第三食:完成した料理に更なる改革を

 メリゼに対する突然の質問に戸惑うイヅナだったが、冷静に務め、返答をする。

「猪肉は蜜雫林檎ハニーアップルの果実を漬けたものなんです。この果実には肉を柔らかくする酵素と肉の臭みを消す甘い風味がありますので。」

「果実を漬けたステーキ…工夫に奇を徹してますね。私には無い発想です…しかし、この猪肉は柔らか過ぎて、歯応えが足りず、甘さが濃くて、猪肉の味を殺してます。」

 メリゼの叱咤にイヅナは驚き、頭を下げた。

「すいません、意見はご尤もです! 歯茎が弱い人でも食べやすいようにしましたが、いかんせん、味を改良しようと思ったので、それを遅くにしてすみません!」

「今後は改善を早くするよう心掛けて下さい! 客は待ってくれませんよ!」

「はっ、はい!」

 イヅナの掛け声にメリゼは我に返り、辺りを見回せば、厨房で働く子供達や客である村人達に注目され、顔を赤くし、今度は彼女が頭を下げた。

「私、家柄というか、料理に対して熱くなり過ぎて、周りが見えなくなる癖がありまして、その…いきなりですみません。私はメリゼ・マイケルと申します!」

「あの…イヅナ・イワムツカリと申します! この度はご貴重な意見を頂き、ありがとうございます! こちらこそ宜しくお願いします!」

 イヅナはメリゼの両手を握り締め、互いに目を合わせ、赤面しながらも、微笑みあった。

 その光景にムッとした表情で嫉妬したソフィーは二人の間を無理矢理に割って入り、メリゼを睨み付けた。

「ちょっと! イヅナの文句なら、この未来の婚約者として約束した私、ソフィー・テオドアールお姉ちゃんが許さないわよ! そんなに言うんだったら、貴方が作ってみなさいよ、味に自信があるなんちゃらを!」

 ソフィーに言われたメリゼは暫く考え込み、ぶつぶつと呟いた。

「植物の酵素で肉を柔らかくするステーキ…あのレシピと似ているなら…少し、厨房をお借りします。」

 メリゼは厨房を物色するや否や、冷蔵庫から色々材料を取り出し、調理に掛かった。

 まず、大輪花ジャンボフラワーの赤い花弁菜を氷水に漬けて冷やしている間に、蜜雫林檎ハニーアップルを千切りにし、一口大に切った猪肉に巻きつけた。

 そして、氷水を拭き取った赤い花弁菜を巻き付け、フライパンに焼き付かせた。

「果実と猪肉の花弁包み、Bon appétit召し上がれ。」

 皿に置かれたのは焦げ目が付いた花弁菜に巻かれた猪肉と蜜雫林檎ハニーアップルの千切りであった。

「これがメリゼさんの料理…」

「ふん! お手並み拝見ね!」

 イヅナは恐る恐る、ソフィーは息巻いて、メリゼの料理を口にした。



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ロストレシピ〜幻想異世界最強料理人決定戦〜 @kandoukei

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