あいつはもういない

白川津 中々

◾️

好きなタイプと聞かれたので「お前」と答えたら付き合う事になった。

最初は友達の延長だったが次第に相手の感情が愛へと変わっていったのが分かったし、何度も肌も重ね、「好き」という言葉も違和感がなくなるくらい聞かされた。ただ、その頃にはもうタイプじゃなくなっていた。


「別れよう」


そう切り出すと、彼女は泣き始めた。そういうところがもうタイプじゃないんだとは言えなかった。


大切にするとか大切にしたいとか、そんな重みが嫌だった。ただ軽薄に笑い合って、それでいてお互いに別の人間とも夜を過ごしたりするような気楽な間柄がよかった。


どうして彼女は俺を愛したのだろう。昔のままで、友達みたいなままでよかったのに。


付き合うんじゃなかった。


静かな部屋。二人掛けのソファに腰をおろして考える。あいつはもう、どこにもいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あいつはもういない 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ