第21話

「本当、可愛い人だよね、青山は」


「なぁにー?もしかして馬鹿にしてるの?」


「ふ。してないしてない。本当にそう思ったんだよ」




唇を尖らせて不満げに眉を寄せる青山。そんな、見慣れたいつもの表情。




それは俺の物にはならない。



俺はレオ君に遠慮してるんじゃない。心酔してるんだ。



だから、レオ君の世界を壊す事は俺の美学に反する。



それに板挟みにされて苦しむのは青山だから。






「じゃあ、あたし帰るね。ユキ、練習頑張ってね」




部室の壁にピンク色で刻まれた


"NOAH"の文字。


不意にその景色を思い出した俺に、ある感情が芽生えた。




「うん。頑張るよ」







"ノア"と呼んでみたい。







「また明日ね。ノーーー」


ガタタン。ガタタン。高架下に響き渡る快速の電車。




「うん。じゃあねユキ」



きっと青山の耳には届かない。


勇気を出したなんて言ったら大袈裟だけれど、覚悟にも似た何かが電車の音で掻き消された事実に俺は苦笑した。






ノアと呼んだ事も。俺が陰ながら抱く気持ちも。




悔しいから、教えてあげない。







結露。溢れた訳じゃない。


それは…ただただ、表面に滲み出た、感情の断片。
















結露 by長谷川雪夜



挑発BABY文庫化御礼小説



【完】

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結露 by 長谷川雪夜。挑発シリーズ文庫化御礼小説【完】 @sei-goldwolf17

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