第3話 呪殺は可能
覆面パトカーを停めると制服警官がやって来るが、木高が手帳を見せると敬礼して元の位置に戻っていく。
「木高さんが刑事に見える」
「どういう意味っすか
「そのままの意味だけど。行きましょうか」
「先輩、僕は
「あんたは私の部下でちゃんと
園山も冷たく答えて歩き出した。
「何であんたが居るのよ、
「俺が居ちゃいけないのかよ、園山? 同期だからって舐めた口きいてたら犯すぞ!」
「ちゃんと録音した木高? 美也に聞かせるから!」
「待て、園山。美也には聞かせるな、俺が悪かった」
「相変わらず園山さんと仲が良いですね、遠山さん」
長流がそう挨拶すると遠山はチッと舌打ちしながら言った。
「インチキ野郎まで来たのかよ」
「ハハ、俺の評価は変わりませんか」
長流は気にせずに笑い飛ばすが、園山がキレる。
「ちょっと祝はインチキなんかじゃないわよ!」
「すっかり毒されてるなぁ園山。お前も呪いなんて
「フンッ、百聞は一見にしかずよ」
刑事同士が言い合ってる時に遠慮そうに声がかけられた。
「あの、私は一体どうすれば」
声をかけた女性が富里町の町長らしい。見た目が四十代のその女性を見た長流は眉を
『呪詛されてるな』
内心でそう思いながら口を出さずに刑事に任せる長流。
「失礼しました石川さん。これが担当者の園山です」
呪詛対策課は一般には秘密の為に担当者として紹介する遠山。
「はじめまして、担当の園山と申します。富里町の町長さんですよね? ご面倒でしょうが別室で最初からお話を伺えないでしょうか?」
「はい、コチラにどうぞ」
女性である園山が担当者だと聞き、また丁寧な物言いにホッとした様子を見せる石川。案内された部屋は応接室だった。
『ここにもあるな』
長流は部屋に入るなり呪詛の気配を感じ取る。部屋の中をウロウロとする長流。
長流のそんな様子はもう慣れたとばかりに石川の対面のソファに座る園山と木高。
けれども石川は長流が気になる様で園山に聞く。
「あの方はお座りにならないのですか?」
「アイツは私たちのアドバイザーでして。何か気になる事があるようですから、そのまま放っておいて大丈夫です。最年少町長として話題だった石川さんですよね。ちょっとお疲れのようですが大丈夫ですか?」
園山が女性らしい気遣いを見せるも石川は気丈な様子を見せる。
「はい、大丈夫です。私の秘書が亡くなってしまい」
「秘書の方は残念でしたね。医師の診断では心不全とお聞きしていますが、石川さんは秘書をされていた宇賀さんが呪われていたと遠山に仰ったそうですが、そう仰る根拠のような物でもあるのでしょうか?」
園山が聞くと石川は持っていた鞄から三通の封書を取り出して手に取れるように机の上に置いた。
「拝見させていただいてもよろしいですか?」
手袋をしながら園山が聞くと頷く石川。園山が封書の一通に手を伸ばそうとした時に長流から声がかかった。
「待った。その封書にも呪詛が込められてる」
いつの間にかソファの間に立つ長流が園山が伸ばした手を掴んで封書に触れないようにしていた。そして、石川の方を見て言う。
「何度かこの封書に触れられましたね?
長流の言葉に怯えた様子を見せる石川。
「わ、私も呪われてしまっているのですか!?」
「大丈夫、落ち着いて下さい。先代の町長からお聞きしておりませんか? 俺が
長流がそう名乗ると石川が目に見えてホッとする。
「貴方が! お名前は聞いていたのですがその時は呪いなんて信じてなくてメモも何も取らずに…… 聞こうにも先代の町長の中山さんは既に鬼籍に入られてましたし。助けていただけますか、祝さん!」
「勿論ですよ、石川さん。先ずは貴女にかかった呪詛を解きましょうか。良いですか、園山さん?」
「それは構わないけど、急ぐ必要があるの、祝?」
「このまま放置したら明日には石川さんも心不全で亡くなるほどには」
淡々と言う長流の言葉にヒッと言葉を漏らす石川と、
「急がないとダメじゃないっ! 早くしなさいよっ!」
慌てだす園山。
「ここで直ぐに解きますから」
長流はそう言うと石川の背後に立ち、
「
祝を唱えた。
「終わりましたよ。ついでに呪詛に掛かりにくいようにしておきましたからね。石川さん、その封書を俺が見させて貰っても構いませんか?」
「はい、よろしくお願いします」
「ちよっと、祝! ホントに呪いを解いたの?」
園山の言葉に
「毎回同じ事を聞いてきますけど、飽きませんか園山さん?」
呆れる長流であった。そしてそのまま封書の一通を手に取り中身を取り出して読み始める。
「ああ、伊弉冉系ですね。土佐神明党の奴らだな。手の込んだ事をするなぁ。親父の代の頃に関わった事があるけど。呪返ししても良いけどアイツらもそれなりに対策はしてるだろうし。どうするかな?」
ブツブツと言う長流に園山が焦れた様に聞く。
「どうなのよ、祝? 犯人は分かったの? 何処に居るのよ?」
「犯人の関わりがある組織は分かりましたけど、誰なのかと何処に居るのかまではまだ分からないよ」
長流が言うと園山は「そう、それじゃ調べないとね」と言うが、石川は不安になったのか長流に聞いた。
「それでは私はまた呪われるのでしょうか?」
しかし長流はニッコリと微笑み、
「安心して下さい。
そう言って一つの石がはめ込まれた腕輪を手渡した。
「これを身に着けておけば良いのですか?」
「はい。
そう言われて腕に身につける石川。長流は続けて言う。
「もしも、貴女の周りで気分が悪くなって倒れたりした人が居たならばその人には近づかずに園山さんに連絡して貰えますか? その人が組織の人間である可能性が高いので。まさかこの人がと思うような人であっても必ず連絡を入れて下さい。じゃないと貴女も秘書さんのように呪殺されてしまいますよ」
その言葉に必ずそうしますと返事をした石川を見て、「さて、では失礼しましょうか」と言ってその場を後にする。
覆面パトカーに乗り込みながら園山は長流に聞いた。
「アレで大丈夫なの祝?」
「大丈夫ですよ園山さん。近い内に石川さんから連絡が来ますからその時は俺にも声をかけて下さい」
そう言って長流は目を閉じてしまい何を聞いても何も言わなくなった。
そして二日後、石川から園山に連絡が入ったと長流を迎えに来た木高から聞いた。
「さて、それじゃ犯人を捕まえに行きましょうか木高さん。
迎えに来た木高にそう言って長流は覆面パトカーに再び乗ったのだった。
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