栗とリス、キレイだよね?」


「リスと栗が、キレイに撮れてますねぇ!!」


「キミは好き? 栗とリス!」


「もうイイです!! 三国志の話をしましょう!!」


 その後、楓さんは何事もなかったかのように、再び三国志の話をなんとも楽しそうにするのだった。



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