ロシア・ウクライナ戦争 消耗戦とその先

加藤 良介

   ロシア・ウクライナ戦争 消耗戦とその先

 2022年2月22日に勃発したロシア・ウクライナ戦争は、当初の予想通りの長期戦となっています。2014年のクリミア侵攻も含めれば、十年の月日が流れておりますが終わる気配はありません。

 開戦当時から本日に至るまで、この終わりなき戦争をチェックしていますが、"国家"という組織が持つ強靭性に驚くばかりです。



 ・展開と現状


 この戦争は、開戦当時は電撃戦の様相を呈していました。

 ロシア軍はベラルーシ方面、ドンバス方面、クリミア方面、ハルキウ方面の北部、東部、南部の広い地域から組織的に侵攻。瞬く間にウクライナの首都キーウに迫り、ハルキウには砲弾の雨が降り、東部、南部戦線はロシア軍に飲み込まれました。

 その後、ウクライナ軍の粘り強い遅滞戦術によりロシア軍の足は止まります。そして、2022年秋の大反攻作戦。多くの地域がウクライナ側へと戻り、私も喜びのエッセイを書きました。

 そこから2年以上。

 この戦争は近年まれにみる消耗戦となっております。


 消耗戦とは、どちらも戦闘の主導権が取れず、戦線が膠着した状態で損害を出し続ける状態です。

 私がチェックしている情報筋では、ロシア軍の一日の死傷者数は優に千人を超えているようです。ウクライナ軍の損害についてはどこも報じてくれませんが、少なくとも数百人単位の死傷者が出ていると思われます。

 一日ですよ。わずか一日で、千人単位の兵士が死傷するって・・・

 単純計算すると、一年で36万5千人があの世へと旅立ちます。報道によると開戦以降ロシア軍の死傷者数は60万人を上回っているのではないとか、とのこと。

 私は素直に驚きました。

 (。´・ω・)?。そんなに死んで、よく、組織として存続してんな。と

 日本の自衛隊が二回ほど全滅しても、まだ足りません。三回目にリーチがかかっている状態です。

 毎日毎日、多くの兵士が死んでいくけど、戦線は動かず戦争の終わりは見えない。

 この世の地獄です。

 地獄というものは、あの世にではなくこの世にあるもので、それは人間の創作物の様です。



 ・膠着状態


 この手の陣地をめぐっての消耗戦は、第一次世界大戦以来の事でしょう。

 去年は西側の戦車が供与され、ロシア軍の陣地を突破する事が出来るのではないかという期待がありましたが、はかない夢と潰えました。

 あれほど、強い強いと言われていた西側の戦車たちは、ロシア軍の陣地戦を突破する事が出来ず、多くが撃破されています。

 陣地を突破するために開発された戦車が、陣地を前に立ち往生。陣地が勝ちました。

 素人見解で言えば、数が足りていないのでしょうね。戦車で陣地を突破するためには、広大な戦域から一斉に津波の様に大量の戦車が押し寄せなければならないのでしょう。10台20台程度では簡単に阻止される。千台以上の戦車が、やられてもやられても次々と押し寄せていく必要があるのでしょう。

 そんな数の戦車は、ロシア軍にもウクライナ軍にもありません。

 あったとしても運用できないでしょう。開戦してもうすぐ三年。多くの兵士が死亡しております。戦車の運用ができる兵士には限りがあります。


 ウクライナ軍は戦車を中心とした反攻作戦は諦めたように見受けられます。クルクスに侵攻した部隊は、タイヤで走る装甲車を中心とした部隊でした。

 一方のロシア軍の戦車不足も深刻なようで、T55のような骨董品を送り込んでいるらしい。

 ( ゜Д゜)//何年前に作った戦車だ。むしろよく持っていたな。捨てていないことに驚きです。

 しかし、悲しいことに兵士には限りが無いようで、毎日毎日ウクライナ軍の陣地に突撃してきます。そしてバタバタと死んでいきます。


 一部で期待されているF16戦闘機も、事態を動かす力を持っていないのかもしれません。

 10機20機では大した力にはならないでしょう。結果を出すには200機は必要かもです。

 


 ・なぜ、ロシア軍は消耗戦に持ち込んだのか。


 答えは簡単です。

 勝率が一番高いのが"消耗戦"だからです。

 消耗戦を言い換えるのであれば"根競べ"です。痛みにどれだけ耐えられるかの勝負です。

 ロシア軍としても多くの資材や資金に人命まで損なわれますが、勝つ可能性が一番高いので採用しているのでしょう。

 この認識は正しいと思います。

 ゲームで例えるのであれば、HPが高いのはロシアです。ガンガン削られても総量が多いのであれば許容できるでしょう。痛みを感じなければ続けられます。



 ・人命軽視が強み。


 この消耗戦という戦闘形態は、人の命をどれだけ安くできるかが勝敗を分けます。

 そしてロシアは伝統的に人命が安い国です。これはロシア公国時代からの伝統ですので、今更変えることも出来ないでしょう。

 自らの強みを生かして戦うのは、兵法の常道です。

 我々の様に人命を重んじる国の人間には、耐えられない世界と言えます。

 なぜ我々先進国が人命を重んじるのかと言えば、社会の構成員として必要不可欠だからです。

 商社で働こうが鉄工所で働こうがコンビニで働こうが、給料に違いは有れど皆必要な人材です。それは社会がより複雑化、多様化している証左です。

 しかし、ロシアの社会はもっと単純です。

 天然資源と農産物が主な産業。これらはあまり雇用を生まない業種か、経済的に価値の低い業種になります。ロシアには経済的に質の高いと呼ばれる製造業は、軍需産業しかありません。

 軍需産業は派生するその他の産業が限定的になります。

 この様な産業形態により、必然的に人が余る傾向が強まり、それが人命軽視につながっているのでしょう。



 ・裁兵戦略


 漢字がうろ覚えですので、もしかしたら間違っているかもしれませんが、広い意味では軍隊の人員整理の事を指す中国の用語です。

 普通の感覚からすると兵隊を少なくする戦略に聞こえますが、人員整理先が問題でして・・・


 結論から言いますと、兵隊さんにはあの世に行ってもらいます。具体的にはウクライナ軍の防衛ラインに突撃していただきます。

 そうなると優秀なウクライナ軍が、彼らの費用と手間で処理をしてくれます。 

 はい。兵隊が減りました。軍縮完了です。なんならウクライナ軍に損害まで与えてくれます。


 一見すると気が狂っているように聞こえますが、残念ながら正気です。

 突撃するロシア軍部隊は、ぷーちんにとって不必要な人々によって構成されているからです。

 自身に逆らう政治犯や、イスラム系のロシア人、その他の少数民族出身の人々。

 ぷーちんの考える「偉大なロシア(w)」にとって必要のない人々に、合理的にいなくなってもらう戦略です。ついでにウクライナ軍にも負担を押し付ける事が出来て、一石二鳥です。

 歴史を見るに、割と同じ考えの持ち主は多いですね。

 元寇や秀吉の朝鮮出兵なども、軍縮としての戦争に分類されるでしょう。



 ・一ミリでも前に進みたい。


 人の命は長くても100年です。

 しかし、土地の命数はどうでしょう。千年、二千年程度はそのままでしょう。ならばどちらを重視すべきかは、考えるまでもありません。

 百名の命で5メートル前進できれば、土地を確保する事が出来ればロシア軍としては大勝利です。

 言い換えると人命が軽いのではなく、土地の価値が法外に高いのがロシアという国です。この辺りの感覚は、海岸線により領土が確定している、我々には理解しがたいものが有るでしょうね。



 ・いつ頃に終結するのか


 残念ながら、この手の戦争に明確な終わりはないように思えます。

 有識者の間でも、"2025年に終結したら速い部類だ"との認識が一般的の様です。

 第一次世界大戦は、ドイツ軍水兵の反乱がきっかけで終結しました。同じ様相を呈するためにはまだしばらくの期間が必要なのでしょう。


 トランプ氏は自身が大統領になれば、すぐにでもこの戦争を終わらせる事が出来ると言っていますが、私は懐疑的です。

 いかに彼がぷーちん野郎に肩入れしたとしても、この戦争は終わらないと思います。

 なぜならば、戦争を終わらせる力がロシアに残っていないからです。ロシアに軍事援助でもするのであれば別ですけどね。

 アメリカの支援が止まったとしても、ウクライナ軍は粘り強く抵抗するでしょう。貯金を使い切ったロシア軍には毎日5メートル前進するのが精一杯です。やがて、双方が力尽きての停戦か休戦。そして何年かしたら、また火薬に火が付いて燃え盛る事でしょう。

 これだけの経済的損失や人的資源の喪失を受けても、ロシアは国家としての形態は保てるでしょう。



 ・結論


 我々は国家と言う人間の共同体が持っている強靭性を、軽んじるべきではないと考えます。

 特に大陸型資源国は、長期にわたる経済的苦境に耐える事が出来ます。このような国の考える安全保障と、我が国のような通商海洋国家が考える安全保障は、その発想の根本から違うと言えるでしょう。


 安全保障の議論をする時は、自分の立場だけを考えていても通用いたしません。相手側の価値観や歴史観、文化形態までも組み込んでの理解が必須と言えます。

 自分がこう考えるから相手もそうに違い、などと言う考え方ではお話になりません。

 いっそのこと、宇宙人と会話するつもりで交渉するほうがいいでしょう。


 また、昨今の物価高についてもこの戦争の影響を軽んじるべきではありません。

 先日の選挙で物価高対策を政治家たちが口にしていましたが、現状の物価高は外的要因によってもたらされているのですから、日本の政治家に出来ることは補助金のばら撒きぐらいしかできることはありません。

 本当にインフレ率を懸念しているのであれば、ウクライナ戦争について真剣に考えるべきでしょうね。

 我々の身近な話題として。



             終わり




 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 本エッセイの予測が外れて、戦争が早期に終結することを願うばかりです。

 訂正のエッセイを書かせてくれ。頼むよ。

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ロシア・ウクライナ戦争 消耗戦とその先 加藤 良介 @sinkurea54

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