第42話

2日後の夜、直人くんが早乙女さんの家にお菓子を持って帰ってきた。

話を聞くと、ご両親に同居人である俺と喧嘩したことで早乙女さんに迷惑を掛けたから、との事らしい。

そういう事をちゃんと親に言えるのが偉いなぁ、と関心した。

ただ、直人くんは冬休み中は早乙女さんの家に来ないと決めたらしい。


「玲二さんも、ごめんなさい…」

「俺は別に…」

「玲二が許すなら俺も許す」


そう言われて許せない訳もなく(というか元々そんなに怒ってないけど)、俺は直人くんから貰ったお菓子を食べた。



***



早乙女さんは今日から1泊2日の出張らしいので、泊まっていた直人くんが家に帰るということで、2人まとめて俺がお見送りをすることにした。


「直人、遅い」

「ごめんごめん!隼人兄ちゃん、送ってくれなくてもいいのに」

「ついでだ」


今日から一人なのが寂しいなぁ、とは口が裂けても言えない。

そんな事言えたらもっと他に言えることがあるし。


「玲二さん、頑張ってね」

「あ、うん…」

「?」


遡ること昨日の夜、早乙女さんの入浴中にリビングで勉強中だった直人くんが俺の元にやってきて、耳元で一言呟いた。


『玲二さんが隼人兄ちゃんの事好きって言わないなら、俺が隼人兄ちゃんのこと貰うから』

『冗談は…』

『本気だよ。嫌なら頑張って』


子供にそんな事を言われるだなんて、情けないと思ったし、言えたら苦労してない。

だって早乙女さんは俺の事なんて―――。


「なんの話だ?」

「隼人兄ちゃんには内緒❤ね、玲二さん?」

「ごめんね早乙女さん」


自分の気持ちも言えないくせに、直人くんには早乙女さんを取られたくない、自分の気持ちが矛盾してるのは百も承知だ。

早く好きだって言ってしまえば、楽になるだろうに、関係性が変わるのが、嫌われて家から追い出されてしまうのが怖い。

俺はいつだって臆病者だ。


「俺先に駐車場行ってるね!バイバイ、玲二さん!」

「分かった。玲二、行ってくる。何かあったら直ぐに連絡してくれ」

「ん、行ってらっしゃい。お仕事、頑張って…んっ!?」


早乙女さんのマフラーを首に掛けようとしたら、早乙女さんに腰を掴まれて、唇に軽くキスをされた。


「じゃあな」

「な、あ、あっ…!」


驚きのあまりに声も出せずにいた俺を放置して、早乙女さんは家を出た。

この人は俺の気も知らないで……!!

でも、早乙女さんからキスされるの、好きだなぁ。

優しさが伝わってくる、俺のことを大事にしてくれているんだなあって思う。

でもそれだけ。

そこに好きはないから。

それでも俺は早乙女さんが好きだ。


「言わなきゃ…ダメだよな……」


キスをされた後の唇に触れて、俺はまだまだ悩むのであった。



***



これで俺の気持ちが少しは伝わっただろうか、玲二とキスした唇に触れて、駐車場へと足を運ぶ。


「いや、まだだな」


ただ、積極的にはなれない。

玲二は俺を、あの時の玲二の希望だった隼人くんとしてしか見ていないからだ。


「どうしたもんか」


俺が玲二をそういう目で見始める様になったのは、一瀬の事があってからだった。

玲二に酷いことを言ってしまったと後悔していたのに、それでも玲二が俺に助けを求めてくれた事が嬉しかった。

初めは守りたいという気持ちだけだったのが、玲二を一人の人として大切にしたいという気持ちに変わった。

なのに玲二ときたら、ヤクザに拉致されるわ自分からあの父親の元に行くわで、俺のことをさして気にしていない様子で、俺の精神は正直言ってボロボロだった。

もう辛い目には遭わせないと、玲二を見つけた時に、うちに無理やり引き抜いた時に誓ったのに。


『早乙女さん』


俺が隼人くんだと気づいても尚、玲二は俺のことを名前で呼ばない。

名前で呼べと言えば呼んでくれるが、そんなことを求めている訳じゃない。

玲二の中の俺は、あの時の隼人くんで止まったまま、俺の好意が玲二に伝わる事はない。


「はぁ…」

「隼人兄ちゃん、ため息なんてついてどうしたの」

「何でもない」

「社長、行きましょうか」


既に駐車場に車を停めていた最上に、直人の家に行くように伝え、俺たちは車に乗り込んだ。

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