呪解(読·毒·得)師
しょうわな人
第1話 呪解師、祝長流
その男は深夜丑三つ時に誰も参ることの無い山奥の
「クフフフ…… 今日で三日目…… 後二日で僕ちゃんの物に……
錆びた五寸釘、樹齢百年を越える松、稲藁で作られた
人形の両手両足部分は既に五寸釘が打ち込まれている。
男がいよいよその人形の胸に五寸釘を打ち込もうとしたその時に声がかけられた。
「お〜い、止めとけ、止めとけ、兄ちゃん。その人形には既に呪返しを施してるから、それ打ち込んだら今までの分も含めてぜ〜んぶ、兄ちゃんに返ってくるぞ」
自分以外に誰も居ないと思っていた男はギョッとして声の方を見た。
「だっ!? 誰だ! お前!?」
「あ〜、俺? 俺はとある人から依頼された
「クッククックッ…… 呪解師だぁ〜? まさかインチキ職業に依頼するとは、僕ちゃんでも思わなかったよ。ここで君を気絶させてこの五寸釘を打ち込めば永遠に天音たんは僕ちゃんの物になるんだ!! 邪魔はさせないぞ、インチキ野郎め!!」
男は突然あらわれた年若い男にそう宣言して構えた。中々堂に入った構えをしている。
「クックックッ、僕ちゃんは道新空手の世界大会で二位になった実力者だよ。インチキ野郎、今すぐこの場を去るなら何もしないでおいて上げるよ」
男はそう言って不敵に笑う。けれども言われた方は動じる事なく言い返す。
「あ〜、道明寺の道場な。あそこで世界大会二位って凄いじゃないか。何でこんな事してるんだ、兄ちゃん?」
「クックックッ、道明寺師匠を呼び捨てとは怖いもの知らずめ! なぜこんな事をしてるのかって? 天音たんが僕の愛を受け入れないからに決まってるだろうがっ!! もう良い、インチキ野郎は死なす!!」
その言葉と同時に鋭く踏み込んでくる男。そして素晴らしい速さの正拳突きが決まったかに見えた……
「なっ!? ガハッ!! バッ、バカなっ!!!」
しかし、腹に苦痛を覚え膝をついたのは正拳突きをした呪い装束を身にまとった男の方だった。
「いや〜、さすがに速い突きだったよ。まあ、俺には遅く見えるんだけどな。さてと、それじゃ拘束させて貰おうか」
そう言って男が前に出た瞬間に呪い装束の男は膝をついた状態から一気に飛び下がり、人形の前に立った。
「クッ、グフッ、もう遅い! これで天音たんは僕の物だぁーっ!!」
止める間もなく五寸釘を人形に打ち込んだ男は途端にビクンッと身体を跳ねさせ……
「なっ、何で…… 僕ちゃんの心臓がと……ま…… ……」
その場に崩れ落ちた。
「あ〜あ、ちゃんと教えてやったのに…… 呪返し済みだって言ったろ? まあもう聞こえないか……」
「さて、依頼も終わった事だし帰ろ」
「って、待ちなさいよ!!
「あっ!? そう言えば一緒に来てたっけ、
「呼びつけといて何で忘れてるのよっ!!」
「いや〜、依頼が終わったと思ったら気が抜けちゃって、ハハハ」
園山と呼ばれた女性は警察官で呪詛対策課の巡査部長。一緒にいる木高は園山の部下で巡査である。
昨今、謎の死を遂げる人々が多くなり警察庁からの通達で一般人には知られずに人知れず各都道府県警に併設された部署である呪詛対策課。
そんな部署に回された園山は呪いなんてある筈が無いとやる気が無かったのだが、この祝と組むように上司である課長に言われて、実際に何度か呪いを目の当たりにしてからは徐々に自分の目で見たものを信じ始めていた。
「まあ、取り敢えずこの男がご当地アイドルの坂崎天音を呪っていた犯人です。後はよろしく〜、園山さん」
「クッ、また後始末だけ…… 」
何故か悔しそうに言う園山。
「いや、俺はちゃんと犯人に言ってたでしょ? 呪返しを施してるって。なのに行動しちゃったコイツが悪いんですよ」
「あんたはそれで良いでしょうけどねっ!! この後、辻褄合せの為にどんだけ書類を書かされるか!! この木高が!!」
「園山さんが書くんじゃないんか〜い!」
思わず突っ込む
「何で私が! 部下とはこういう時の為に居るのよ!!」
「園山先輩…… 自分、警察辞めていいっすか?」
本人そっちのけで言い合ってたら、木高からそんな言葉が漏れた。
「なっ!? ダメよ、木高!! あんたが辞めたら私が書類を書かされるじゃない!!」
その言葉に笑う祝。
「ハハハ、部下思いのいい先輩ですね、木高さん」
「
木高が呪詛対策課に志願して異動した理由は、呪いなどそうそう無いと考え、仕事が楽だろうと思ったからだった…… ダメなヤツである。
「まあ、こっから先はお巡りさんのお仕事という事で。俺はこれで失礼しますね」
そう言ってその場を後にする
当代随一と言われる呪解師の
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